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ご質問にお答えします(23)執筆するスピードはどのくらい必要?

 お久しぶりのモノカキTIPSでございます。あっちゅうまに夏も終わりですね。ぽっちゃりおじさん的には早くクーラーいらずの気候になってほしいところですが、まだまだ残暑の厳しさもありますし、みなさん体調管理にはお気をつけください。

 久しぶりにご質問をいただいたので、回答させていただこうと思います。今回のご質問はこちら!

 どん!

今回のご質問

 いやもう、その節は誠に、誠にうちの『名も無き~』がお世話になりました、、、、! もうね、著書を売ってくださった書店員さんには頭が上がらないですね、、、 平積みさいこうです!ありがとうございます!

 で、肝心の質問ではありますけれども、執筆する早さについて、ですね。なるほど。僕もアマチュアの時は仕事をしながらの執筆でしたし、質問者さんと状況は似ているなあと思います。なかなか進まないんですよね、これが。僕は応募作書き上げるまでに二年かかりました。遅い。

 ということで、今回は「執筆スピード」についてお話していこうと思います。

■一般論

 さてさて、プロに必要な執筆スピードということですけれども、これには一般論がありまして、だいたいこれくらい、という目安は以下の通りです。

 ・月産(月当たりの執筆量)400字詰め原稿用紙換算で100枚以上
 ・一年に、長編三冊分(ざっくり言うと、原稿用紙1000~1200枚以上)

 まあ、諸説あると思いますが、僕が聞いた目安はこんなもんですかね。これくらい書けないと無理よ! という理由は、これくらいの量かかないとマジで最低限の生活すら成り立たないからですね。これが最低ライン。プラス、エッセイとか、なんやかんやほかのお仕事もこなしてようやく生活ができるくらいの収入になります。

 ただ、昔と今って状況が変わっておりまして、基本、専業で作家さんやる人というのはずいぶん減ってきているわけなのです。なので、本業を持ちつつ兼業で作家をやるなら、多少遅筆で収入が少なくても本業で生活が維持できますから、年に本一冊出すだけでもやっていけんこともありませんし、あくまで目安、と思っていただければ。あと、本が売れれば寡作でも生活できますからね。筆が早くても遅くても、売れたらいいんですよ。それが一番難しいですけどね。

 なので、技能として、これくらいのスピードがないと作家としてやっていけないよ!というラインは、実質ないと思っていただいていいんじゃないでしょうか。

■僕の場合

 僕の場合ですけれども、客観的に見て、僕はプロのモノカキのみなさんの中では、かなり遅筆の部類だと思います。ちょっとね、ムラがあるタイプでして、進む時はめっちゃ早いけれど、遅いときは数日一行も進まない、というわりとピーキーな仕様になっておりまして。メンタルとかテンションみたいなものにも左右されやすいので、なかなか安定して量産できるタイプじゃないですね。月産で400枚書ける月もあれば、月産で10枚も行かない月もある、という感じです。
 でも、僕が業界内で特殊な方か、というとそうでもなくて、まあまあ似たような方の話はよく聞きます。編集者さんにお話を聞くと、(僕の執筆スピードは)早くはないけれど、とりたてて遅筆というイメージはない、と言っていただいたこともありますね。

 そもそも、作家専業になったきっかけも体ぶっ壊したからですし、プロになってからも一度結構な病気をしているので、スピードより体調優先でやらせていただいております。連載いくつも抱えて命を削って執筆されておられる先生方もたくさんおられますけれども、基本は体が第一ですからね。執筆は無理なき範囲で。

 スピードを上げるコツですが、プロには締め切りというものがありますので、僕の場合はコツもなにもなく、締め切りに尻をぶっ叩かれた結果、アマチュア時代よりスピードアップした、という感じです。正直、締め切り近くじゃないときの僕の執筆スピードより、今の質問者さんの方が早いんじゃないかなあと思いますね。もし、締め切りが設定されたら、質問者さんの方が僕よりずっと早くなるかもしれません。なので、現時点のスピードはあまり気にしなくていいと思います。

 もちろん、上を見れば、爆速作家さんも多々おられまして、ツイッターなんかでTLを眺めていると、一ヵ月で長編書き終わったとか、今日は一日で1万5000字書きましたとか、そんなツイートが溢れているわけで、マジスカ、、って僕もなります。あの先生、先月も本だしてなかった、、、? とかいつも思いますよね。

 まあ、そういう、一種(いい意味で)変態的なといいますか、すごい作家さんを見てしまうと、ああ、自分は無理だ、、、と思ってしまうかもしれませんが、これはもうピンキリなので、何度も申しますけれども執筆スピードが遅いとプロにはなれない、ということはないと思います。

 あと、推敲しながら書く、っていうのは、僕も質問者さんと同じです。僕はだいたい、その日の書き始めは、それまでに書いたところの推敲から入ってしまいます。バーっと書いて後から直す、ができないんですよね。書きたいこと忘れちゃう、は、あんまりないんですけど。でも、特に序盤で生じた矛盾なんかは、後々デカい問題になって筆を止める原因になりがちなので、多少スピードは犠牲にしても、推敲しながら書くのは、個人的にはいいんじゃないかなと思います。

■「筆が遅い」と「書けない」は別

 とはいえ、執筆スピードが速い方が有利であることは間違いなくてですね、やっぱり、依頼したらぱっと原稿が上がってくる作家さんの方が、編集者から見たら依頼しやすいと思いますし、刊行スケジュールも組みやすい、定期的に刊行が必要なシリーズものもやりやすい、というところがあると思います。特に、ライトノベル界隈の作家さんは、メディアミックスなどが重要になってくるので、刊行頻度がものをいい、物量作戦でやっていかないと難しい、ということはあるかもしれないですね。なので、スピードを上げられるなら上げるに越したことはない、と思います。

 ただ、一般文芸では、編集者も比較的長い目で見てくれることが多くて、質の高い作品が出せるなら半年一年くらい待ちますよ、というスタンスで話を持ってきてくださることが多いです。

 個人的には、「筆が遅い」はまあいいと思うのです。自分の生活費を確保できるなら、遅筆でも寡作でも、依頼があれば作家としてはやっていけます。でも、これがストップしてしまう、書けない、となると話は別ですね。ゆっくりでも書き進められるなら遅筆でも大丈夫なのですが、書けない、筆がストップする、が頻繁に起こると、プロでは厳しいかな、という感じがします。僕も、二作目が全然書けなくて廃業危機に陥ったことがありますから、「筆が止まる」ということについてはシビアに考えたほうが良いですね。

■結論

 プロ作家にとって、執筆する速度が早いというのは大きなアドバンテージですが、遅いからといってプロにはなれない、ということはないと思います。爆速で執筆し、圧倒的物量で勝負する作家さんもおられますが、寡作ながら質の高い作品をこつこつ書き続ける作家さんもおられます。

 基本的には、作品の数、執筆枚数というのはプロ作家の収入にハネてくるところなので、筆が早いに越したことはないです。特に新人の頃は、遅筆のために生活苦になって断筆する、という方もおられるようですし、デビューまでに資産形成をして、慣れるまでは貯金でカバーできるようにするといいと思います。

 また、プロになると締め切りが設定されますから、たいていの人はアマチュア時代よりもスピードは上がると思いますし、今からプロ並みのスピードで書けなくても大丈夫です。むしろ、最終的に完成した小説が面白いものになるかどうかが重要で、最高の小説を書くために、自分に合った執筆速度はどのくらいなのか、という考え方をした方がよいんじゃないかなと思いますね。

 ただし、筆が止まってしまって物語を完成させられない、というのはプロとしてやっていくには難しいので、書き出す前のプロットの精度を上げたり、一日の執筆枚数を設定したり、早くても遅くても、自分なりのスピードで書き続けられるような執筆スタイルを模索するといいんじゃないかなと思いました。


 というわけで、今回は執筆スピードについてのお話でした。僕もね、もうちょい早くなりたいんですけどね。業界にいると、わりと、多作伝説、一日の執筆枚数記録、みたいな話を聞くこともありますが、すごい方はほんとにすごいんですよ。人間かな?くらいの。

 僕はそういうところは凡人なので、努力はしつつも、クオリティを担保できるスピードでやっていこうかなと思います。編集者各位、ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解をお願い申し上げます。

 モノカキTIPSでは質問を随時募集しております。小説に関するご質問、その他答えられる範囲のご質問であればなんでも回答させていただきますので、どしどしお寄せくださいませ。 


 僕が書いた中で一番早かったのはこれでした。企画立ち上げから初稿完成まで一ヵ月半くらいでしたね。いつもそのくらいで書けたらいいのに。




小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp