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モノカキがちょこっとアドバイスします(1)

 とにもかくにもモノカキTIPSでございますけれども、今回はいつもとはちょっと違うタイトルになりましてですね。というのも、今までと毛色の違うご質問をいただきまして。

 その質問がこちら。

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 ということで、書いた文章に対して、プロの目線からなにか指摘してもらえませんか? という内容。なかなかね、モノカキTIPSでは新しい形でございますね。まあ、じっくり読んで、がっちり添削、というのは諸事情でアレかな、とは思いますので、ざっと読んでみて、気になった点について、ちょこっとアドバイス的なものをさせて頂こうかなと。

 指摘内容によって、「甘口」「中辛」「辛口」の三段階で回答していこうかと思いますのでね。質問者さん的に、厳しいこと言われたくない!みたいなんがありましたら、中辛の頭くらいで引き返していただくとよいのではないかなと思います。

 では、チェックしてみましょうー

■その前に

 チェックしてみましょう―、と振ってからいきなりの前置きですけれども、一応、ちょっとお話をしておいた方がよいかなと思いますので、本題の前にご一読くださいね。

 noteに限らず、HPやSNSなど、ご自身で発信する媒体をお持ちの作家さんは多くいらっしゃってですね。一般の方から「自分の文章を読んでください」と頼まれる、という経験をされている方も結構多いらしいんですよ。

 そこでね、議論になるのが、作家はそれにこたえるべきなのか?ということでして。というのも、プロ作家は、書いた文章に対価を支払ってもらうことで生活しているわけです。アマチュアの方の文章添削、アドバイスの依頼なども、やっぱり対価を取ってやるべきだ、という考えの方もたくさんいらっしゃいます。プロ作家ともなると、スクールの講師としてお金を頂ける立場ではあるので。あとね、単純に忙しい方多いですからね。

 僕の場合、noteでノウハウを語ったり、質問に答えたりしているのは、興味を持って下さった方に自分の作品を知ってもらう、という目的もありますし、それを「対価」と考えています。なので、記事はすべて無料で公開しておりますし、こういった「読んでください」系のお話も受け付けてもいいと思っております。が、他の作家さんの場合は考え方が違う方もいらっしゃるので、僕が受けたからと言って、じゃあ他の作家さんにも聞いたろ!というのはやめたほうがいいかなあと思います。その点だけ、なにとぞご注意くださいませ。

■アドバイス~甘口~

 さて、ざっと文章を読ませていただきましたけれども、なかなか雰囲気のある文章を書かれるなあ、と思いました。まだまだ日本語を操り切れていない部分も目立ちますけれども、大人になってようやくこれくらいの文章を書けるようになった、という人もわりと多いので、高校一年生という年齢を考えれば、ポテンシャルはあるのではないかなと思います。

 ただまあ、ご自分でも少し感じていたのかもしれませんが、誤用がちょっと多いかなあと思いますね。まだ、「なんとなくどっかで見た」「なんとなくこんな感じの言葉を聞いた」というくらいの言葉を、感覚だけで使ってしまっているように見えるので、一つ一つ、しっかり自分の言葉として使いこなせるよう身に着けていきましょう。

 例えば、「一皮むける」は成長することのたとえですし、「差し迫る」は、物事がひっ迫して余裕がなくなること、「居を構える」は、自分の家や住処を建てて、居住することです。「白亜」は石灰、チョークのこと。転じて白いことを形容する言葉なので、染料やペンキの類ではなく、「染める」という言葉とはあまり組み合わせないですね。また「宵闇」は、真夜中ではなく、夕方、陽が落ちてすぐくらいの時間帯の暗さを指す言葉です。

 まだかなりたくさん誤用があるので、読むときも書くときも、しっかり辞書を引く習慣をつけてみてください。

■アドバイス~中辛~

(1)描写の「リアル」に配慮しよう
 今回は描写が中心の文章でしたが、質問者さんの描写は、特に「気候」や「光源」などについて、イメージとリアルとがあっていないのではないかな、と思いました。

 冒頭で「青白い雪が」とあるので、シチュエーションとしては雪の夜なのでしょうが、フードを下ろした「人物」は、晴れた星空を見上げています。雪が降っているのに空が晴れている、という状況はなかなかないこと(ありえないわけではないですが)なので、ここは雪の夜か晴れた夜か、どちらが正しいのかな?となりますね。幕のように煙るくらい雪が降っている状態で、なおかつ空が晴れている、というのはありえないかもなあと思います。

 それから、水分量の少ない「粉雪」が降る夜というのは、かなり気温が低いはずなんですよね。地表近くでも氷点下であるはずです。噴水は水が凍ってしまいますし、水が溢れ出していたのだとしたら、凍ってツルッツルになるはずですね。もし、魔法などの効果なのだとしたら、一言説明を入れる必要があります。

 また、雪の結晶は音の振動を吸収します。なので、序盤で「靴が音を響かせる」という描写がありますが、雪の日はまず足音が響きません。

 書いているものは十九世紀を舞台にしている、とのことでしたが、この文章だともっと昔、十五~十六世紀くらいの世界のような印象なんですけれども、そういう「電灯」のない時代って、夜はめちゃくちゃ暗いんですよ。作中、光源として出てくるのは星明りと蝋燭(街灯?)なんですが、それだけだとマジでなんも見えないはずです。お城の遠景などはシルエットしか見えないと思いますし、外壁が白い程度では、光を放っているようには見えないかなと。
 せめて、満月くらいの月明かりが必要になるのですが、月明かりがあるとすると、「闇」という言葉は使いにくくなるので、暗闇の空気感を優先するか、明るさを確保して建物や風景の描写をするか、どちらか選ばないといけないですね。

 また、明かりのない城外の道を歩く場合は、ランタンのような携行の光源がないと、半歩先も見えない暗闇の中を、手探りで歩くはめになります。視点人物は三人称の神の視点なんですが、やはり、暗闇の中を歩く「人物」の外見を描写するには、その人を照らすなんらかの光源が必要です。

 細かいことではありますが、描写にはある程度のリアリティを持たせた方が読者に状況が伝わりやすくなりますし、物語世界に引き込みやすくなります。現実の物理法則とは違う世界観なのであれば、説明を入れたほうが親切ですね。

 こういった描写のリアリティを支えるのはやっぱり自分自身の経験なので、例えば、雪の夜に外を歩いてみるとか、クソ田舎の街灯のない道でライトを消してみるとか、いろんな経験をしてみるといいのではないかなと思います。

(2)視点(カメラ)の動きに気をつけよう
 冒頭からずっと、視点は「人物」を客観的にみる「三人称客観視点」になっていると思います。最初は、遠くから「人物」を見ているのですが、次の瞬間には「人物」の間近に迫って来ていて、服や表情などの描写をしています。かと思うと、城を俯瞰で見て、塔の屋根を描写し、と、ちょっとカメラワークが激しく動き過ぎといいますか。
 読者の頭の中では、作者ほどスムーズにカメラは動かないので、あまり激しく視点を動かすと、どのスケールで風景を想像すればいいのかわからなくなってしまいます。

 なので、冒頭で城の遠景を説明した後、「人物」の近くにカメラを寄せたのであれば、そのまま「人物」の近くからの視点で話を進めていった方がよいですね。

(3)「空気感」を考えて言葉を選ぼう
 小説には、その作品の空気感に合った言葉というものがあります。今回の文章は全体的にやや重ためで耽美な空気感を演出していると思うのですが、ところどころ空気感があっていない言葉が使われていて、ちょっとひっかかることがありました。

 例えば、「~的」「美意識」「発光」「時間帯」などは、わりと近現代に使われるようになった言葉という印象なので、作中の時代感であれば、もうちょい時代がかった言葉を使った方が、重厚感が出ます。
 ひっそり閑」も、日本の民話とか歴史ものという感じがしますし、「ぼーんぼーん」という擬音もポップすぎるかなあ。

 このへんは感覚と語彙力の問題だと思うので、いろいろなジャンルの小説を読んで、掴んでいってもらえるといいかなと思いますね。

(4)独特すぎる表現に注意
 これも言葉で説明するのがすごく難しい部分なんですけども。

 独自の言い回し、独特な表現というのは書き手のセンスが発揮されるところなんですが、そのラインを引き間違えると、読者には「ぴんとこない表現」になってしまうんですよね。

 例えば、「僅かな灼熱を吟味するかのように黙りこくる」とか、「知性に彩られた美貌の城」などの表現は、(わからないこともないですけど)ちょっと独特すぎてぴんと来ないなあ、という感じがします。

 とはいえ、自分独自の言い回しを追求していくというのはモノカキにとって大事なことなので、チャレンジはどんどんしてほしいんですけどね。まずは、いろいろな小説を読んでみて、言語センスをもっと磨いて、「これはさすがに伝わらないかもしれない」というラインを見極められるようになるといいかなと思います。

(5)書くところと書かないところ
 たぶん、質問者さんは頭の中で映像を浮かべながら文章を書くタイプかな、と思うのですが、その脳内イメージを全部書きすぎているかなあ。今回の文章は、物語だとすれば、導入部分・冒頭の文章になろうかと思います。そう考えると、ちょっと長いし、描写がくどく感じますね。

 「ファンタジー世界を舞台にした純文学」が書きたいのであれば、またちょっとアドバイスも変わってくるんですけども、一応、エンタメ前提でお話しますね。

 読者の一番の興味は、書き手が見ている世界を見ることではなく、「この人物は誰なのか」「何をしようとしているのか」というストーリーにあります。なので、ストーリーが動かないまま描写だけが続いていると、なんこれ、よくわからないなあ、という感覚になっていきます。

 頭の中で詳細にイメージすることは大事なのですが、そのイメージが100あるとしたら、小説に必要なものは10くらいです。情景描写というのは、あくまでストーリーを読ませるために世界観を伝えるもの、ストーリーに彩りを与えるものなので、情景描写にばかり注力してしまうと、やや独りよがりの文章に見えてしまいます。イメージのうち、本当に必要なもの以外は書かず「行間」に埋めてしまい、読者に想像する余地を与える、というのも大事ですね。

 逆に、ここはもっと書いてほしい、というところもありまして。

 序盤で「人物」のフードが脱げたところはなぜ脱げたのかが読者にはわからない(突風?)ですし、扉を解錠するシーンも、何が起きているのかイメージしにくいなあという気がしました。「なんやかんや巧妙なことをやったので開きました」では、ちょっと不親切ですね。作者は、錠がどういう構造で、「人物」がどうやって解錠したのか、ある程度正確なイメージを持たなければいけませんし、読者に伝える必要があります。

 もう少し、書くところ・書かないところを見極めて取捨選択できるようになると、よりよい文章になると思います。

■アドバイス~辛口~

 さて、細かい指摘は甘口・中辛でまとめましたけれども、全体を通しての感想は、「文章が粗い」です。

 例えば、「すらりと」という言葉が何度も使われていたりですとか、「ばかりの」という言葉が連続する箇所があります。「静けさ」「暗さ」を表す描写が何度も続き、かなり冗長になっていますね。質問者さんなら、もっときれいな文章にできたんじゃないかな、と思います。

 なのに、どうしてこうなったかと言えば、やはり推敲をしていない(or足りない)からだと思います。

 ここからは、文章を書く上でのメンタリティの話になりますが、どんな文章であっても、誰かに読んでもらうからには、出来る限り推敲して、自分なりに整えた文章を提示するのが、(たとえアマチュアであっても)モノカキとしてのマナーなんじゃないかな、と思います。

 趣味の範囲内で、自分が楽しければいい、という文章であれば、気ままに書き綴ってもいいと思うんですよ。でも、誰かに読んでもらう、ましてや、プロに評価してもらいたい、ということであれば、全力で推敲して、自分が今できる最大クオリティの文章にしないといけないんじゃないかなと。やってできなかったのと、できるのにやらなかったのとでは、やはり読んだ時の印象が違うわけなんですよね。

 それは、小説だけでなく、どんなものでもそうです。読書感想文でも、レポートでも、プライベートのメールでも。人に文章を読んでもらうということは、その人の時間を自分のために使ってもらうということですし、もっと推敲を大事にして、読み手の気持ちを考えながら書くといいんじゃないかな、と思いました。

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 というわけで、甘・中辛・辛、という三段階に分けて、ちょろっとアドバイスさせていただきました。モノカキは、読者をイメージすることで文章力がアップしていきますから、趣味の創作とはいえ、読み手を意識しながら書いていくといいんじゃないかと思います。

 頑張って書き続けてください。

 モノカキTIPSでは、自分の文章にアドバイスをください!的なものも受け付けて行こうかと思います……が、いきなり長編を送ってもらっても読めないので、①短文(2000字くらいまで)②文章の校正はしない ③ストーリーの修正案は出さない という条件で、お引き受けすることにしますね。

 よかったら質問箱に投稿してみてください。

 文庫新刊も発売しました!こちらも何卒よろしくお願いいたします。

小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp