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ご質問にお答えします(13)「小説家になれないかもという不安を払拭するには」

 はい、というわけでモノカキTIPSのお時間でございますけれども、今日もご質問をいただきましたので、回答させて頂こうかなと思います。今回のご質問は、こちら!

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 なるほど。今回はメンタル系のご質問ですね。小説家を目指して日々小説を書き続けるものの、5年、10年とやっても芽が出なかったらどうしよう、という不安についついさいなまれてしまう、ということでしょうか。
 まあ、たぶんですね、質問者さんは不安の解消方法をお尋ねになっているわけで、「大丈夫、こうすればデビューなんて簡単さ!不安なんてないだろう!」という回答ができればいいなあと思うのですが、やっぱりそういう便利な近道なんかないわけでして、「こういう現実を見ると、不安に思うこと自体バカらしくなってきません?」という回答内容になるんじゃないかなと思います。念のため、前もって伝えておきますね、、、

 ではでは、回答行ってみましょう―。

■不安になるのが早くない?

 率直に、本当に正直に回答をするならば、まず最初に僕が思ったのは、不安になるのがちょっと早くないかなあ、ということですかね。

 作家を「少し」夢見ていて、最近、本を読んだり、自作の小説を書いてみたりしています、という段階で、「デビューできなかったらどうしよう」と考えるのはちょっと早いんじゃないかなあと思うんですよ。野球で言ったら、まだキャッチボールを始めたくらいの段階で、「プロ野球選手になれなかったらどうしよう」と言っているのと同じことかなあ。

 小説家になりたい、デビューしたい、という目標を持つことはいいことだと思うんですけれども、まだ何もしていない状態で、デビューできなかったら、なんていうことを考えるのは、捕らぬ狸のなんとやらだと思うのですよ。なので、不安になるなんてまだ早い早い、と、自分の心に言い聞かせると、まずはいいのではないかなあと思います。

■10年なんて当たり前

 せっかく一生懸命夢に向かって頑張って、10年やっても芽が出ず、デビューもできなかったら、、、という不安はわからないことではないんですけれども、こと小説家というのはデビューに至るまでの経路が人それぞれ様々な職業でして、モノカキTIPS第3回でちょろっとお話したんですけれども、小説家としてデビューできるくらいの力がつく年齢、それまでにかかる時間というのはかなり個人差があると思います。

 もちろん、書き始めたら才能が爆発して、あっという間に賞獲ってデビューする人もいますけれども、こつこつと何十年も書き続けて、50代、60代になってからデビューしたという作家さんも結構いらっしゃいます。さらに、デビューは出来たけれど、初めて作品に重版がかかるまで10年以上かかった、という作家さんも(わりとたくさん)おられますし、10年20年芽が出なかった、なんて、比較的よく聞く話であったりします。

 これは少し厳しい話になりますが、小説家になりたい!と思って小説を書いている人の中で、商業デビューまで行ける人はほんのわずかです。あの「難易度超高い」で有名な司法試験の合格者は毎年1400人くらいで、合格率25%くらいですけど、作家デビューするのは、毎年200人とかそんなもんだと思うんですよ。ラノベ作家さんも含むともう少し多いかもしれないですけど。志望者の正確な数はわからないですけど、もう何年も投稿を続けている人から、質問者さんのように「少し夢見ている」というくらいの方を含めると、100万、200万人を楽に超えるんじゃないですかね。となると、デビューできるのはざっと志望者1万人のうち1人くらい。
 なんとかデビューできたとしても、半分が2作目を出せずに業界から消えていきます。5年生き残る人が残りの半分、10年になると3割くらい、という話も聞きます。さらに、その中で売れっ子作家になるのは一握りですから、大抵の人にとって(なんなら僕にとっても)、10年芽が出ない、なんて当たり前のことなわけです。

 僕は、長編小説を書き始めたのが30歳くらいでして、そこから初めて書き上げた作品でデビューできたので傍目にはデビューまでが早い部類の人間に見えるかもしれないんですけれども、でも、そもそも小説を読みだしたのは小学校低学年くらいで、(高校に入って音楽にかぶれるようになるまでは)結構な冊数の本を読みましたし、小学校の頃にはすでに創作文を書いたり、(下手な)マンガを描いたりしていましたので、そういう意味では、33歳でデビューするまでに、創作活動を始めてから20年以上かかっている、という考え方もできるんじゃないかなと。

 なので、10年芽が出なかったらどうしよう、と考えるより、今から始めて10年以内にデビュー出来たら超すごい、くらいの感覚が現実に即したものですし、そんな感じに考えた方がよいのではないかなあ、と思います。

■30年後でもデビューの可能性があるのが小説

 と、ここまでわりと質問者さんにとって絶望的なお話をしてしまったかなあとも思うんですが、小説家というのは、10年20年やって芽が出なくとも、30年後に突然花開く可能性があるお仕事なんですよね。

 最初に野球選手の例を出しましたけども、野球の場合は、プロ選手になれるのは20代前半くらいまでで、30歳を超えたら、ほぼプロへの道は絶たれてしまいます。僕がデビューした33歳という年齢だと、たいがいのスポーツでプロになるのは無理だと思うんですよね。

 でも、小説家は違います。10代、20代でデビューする方もいますけど、60代、70代でデビューした方もおられます。『abさんご』で芥川賞を受賞された黒田夏子先生は、75歳で作家デビューされたことが話題になりましたけれども、そのデビュー作で芥川賞を受賞されているわけなんですよ。何年やろうが、何歳になろうが、花開く可能性がゼロにならないところが小説家の面白いところです。

 また、小説の場合は、社会生活を送りながら、空いた時間に執筆すれば作品を作っていくことができる、というのもいいところだと思います。なんなら兼業の作家さんもいっぱいいらっしゃいますしね。
 なので、小説家デビューを目指して執筆を続けながらも、自分のライフプランをきちんと設計していくことも可能です。10年やって芽が出ずに諦める、となったとしても、それまでに費やした時間はまったく無駄にならずにすむと思うんですよ。30年を夢に費やしても、しっかりと自分のキャリアも別で構築できる、というのは、夢としては稀有の部類だと思います。

 なので、ちゃんと自分の生活の糧を得ながら目指す限りは、「デビューするまでなら」不安なんか感じる必要なんかないよ、というのが小説だと思います。デビューしてからは大変ですけども。

■小説家に必要な気持ち

 これは、必ずこう、というわけではないんですけれども、僕の周りの作家さんがだいたい同じことをおっしゃるんですよ。「デビューしようがしまいが、きっと小説は書いていただろう」っていうね。

 僕もね、仮にデビュー作になった応募作が落選していたら、小説家を目指すことは諦めたかもしれないですけど、たぶんなんらか物語は書いて、ブログやら投稿サイトに載せる、みたいなことは続けていたんじゃないかなと思うんですよ。作家さんの大多数は、小説を書くのが純粋に好きで、創作することが生活の一部、みたいな方です。まあ、そういう人じゃないと、デビューにこぎつけるまで、創作意欲が続かないんだと思うんですよ。

 だから、まずは書いてみて、小説を書くことが本当に好きになれるか、が大事だと思います。個人的には、デビューできなかったら、芽が出なかったら、という不安よりも、「小説のネタが尽きてしまったらどうしよう」「書けなくなってしまったらどうしよう」という不安を持つ人の方が、小説家向きではあると思います。

■結論

 まずは、厳しいようですけれども、現実を見ておきましょう。小説家志望の方で、デビューできるのはまず数万人に一人というレベル。その中から、作家として芽が出て、10年生き残れるのが15%以下、花開いて人気作家になるのは一握りです。なので、まるきり素養のなかったところから書き始めて、10年以内にデビューできて、かつ20年以内に何か一つ賞でも獲ることができたら、かなりすごい部類の人です。

 それに、デビューはゴールじゃないんですからね。新人賞とか作家デビューというのは、ようやく「舞台に立つことができた」というだけなので、そこからが本当の勝負であったりします。なので、実際に自分の書いた小説を多くの人が読んでくれるようになる、撒き続けてきた種から芽が出るまでには、10年なんて当たり前のように過ぎていくと思います。なので、まったくのゼロから始めて、10年で結果が出ると思ったら甘い、と考えた方がいいと思いますね。

 でも、小説家というのは、30年40年経っても、書いてさえいれば、花開く可能性が消えない仕事でもあります。なので、まずは自分の生活の中に、小説を書く、文章を書く、ということが溶け込んでからがスタートじゃないかなと。

 もうね、はっきり言うと、不安になってる暇なんかないですよ! というお話なんですよ。どんどん読んで、どんどん書かないと、無駄に時間だけが過ぎてしまいますからね。そしたら、デビューまでの時間が延びるだけですもん。
 小説家になるための唯一の道は、「面白い小説を書くこと」ですから。案ずるより産むが易しだと思って、今はとにかく小説を書くことですね。

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 ということで、今回はメンタル的な部分についてのご質問にお答えしました。
 前にね、作家仲間と飲んだ時に「作家になってなかったらどうしてた?」的な話題になったことがあるんですけれども、ある作家さんが「作家になりたい人だったと思う」と答えたのが印象的でした。もうね、「デビューして作家になる」か「デビューできなかったら作家になりたい人のままであり続ける」かの二択で、何年かかろうとも作品を書き続けることは当たり前、ということをおっしゃっていたわけです。

 全員とは言わないですけれども、作家さんの多くは、そういう情熱を持った方が多いと思います。そこまでの情熱を持った人でも、デビューできるまでに時間がかかることもあるわけですし、デビューできなかったらどうしよう、という不安にさいなまれても、不安に寄り添いながら、ひたすら書くしかないんだよなあ、なんて思いました。この回答で絶望せずに、奮起して下さったらいいんですけれども。

 わあわあ言うとりますが、モノカキTIPSではみなさまからのご質問をお待ちしております。今回のように、メンタル面のお話でも、技術論でも、何でも構いませんので、ぜひぜひお寄せくださいませ。

 
 僕も本業がモノカキなもので宣伝ですけれども、TIPSが面白かった!と思われた方は、好評発売中(?)の新刊もぜひご一読いただければと思います。どうぞよろしくお願いします。


小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp