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ご質問にお答えします(18)登場人物の名づけへのこだわり

 さて、もう12月ということで、師走ですよ師走。坊主も廊下を駆け回る師走ということで、僕も年末に向けてもろもろ大変そうな感じになってまいりました。主に締め切りが。頑張れるかなー、自分ー。

 ……なんていう書き出しを書いて下書き保存していたら、年が明けておりました。年末年始、だいぶ追い込まれまして、note更新どころじゃなくなってしまい。すみませんお久しぶりでございます。

 今回は2022年note始動一発目ということで、昨年頂いていたご質問に答えていこうと思います。


 そんなこんなで今回頂いた質問は、こちらでございます!だん!

 ということでね、講談社さんの企画で参加させていただいた「Story for You」をお読みいただいたようですね。僕は『三丁目ヒーローズ』という作品を寄稿させていただいておりまして。

 企画自体が、コロナで参っている人たちを元気づけたい!みたいな想いから出発したものなので、何度も繰り返し読んでくださって、少しでも元気になっていただけたのなら、作家冥利ですね。

 さて、前述の作品は、中学生がお笑いコンビを結成しようとするお話ですが、登場人物は視点人物である「西川」と、相手役「横山」の二人。僕と同年代から上くらいの方はすぐにぴんとくるのでは、と思いますけれども、質問者さんも小ネタに気づいてくださったようで、僕の「名づけのこだわり」についてご質問をくださいました。まあ、これはもう、正解はもとより、こうしたほうがいい、みたいなことでもありませんので、今回は気楽に、「僕はこういう感じで名づけをしています」というお話をさせていただこうかなと思います。

 ではいってみましょう。

■名づけを意識しだしたのは

 さて、僕は昨年映画化もしていただいた『名も無き世界のエンドロール』でデビューさせていただいたわけですけれども、この作品は、「名づけ」というものにまったくこだわりがなかったんですよね。プロットも立てずに、頭から思うまま書いていく、という素人丸出しのスタイルで書いたので、登場人物の名前は、登場したその場のフィーリングでつけておりました。
 ただ、主要人物の名前は、キャラに愛着を持ってほしくて、覚えやすいようにカタカナ表記やニックネームで書くようにしました。質問者さんのように、キャラクター名を上げてもらえると嬉しい、という気持ちが、僕にもあったんじゃないかなと思います。実際、作品が映画になったときに、俳優さんのファンのみなさんが、「役者名」じゃなくて、「役名」で感想など投稿してくださっているのを見かけると、とても嬉しかったです。

 その後、名前にある程度統一感を持たせる、ということをやり出したのが、二作目の『バイバイ・バディ』からで、こちらは登場人物の名前を東京や千葉の駅名から取る、ということをやりました。主人公「飯山ミツル」は、東葉高速鉄道「飯山満はさま」から。敵役コンビ「高田&馬場」は、JR「高田馬場駅」からですね。
 三作目『ヒーローの選択』は、着手が『バイバイ~』より早かったので、そこまで名づけを意識していなかったのですが、以降、僕の作品の登場人物は、何かしらの「名づけの根拠」をもって命名されています。

 なんで名づけにこだわるようになったのかと言うと、これはもう、完全に自己満足で。「誰かが気付いてくれたときに、アハ体験してくれたら嬉しいな」くらいの感じで始めたら、やめられなくなった、という感じですね。

■名づけのパターン

 さて、僕の場合、名づけにもいくつかパターンがありまして、以下、いくつかパターンを上げてみます。もしよかったら、ご自分の作品の命名時に参考にしていただければ。

(1)モデルとなった人などをもじる

 これが一番多いパターンと思うんですけど、登場人物のモデルにさせてもらった実在の人物や、ストーリー上・登場人物の役割上、連想させる人の名前をお借りして、組み合わせたりもじったりして使う場合。

 ①立ち上がれ何度でも(ストロング・スタイル)
 テーマがプロレスなので、わりと新旧プロレスラーの名前を拝借しているキャラクターがたくさん出てきます。プロレス好きの人は、「これ、絶対あいつじゃん」と笑ってくれた人もいらっしゃるのではないでしょうか。

 ②廃園日和
 この作品は、僕が勝手に「やらなくてもいい縛り」をたくさん入れた作品でして、短編の各章が遊園地のアトラクションをテーマにしていて、さらに、そのアトラクションにまつわる楽曲の詞を文章の中に潜り込ませたりしています。
 登場人物の名前は、楽曲を歌うアーティストさんから拝借してきておりまして、例えば、第一話の「ジェットコースター」がテーマのお話は、真心ブラザーズの「ループスライダー」をフィーチャーしているので、登場する中学生四人は、真心ブラザーズのお二人と、この曲のコーラスに入っていたPUFFYのお二人の名前をもじってつけています。

 ③怪盗インビジブル
 「怪盗」をテーマにした作品ですが、こちらはフィクション作品の登場人物名を拝借してきたパターン。サイドストーリーの主人公「皆藤真治かいとうまさはる」は、「怪盗紳士(アルセーヌ・ルパン)」をもじったもの。その他のキャラクターたちも、「ルパン三世」「シャドウレディ」「怪盗セイント・テール」など、「怪盗」がテーマの作品から拝借してきています。

(2)モノや店名、地名をもじる

 前述のパターンは、人名、キャラクター名のもじりでしたが、モノだったり、店名、地名、といったところから名づけをすることもあります。冒頭の『バイバイ・バディ』の「駅名」もこのパターンの一つですね。

①本日のメニューは。
 昨年、「ナツイチ」で声優の小野賢章さんに朗読していただいた、第4話「或る洋食屋の一日」は、洋食屋さんのビーフシチューが登場するお話だったので、主人公「前沢永吾」は、「前沢牛A5ランク」から取りました。その妻である「小春」は、洋食の名店、人形町「小春軒」さんから。

②稲荷町グルメロード
 商店街をグルメで再生していく、というお話で、主人公「御名掛幸菜」と、「瀧山クリス」の二人は、それぞれ僕の地元・仙台の商店街の名前をもじっております。「御名掛幸菜」の元ネタは「ハピナ名掛丁商店街」で、名掛丁とは、伊達藩の「御名掛組」という精鋭部隊の屋敷があった丁(町)の名前。また、「ハッピーな」が「ハピナ」の由来であるところから、「幸」の字を当てています。「瀧山クリス」の元ネタは「クリスロード商店街」。商店街の中に「三瀧山不動院」という、商売の神様を祀る神社があるところから名づけに使っております。

 ③の、「瀧山クリス」というキャラに関しては、名づけからキャラクターが肉付けされていったタイプで、元ネタに「クリスロード商店街」の名前を使いたい!と思ったところから、「本名がクリストファー・ロード・瀧山で、日比ハーフ」という設定ができ、それがストーリーにも大きくかかわっています。名づけの元ネタからキャラクターを作り出していく、なんてこともたまにありますね。

(3)キャラクター性からの連想

 これはわりと、マンガなんかでも多用されているパターンで、一番中二病感が出る方法だと思います。結構ね、ラテン語とか元ネタにしやすいので、命名の時にラテン語辞書など見てみるのも面白いと思います。

①KILLTASK
 主人公を振り回す殺し屋に、「天使」の異名を持つ「伊野尾」と「悪魔」の「辰巳」というキャラクターが出てきますが、「伊野尾」は「innocence(純粋な、無邪気な)」という言葉から。「辰巳」は、「竜と蛇」の意味ですね。キリスト教においては、竜や蛇は悪魔の象徴です。さらに、みずからの尾を噛む竜(蛇)・ウロボロスは、「死と再生の象徴」で、そのモチーフがストーリーにもかかわってきます。

②僕らだって扉くらい開けられる
 本作は、「超能力者」がテーマのお話だったので、能力を持つキャラクターは、その能力から連想する言葉を元ネタにしてることが多いです。
 例えば、第4話「ドキドキ・サイコメトリー」に登場する、サイコメトリー能力者「御手洗彩子みたらいあやこ」は、彩子=さいこと読み替えて、さいこ・みたらい→サイコメトリー、というダジャレになっています。ちなみに、超潔癖症で手を洗わずにはいられない、というキャラクターでもあったので、「御手洗」はダブルミーニングになっています。

③彩無き世界のノスタルジア
 『名も無き世界のエンドロール』
の続編である本作の敵役「井戸茂人」は、悪人なのですけれども、自分の欲望に忠実であるが故の悪、というキャラクターでした。なので、フロイト哲学における欲望の源「イド(エス)」という語をもじって「井戸」に。名前の「茂人(sigeto)」は、利己主義者を表す「egoist(エゴイスト)」のアナグラムになっています。アナグラムも結構使えるので、面白いですね。

■名づけの原点

 こういった、「名づけにこだわる」というのは、どこからきているんだろうなあ、と考えたときに、自分の出発点にあったのは、マンガ「ドラゴンボール」だった気がします。ドラゴンボールの登場人物って、大体全部何かをもじってつけてるじゃないですか。初期はもじりもしてなかったけど。

 サイヤ人が登場したころから、「サイヤ=野菜」とか、「ベジータ=ベジタブル」「カカロット=キャロット」みたいな、ちょっと頭を使って元ネタを考えるような要素が増えて、由来がわかったときにはアハ体験があったものです。

 今、名づけのときにいろいろ工夫しよう、というマインドになったのは、自己満足であると同時に、僕がドラゴンボールを読んで感じた「なるほど!」という体験を読者さんにプレゼントしたい、みたいな気持ちもあるのかな、と思いますね。プログラマの人がイースターエッグを仕込むような感覚ですかね。
 小説というのは、ストーリーの面白さが一番大事なので、名づけとかに拘ってばかりでは仕方ないんですけど、こういう付加価値的な面白味を考えることも醍醐味かなあという気がします。


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 ということで、今回は「名づけ」について、僕のやり方とか考えをつらつらお答えしました。まあ、名づけは物語の設定を考えるときに一番楽しいところかもしれないんですけど、これがわりとで。僕は最近、しっくりくる名前が思いつかなくて執筆が止まる、という負の現象をたびたび起こしているので、あくまでおかずだからね、という前提を持ちつつ、創作者のみなさんも楽しんで考えていただきたいな、と思いました。

 もし、僕の作品で、名前の元ネタわかった!などありましたら、ツイッターとかnoteでコメントいただけると、作者喜びますのでね。これは絶対わかんないわ。というのもありますけど。



 さて、モノカキTIPSでは質問を随時募集しております。小説に関するご質問、その他答えられる範囲のご質問であればなんでも回答させていただきますので、どしどしお寄せくださいませ。ちょっとね、年末年始忙しくて、昨年頂いた質問が未消化のままになっておりましたので、こちらも早めに回答させていただきますのでね。今しばらくお待ちください。

 最新刊、『明日、世界がこのままだったら』も発売中でございます。この作品も、主人公二人の名前や、サブキャラクターたちの名前に法則性があるので、ぜひご一読の上、名前の由来を見つけてみてくださいね!



 
 





 



小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp