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老いて食べたいカレーは昭和風ですか、インド風ですか、欧風ですか?(小原信治)

老いは人生の醍醐味である。

 老いは人生の醍醐味である。
 のっけから結論めいた一文で始めてみたのは、毎週「老い」をテーマに文章を書き続けて来て、僕なりに老いとは何たるかを掴んだから、ではない。残念だけど。

 ただ単に「醍醐味」という言葉を使いたかっただけだ。設問をくれた藤村くんにも聞いてみたかった。
「ねえ、醍醐味ってどんな味か知ってる?」
 僕は知らなかった。醍醐の味も知らずに醍醐味なんて言葉を使っていた。そもそも醍醐が食べ物なのか飲み物なのかも知らなかった。後醍醐天皇なら知ってるけど関係あるのかな。藤村くんは料理家だから口にしたことあるのだろうか。平安時代に生まれた「醍醐」なるものを。

 とはいえ本題ではないので醍醐がどんなもので、どんな味なのかは後回しにして、今週も老いという人生の醍醐味について「カレー」を題材に語ろうと思う。ちなみに藤村くん、これ「カレー」と「加齢」を引っ掛けているわけじゃないよね? はい、違いますね。今回は2021年9月の映画メシで取り上げた「その日、カレーライスができるまで」が話の発端だ。激しい雨の夜、誰もいないアパートに帰ってきたリリー・フランキーさん演じる主人公が三日後に迫った妻の誕生日に向けてカレーを作る、という短編映画だ。

「三日目のカレーが一番美味しいよね」と家族で笑い合った在りし日の想い出。そんな昭和的なエピソードが根底に流れている。

そもそも昭和風カレーとは何ぞや

 カレーライスの原体験ほどその人が生まれ育った時代や土地が伺い知れる料理も少ないのではないだろうか。藤村くんじゃないけど好き嫌いも含めて。ラーメンもか。それほど時代とともに多様に進化し続け、かつ常に国民的な定番メニューのひとつに君臨し続けているからだろう。芸能界で言えばジャニーズみたいなものか。あるいはもっと大きな括りでアイドルとかロックとか。

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