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『彩無き世界のノスタルジア』のウラバナシ(2)

 いよいよね、映画『名も無き世界のエンドロール』の公開も近づいてきまして、コロナ禍の中においても盛り上がりを見せてきておりますけれども、先月刊行の続編『彩無き世界のノスタルジア』もね、読みました、と言って下さる方もいらっしゃって、ありがたいかぎりでございます。中には、『彩無き~』も映画化してほしい、というお声もありまして、嬉しかったですね。僕もしてほしい(血涙)

 というわけで、今回は『彩無き世界のノスタルジア』のウラバナシ第二弾をお送りしようかなと思います。

■前作と同じ書き方で書いてみた

 前作『名も無き世界のエンドロール』は、ほんとに結末だけ決めて、キャラクターの名前とか背景、ストーリーの時系列もエピソードも何にも決めずにとりあえず頭から書く、というやり方で書いた作品で、プロットらしきプロットも立てず、どことどこが繋がるという構成も全部書いている最中のテンション任せという、今思えば無茶な書き方をした作品でございました。当時は、それが無茶だとは思っていなかったんですけど。

 で、僕ももうね、モノカキやり出してそれなりの時間が経っているので、最近はちゃんとプロットも作るようにしておりますし、必要に応じて設定資料なんかも作るようになったんですけれども、『彩無き~』はそういうバチっと型にはめて書くような物語にすると、前作とちょっと読み味が変わっちゃうんじゃないか、などと思ってしまいましてですね。世界観を引き継ぐには、前作と同じ書き方で書くしかない! と宣言し、編集さんに提出したプロットも、途中がほとんど「なんやかんやでこうなって」的なものしか書いていない、という状態で書き始めたわけなのですよ。

 でも、これが地獄の入口であった。

 言うはやすし、行うはきよし、なんて言葉もありますけれども(ねえわ)、やっぱりね、口で言うのと実際やってみるのとではだいぶ違うわけなんですよ。でも、一回やったことじゃん! できたじゃんぼく! と思ってチャレンジしたんですけど、アマチュア時代に書いた前作とは大きな差があることを一つ忘れておったわけです。そうだね。〆切だね

 『彩無き~』は映画の情報解禁に合わせた刊行が企画の大前提だったので、〆切ががっちり決まっていたわけなんですよ。なんならね、「やっぱり書けませんでしたあ!」と編集さんに泣きついて刊行時期を後ろ倒ししてもらう、ということすらもNGなので、普段の書き下ろしよりも〆切が厳しいくらい。
 その上、執筆の頃は世間がコロナ大流行の真っただ中。テレビでは連日、やれ布マスクが、やれ給付金が、と大騒ぎしていた頃だったので、平常心でアイデアが降ってくるのを待ちながら勢いで執筆、なんてできるわけなかったんですよね。そういや、『名も無き~』は、ダラダラ二年近くかけて書いてるわけで、そりゃ同じ書き方したら〆切がキツくなるのは当たり前なのであります。

 もうね、毎日あれなんですよ。前の場面を書きながら、神が次の場面のアイデアを降ろしてくれるのを待つ、みたいな日々で。時間ないのに三日四日筆が止まる、なんていうこともありましてね。
 でも、そこは根性で何とか無理矢理押し進めて、やっと〆切前日にびったり最後まで書き終わる、という快挙を成し遂げたわけなのですよ。それで、よーし、これから完成稿を送るぞ! ってなった時に、腐れサディストの神様が僕の脳内にアイデアを放り込んできまして。それは、作中終盤でキダと氷室のやり取りがある部分なのですけれども、思いついてしまった以上は〆切だからとアイデアを捨てることもできず、担当編集さんに連絡して、なんとか一週間延ばしてもらい、ようやく完成したのでございました。

■またやってしまった「タイトル問題」

 『名も無き世界のエンドロール』は、小説すばる新人賞の応募時点では『マチルダ』というタイトルであった、というのは、僕のプロフィールなどによく記載がありまして、改題の時はめちゃ苦労した、という話をちょこちょこするのですけれども、僕が成長していないのかなんなのか、今回またやっちゃったんですよね。仮タイトルのボツ問題

 今回、『彩無き~』の執筆の際は、結構早い段階で仮タイトルをつけていまして、それが『イロトリドリノセカイ(仮)』というタイトル。執筆にあたって、僕が一番初めに物語のゴールとして思い浮かべた場面を表したタイトルで、僕世代の人はぴんとくるかもしれない、某超人気バンドの楽曲から拝借してきたタイトルでもあります。

 僕は音楽を元に場面における感情や風景の描写をイメージすることがよくありまして、『彩無き~』を読んでくださった方はわかるかもしれませんが、クライマックスシーンでは某歌手が「いーろーとりーどーりのー」って思い切り歌ってるんですよ。僕の頭の中で。もう何なら、その曲とその場面しか出てこない、ってくらいイメージがバッ・チーンとはまりまして。これはぜひともタイトルにしたいムフー、なんて思って、一応仮タイトルとしてつけておいたわけなんですよね。

 担当さんとのやり取りの中で、担当さん側から仮タイトルで作品を呼んでもらえるようになると、だいたい最終的なタイトルもそれに落ち着く、という僕の経験則がありまして、今回はこれで行けそう、とちょっと安心していたのですけれども、まさかといいますか、案の定といいますか、「タイトルを『名も無き~』に寄せましょう」というごもっともなご提案を頂くことに。やっぱりそうなるか。そうよね。まあわかる。それがセオリーではある。でも続編だからといって、別にタイトルの傾向を前作に揃えなきゃいけないというルールはないはずなんだ。いやほら、『魔王』の続編は『モダンタイムス』じゃないか! 一見別の作品のようなタイトルにするのもオシャンティーじゃん(これは実際に担当編集さんに言った)!『死神の精度』の続編は『死神の浮力』だけどさ!

 まあ、結局ね、変えましょう。で一蹴されましたけれども。

 タイトルって、一回自分の中で固着しちゃうと、剥がして新しいものに付け替えるのがめっちゃ大変で、一週間くらいかけてひねり出したのが、『彩無き世界のノスタルジア』というタイトルでした。そのタイトルに合わせて本文も改稿し、仮タイトルは章タイトルとして本編に残し……

 Oh,『名も無き~』の時と全く同じことをする結果に。
 成長しねえなあー

 でもまあ、Twitterなんかでもね、皆さん「名も無き」「彩無き」と略称で呼んでくださっていたりして、最終的には揃えてよかったんだとおもいますけれどもね。終わりよければなんとやら。

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 2021年一発目の記事がこんなんでいいのかと思いつつ、今現在もまた〆切ヤバイ状態が続いているので、今回はぼちぼちこの辺で。本年もよろしくお願いしまーす。


小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp