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【第6回】お手軽簡単!プロ作家直伝・爆裂小説上達術 ~その1~

 まあ、小説というのもタイトルが大事なんですけども、このnoteというのもタイトルが大事よなあー、と思いますよね。なんかこう、僕はわかりやすいタイトルってあんまり好きじゃなくて、シンプルに一言で、端的に言い表すようなのが好きなんですけど、それはやっぱり読み終わってから威力を発揮するものなのであって、読んでいない人を引き付けるものにはならなかったりします。

 なのでね、「モノカキTIPS」については、わりと煽りめでタイトルをぶちかましているわけですけども、今回はわりかしタイトルに偽りなしでございます。もうね、今日に限っては有料記事にしようかと思ったよね!

 まあ、万人にフィットするかと言われればもちろんね、100%と言い切れるわけじゃないんですけど、僕は今回の上達術で明らかに執筆スピード上がりましたし、自分で筆力が上がったなあ、という実感がありまして、それが自信になっていろいろ書けるようになってきた気がします。
 なので、きっとね、今小説を書いている方々にも、とてもとても有用な方法じゃないかなと思いますので、試して見て頂ければと思います。

 では、爆裂上達法、いってみましょー

■「掌編」を書こう!

 僕の場合なんですけども、プロ作家になる前、アマチュア時代は習作として短編小説を何本か書いてブログに載せるなどおりまして、これはね、たくさんの人がやってるんじゃないかなあと思うんですよ。ただ、その後、長編小説の賞を頂いてデビューしたんですけど、二作目がなかなかかけずに3年くらい停滞しちゃいまして。短編と長編じゃ、勝手が違ったというか。

 まあ、プロットを煮詰める前に勢いで書き始めてしまったり、設定から入っちゃったり、いろいろ足りなかった部分はあると思うんですけど、結局、物語をどう始め、どう終わらせるか、というヴィジョンが描けなかったからかな、と思うんですよね。デビューこそ出来たものの、思うように書けない日々がずっと続いて、自信はなくすし、睡眠不足で体は壊すしで、やっぱ僕には小説など無理なんだ、受賞作はまぐれなんだ、なんて思う日々もございました。

 専業になって、「とにかく今までよりも小説に時間をかける」というパワープレーで2作目、3作目を書き上げたんですけど、やっぱりね、このやり方は消耗が激しいんですよ。たぶん、長編が書けない、最後まで完成させられない、という多くのアマチュアの皆さんと同じ壁にぶつかって、それを無理矢理よじ登って書き切ったんだと思います。背水の陣で。

 で、そんなこんなで結構自信を失っていた頃に、文芸誌の座談会企画でお会いした歴史作家の木下昌輝さんが、Twitterで掌編小説(ショートショート)を公開していく、という企画を立ち上げたもので、それに参加させて頂いたんですよね。

 ルールは、月に1~2回、「〇〇の日」のような記念日や祝祭日に、その日をテーマにした1500字程度の掌編を書く、というもの。約2年で30作ほど書いたんですけど、この頃から急に、長編を書く時「これくらいの話を書くなら大体これくらいの枚数になる」みたいなヴィジョンが見えてくるようになったんですよね。感覚のお話なのでちょっと伝わるかわからないですけど、劇的ビフォーアフターなんですよこれは。

 そんなこんなで、「掌編」を書くことが、ものすごいいいトレーニングになるんだ、ということに気づいたわけなのです。

■意外と難しい掌編

 念のためですけど、「掌編」というのは、小説の中でも最も短い形式で、明確な定義はないですけど、だいたい400字詰め原稿用紙換算で10枚以下くらいの分量の物を指します。前述の企画では1500字くらいという規定(A4三段組み1ページ)だったので、実質4~5枚くらいですかね。「ショートショート」とも言いますけど、物の本によると、ショートショートはもうちょっと長い(15枚くらい?)らしい。でもまあ、似たようなもんだと思います。

 掌編のいいところは、短いので書くだけなら簡単に書けるということ。

 ただ、短いからと舐めてかかるといけないのが掌編なんですよ。「短い」ということは、状況やキャラクターの説明に割く文字数がほとんどないということでもあるわけでね。その上で、ちゃんと起承転結の流れを作らないといけない。世界観を作らなきゃいけないし、オチもつけなきゃいけない。もちろん、読者の人も理解できないといけないので、ただ文字で説明するだけでなく、あえて「書かない」という選択もしないと、その短さで話というのは成立しないわけなのです。これは結構テクニックが必要です。

 つまり、掌編というのはただ短いだけではなく、短編・中編・長編と同じように、「小説」としての構造が出来上がっていないといけない。みなさんが普段読んでいる長編小説を、出来る限り削って削って、本当にコアのところだけを抜き出したものが掌編になるわけですね。

■練習用掌編を書く時のルール

 掌編書くといいよ!とは言いましたけども、もちろんただ闇雲に書いてもあまり効果はないので、ここはしっかりとしたレギュレーションが必要じゃないかなと思います。なのでね、僕が考えるいい感じのルールを以下に定めておきますので、こんな感じで縛りを作ってみてください。

(1)公開日を決める
 まずは、掌編を公開する日を決めましょう。そして予告しましょう。ブログ公開でも、リアル友人に読んでもらう日でもいいんですが、完成させる日を決めるというのは、プロになってからの「〆切」に対する感覚を養います。予告するのは、怠け心を封じて退路を断つために。〆切は守らねばならんのです

(2)文字数を決める
 これが掌編を書く上で一番大事なことなんですけど、必ず文字数を決めましょう。文字数を決めたら、絶対に守ります。もうちょっと書きたい、と思っても、文字数をオーバーするのは厳禁。ショートするのもあまりよくありません。既定の文字数にできるかぎりきっちり収まるように書きます。
 なぜこれが重要かというと、自分の書きたいものの、本当にコアの部分、芯の部分しか書けないので、余計な言い回しとか表現を削り落とさないといけなくなるんですよね。アマチュアの方の傾向として「書きすぎる」というのがよくあるので、文字数を絞ることで、本当に必要な言葉、セリフを厳選するという練習ができます。
 オススメは、1600字(原稿用紙4枚)以内くらいですかね。
 
(3)お題を決める
 これは、自分で決めても誰かに決めてもらってもいいんだけども、何かしらお題を決めるとやりやすいと思いますね。僕がやった時は「記念日にちなんだ掌編」でした。ひな祭り、とか、母の日、とか。
 お題は自分の得意分野からではなく、ランダムに決めましょう。干支にちなんで一話ずつ12話書く、とか、日本の各都道府県をテーマに47編でもいい。辞書をぺらぺらして何ページ目の何番目の単語をテーマに書く、とかでもいいんじゃないですかね。
 いろいろなお題にチャレンジすることで、今まで書いたことのない題材やテーマについて調べなければならなくなるので、作品を書く時の引き出しが増えると思います。

(4)一話完結させる
 掌編は、基本的には一話で完結させましょう。短い分量でしっかりした話を書けるようになる、というのが目的なので、「つづく」とか連発してると意味がないわけなのですよ。1テーマにつき、1作、規定枚数内で完結、が基本となります。

(5)オリジナル作品とする
 二次創作はあまり練習にならんのでやめましょう。作家が作家たるゆえんは、ゼロからイチを作り出せるかどうかにあるわけなので。二次創作だと、キャラの設定、世界観なんかを既存作品に依存してしまうので、ゼロイチの練習ができないのです。

(6)執筆は公開日の前日~当日に
 これは上級者向けというか、慣れてからチャレンジしてもらいたいんですけども、掌編の執筆にかける時間を出来るだけ短縮しましょう、というもの。枚数が少ないので、分量的にはそれほど時間をかけなくても書けると思うんですよ。僕も、最初はアイデア出しから書きあがるまで半日かかってたんですけど、慣れてくると、推敲込みで30分とか1時間で書けるようになりましたので。
 テーマと公開日を決めた上で直前執筆にすると、普段何気なく生活している間にも、頭の中でアイデアと構成、時には文章まで組み立てないといけなくなるわけなんですよ。プロ作家になったら、寝てる間に見る夢さえ創作のネタにする生活をしないといけなくなりますから、常に頭のどこかで物語を作ること、アンテナを張ってアイデアを探すことの練習になります。もちろん、ただ時間を短縮するだけじゃなくて、クオリティは落とさないようにしましょうね。

■掌編の効果

 効果もいろいろあると思うんですけどね、一番はやっぱり「エンドマークを打つ経験をする」ということだと思うんですよね。物語というのは起承転結、オチの一文まで書き切って初めて「作品」になるので、序盤だけ書いて挫折、っていうのを繰り返していても、いつまでたってもうまくならんのだと思うんですよ。第一、長編なんて書こうものなら、そこそこ筆の速い作家さんでも3ヵ月くらいかけますから、どれだけ頑張っても一年で4作。でも、掌編なら月1作でも12作の「作品」を書くことができます。毎日一作書いたら365作ですもんね。すごい数。まあ、年間で長編10作書くバケモノみたいな作家さんもいますけど、それは例外中の例外なので、それができる人はこんなnote記事読まなくて大丈夫
 最後まで書き切る、自分が思い描いた物語を形にする、という経験を積めば積むほど、導入からオチまでのヴィジョンというものがだんだん見えてくるようになると思います。

 それから、小説を書く上で、プロとアマの差がはっきり出るところは、「削り」だと思うんですよ。自分の知識が10あったとしても、物語に必要なのは、そのうちの1にも満たないくらいの知識。どれだけ自分の中で書きたい場面や気に入ったセリフ、表現があっても、物語上必要がなければ、削り取らなければならなくなります。プロになると、編集さんから「これ、あと100枚削れませんか?」と言われることもありますからね。
 いわば、文章の断捨離みたいなもんですね。掌編では、嫌でもこれをやらなければいけなくなります。そうすると、自分の伝えたいことを一行で伝えるための言葉、いろいろな思いを一言で伝えるセリフ、というものを使わざるを得なくなりますから、これが文章の「行間」に奥行きを持たせて、ワンランク上の文章に引き上げてくれるんじゃないかなと思います。

 また、掌編は短い分手軽に書けるので、自分が挑戦したことのないジャンル、文体、表現方法もいろいろ試してみることができると思います。人称や視点を変えてみたり、歴史ものやミステリといった、「長編だと難しいジャンル」にもチャレンジできるんじゃないかなと思います。その中から、自分の新しい方向性が見えてくることもありますからね。

■参考

 僕が書いてみた掌編はこちらから。

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ということで、今回は気軽にできる小説上達法のお話でございました。なるほど!と思って下さった方は、どうぞチャレンジしてみてくださいね。


長編も難しいけど楽しいよね。

小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp