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人生の黄昏、夕日の向こうに何が見えますか?(小原信治)

8年掛かりのドキュメンタリー

 放送を聴いていた田邊アツシ監督がツイッターでコメントを下さった。

「素敵なお話、嬉しく拝聴しました。『マゴーネ』を取り上げてくださり、ありがとうございました」

 6月9日からシネスイッチ銀座で公開中の映画『マゴーネ 土田康彦「運命の交差点」についての研究』

 コメントの行間から立ち上って来たのは田邊監督がヴェネチアにアトリエを構えるアーティスト土田康彦さんを追い続けた「8年」という時間だった。田邊監督は1971年生まれの52歳。人生のおよそ6分の1をこの映画に費やしたということだ。週に一度放送される番組を8年間作り続けたのとはワケが違う(それだって凄いことなのだけれど)。7年間土の中で過ごした蝉の幼虫が夏の盛りに10日から二週間だけ木に留まってジージー鳴いているのを見ているような刹那を感じた。ぼくらの放送はその「8年」に少しでも報いるものになっていただろうか。その「8年」ぼくは何をしていたのだろう。誰と出会い、誰と別れたのだろう、と———。

夕日が孤独を連れてくる

 田邊監督もそして1969年生まれの土田康彦さんも、ぼくや藤村くんと同世代だ。同じ時代に、同じ国で生まれ育った。今ほど社会も文化も多様化していなかった時代である。ひとり一人の個性が理不尽な校則で黒塗りにされていた時代である。ジャパンアズナンバーワン。日本経済を支える優秀なサラリーマンを育成する為の画一的教育。受験戦争。偏差値偏重。腐ったミカンの方程式。息抜きは漫画とルービックキューブとゲームセンターと歌謡曲だった。そういうものに対する反発、そしてMTVやニューシネマという文化的黒船の影響も大きかったのだろう。大人になったぼくらはこの4人だけを切り取ってもこれほどまでに違う花を咲かせている。そのことがとても興味深かったし、嬉しかった。この健全さこそが、ぼくが子供の頃、学校教育に強く希求していた自由だった。

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