モノカキがちょこっとアドバイスします(2)
さてと、賛否はありながらも東京オリンピックが開催しまして、季節も夏真っ盛りとなってまいりました。学生さんはそろそろ夏休みですかね。来年には、旅行も帰省も思う存分できる世の中になっているとよいですね。
ちょっとお時間を頂いちゃいましたが、今回また「文章読んでみて」系の質問投稿をいただきましたー かなり画像長くなりますけど。
新人賞に応募して、一次落ちはやっぱりちょっとがっかりしますよね。賞のカテゴリエラーの可能性もなきにしもあらずですが、よほど大ハズシでなければやはり文章とか物語の方に原因があるかな、とも思います。
このお話が長編の一部なのかショートショートなのかがわからなかったのですが、今回は投稿していただいた物語を一つの作品と解釈してお話させていただきますね。
甘口・中辛・辛口でまとめましたので、メンタル具合に応じて、読むか読まないかご判断ください。
では参りましょー。
■アドバイス~甘口~
まず、僕が聞いている範囲だと、一次落ちする応募作品て、結構な割合でそもそもまともに日本語が書けていないとか、文法がしっちゃかめっちゃか、みたいなものがあるらしいんですが、その点、質問者さんの文章は読みやすいですし、大きな文法の間違いとか、読み手がストレスフルになるような誤用もないので、今後もたくさん読み書きして文章を磨いていっていただければいいんじゃないかな、と思います。個人的には、狛犬を「石にされた犬」と表現しているところが好きでしたね。
ただ、「文章力」があるか、という言い方をすると、これは単純な日本語力だけじゃなく、語彙力とか文体、表現の豊かさなども要素になってくるので、長編の新人賞を目指すならもうちょい成長が必要かなという印象ですけど、世の中、小学校の国語からやり直さないといけない書き手も結構多いですから、質問者さんの場合は努力次第で十分文章力も伸ばせるんじゃないでしょうか。
そうなると逆に、一次は通ってもおかしくないんじゃないかな、とも思うんですよねえ。なので、そこはもしかしたら、ストーリーや構成面が質問者さんにとって最大の課題ということかもしれません。
■アドバイス~中辛~
さて、「中辛」では、質問者さんにとって課題である内容面などを含めて、少しテクニカルな部分について指摘していこうかなと思います。
(1)書き出しがぼんやりしている
小説を出版したとして、書店に並んでいる初読み作家の作品を買ってもらえるかどうかをわける重要なポイントが、書き出し数ページなのですよね。何気なく手に取ってページをめくってくれた読者さんをぐっと引きつけるようなものを、冒頭数ページに詰め込まないといけないわけですね。
僕自身はそこまで意識してない方だと思うんですが、作家さんの中には、書き出しの一文にものすごくこだわる方もおります。冒頭部分というのは、それだけ大事なパートだと思うんですよ。
その点、今回のお話は、ちょっとぬるっと始まっちゃってる気がするんですよね。最初の文は目を覚ました主人公の目に飛び込んでくる光景なのですけど、もっと読み手の想像を掻き立てるようなものであったほうがいいかなあと。「ふと目を覚ます」も書き出しとしてはわりとよく使うシチュエーションなので、もう少し書き出しに力を入れた方がよいかもしれないですね。
それから、終わりまで読むと、視点人(?)物が「猫」であることがわかるんですが、初読の際は、冒頭からしばらく「ん?」と思いながら読むことになりました。読みながらだんだん、あ、これ猫の話か、と「察する」感じで、それもなんとなくぬるっとした印象を受けた一因だと思います。
どこかのタイミングで、読み手に「あ!これ猫の話なのか!」というカタルシスを味わってもらうならいいのですが、そうでないのなら、冒頭なるべく早い段階で「これは猫視点の話」と明確にわかるような文章を入れ込んでおいた方がいいです。読者が「猫の話」と理解するタイミングは、書き手側が意図的にコントロールした方がいいですね。
(2)もう少し、キャラクターに魅力を
これ、物語に続きがあるならまた違うかなとも思うんですけど、ちょっと気になったのは、冒頭から最後まで、「私」が考えていることも、地の文の言い回し、エピソード、「クロ」との会話の内容まで、終始ネガティブなことばっかりなんですよね。
狂人に追い掛け回された、元気がなくてもしつこい草、うるさい子供たちに追い掛け回されて嫌だった、犬もうるさい、ニボシをくれたおばあさんが死んでしまった、飯が食えずにやせた、などなど。
もし実際周りにいる人間だったら、自分をかわいがってくれたおばあさんが亡くなったのに「なんとも思わない」と明言して、その後に「お小遣いもらえなくなったんだ」と言えてしまう人のこと、好きになれますかねえ。オチがブラックジョークとかだったらそれもありなんですけど。
もしかしたら、「私」なりにおばあさんに対する愛情があったのかもしれないですが、今回の文章だと最初から最後までネガティブな印象はぬぐえず、「私」には共感できなかったなあ、と思います。
猫だからといってポップなキャラである必要はないですし、話自体が陰鬱なものでもいいんですが、今回は、主人公のネガティブさにストーリー的な意味とか理由がないんですよね。素でネガティブな物言いをする子、という感じで。だとすると、ただただボヤキとか不満を聞いただけ、という印象になってしまいます。質問者さん的には、猫らしさを意識してああいうキャラにしたのかもしれないんですが、猫特有のドライさ、奔放さは、デレたときのかわいさとセットになっているから魅力になるんだと思うんですよね。
例えば、ひねりを効かせた皮肉や痛烈な風刺が出てくるとか、どっかにかわいげがあるとか、最後にはポジティブになるとか。いやだ、嫌いだ、うるさい、なんとも思わない、といった負の感情をストレートに書いているだけだと、読者としては、読んでいても「面白い」「楽しい」とは思えなくなってくるかなあ。
せっかくの題材なので、もう少し読者が愛せるようなキャラクターにして、くすりと笑えるようなユーモアがあったらいいのではないかなと思いました。
(3)余談
これはほんとに余談なんですけども。
作中に登場する「狂人オリマス」という表現は、質問者さんのオリジナリティがよく表れているところで印象に残るワードなんですが、昨今の出版界では、この「狂う」という語には非常に敏感になっているんですよね。要は、精神疾患を持つ方を揶揄するような表現として捉えられる恐れがあるからです。
「時計が狂う」でも場合によってはNGが出ることもあるくらいで、「狂人」に至っては出版界的にド真ん中のNGワードでして、おそらく、よほどの必然性がなければ、校閲の段階で「要修正」の赤ペンが入ると思います。まあ、アマチュアのうちは表現も自由だと思いますし、応募作品にこういうワードが含まれていたからといって選考に影響することはまずない(と思う)んですが、今後のことを考えて、適したワードをチョイスするという意識も持っておいた方がいいかな、と思います。
■アドバイス~辛口~
さて、今回送ってくださった物語について、言葉を選ばす、すごくストレートな物言いをしますと、この小説が何を伝えたいのかがよくわからなかった、というのが率直なところです。
質問者さんが最も描きたかったこと、伝えたかったことはなんでしょうか。僕(読者)に「ここが面白い」と思ってほしかったポイントはどこでしょう。
そういう、物語としての軸のようなものが、今回のお話からはあんまり読み取れなかったかなと思います。
猫や動物を主人公にして描かれた作品というのは、小説に限らず、漫画やアニメも数多ありまして、題材としては比較的よくあるものだと思います。だとすると、作者独自の視点とかストーリー展開というものがミソになってくるのですが、今回の作品だと、そういったものはあんまり感じなかったかなあ。せっかくの「猫視点」も、猫じゃらしや猫除けペットボトルなど、猫あるあるの組み合わせになってしまっていて、応募原稿も似たような雰囲気だとすると、文章やストーリーにパンチの効いた作品には勝てないかもしれないな、と思いました。
新人賞に通る作品て、巧い作品より、意味不明な熱量のある作品が多いんですよね。熱量だけはプロの作品を凌駕している、という作品もたくさんあります。何か表現したい、伝えたい、という想いが溢れ出しているような。そういう作品は、多少文章が粗かったり、物語に無理があったとしても、読み手の心に引っかかる「フック」があります。今回の作品に一番必要なものは、そういう「フック」だと思いました。
もし、質問者さんが今後も新人賞を狙っていくなら、もっと、自分が書きたいもの、描きたい思いを突き詰めてみて、モノカキとしてのアイデンティティとか、独創性みたいな部分を深めていってみてはどうかなと思います。
日本語がままならないような書き手ではないと思いますから、自分の書きたいものを意識して書いていれば、だんだん文章や文体にも自分の色がついてくると思いますし、ストーリーにも起伏や感情が出てくると思いますのでね。自分の作品を読んでくれた人にどう「面白さ」を届けるのかを考えながら、ぜひまたトライしてみてください。
--------------------------------------------------------------
というわけでございまして、今回もいただいた文章に対してちょろっとアドバイスをさせていただきました。もしね、自分の書いた文章を読んで、アドバイスが欲しい!という方がいらっしゃいましたら、以下の注意点だけ確認の上、どしどしお寄せください。
・長編は読めないので、2000字くらいまでの短文で。
・文章の校閲や校正はしません。
・具体的なストーリーの修正案やアイデアは出しません。
・あくまで、僕が自著宣伝目的もあって無料で受け付けているだけなので、
他の作家さんにアドバイス依頼をかけるのだけは絶対にご遠慮下さい!
あとあれだ。プロとかセミプロの人は勘弁して下さい、、、!
デビュー作じゃないですが、熱量だけはえらいことになった文庫新刊もよかったらご一読くださいませ。
小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp