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ご質問にお答えします(1)「作家養成所、専門学校について」

 さて、自分のお仕事にかまけてなかなか更新できないモノカキTIPSでございますが、今回は読んでくださっている方からご質問をいただきましたので、それにお答えしていこうかなあという、ネタ他力本願回でございます。ご質問お送りいただいた方、ありがとうございます。

■さっそく質問内容

 ということで、今回届いた質問はコチラ。

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 ご丁寧に、「ブログ見てます」のコメントも頂きました。萌えますね(死語)。

 なるほど、質問の内容はよくわかります。将来、小説家になりたい!と思ったら、その道に向けて全力で学びたいと思うけれども、果たしてそれは本当に小説家への近道なのだろうか、、、? というね。
 僕も、若かりし頃は歌うたいになりたい!なんて思って、大学はいかずに専門学校に行くと言い出して、それだけはやめろと親に説得された記憶があります。(ちがう)

 僕は、小説に関しては養成所も専門学校も行ったことがないので、実際にお会いした作家さんのお話を聞いたことや、小説講座を覗かしていただいた経験などを踏まえて、あくまで個人的な意見として以下書かせていただきますね。

■小説を学べるところとは?

 さて、小説を学ぶ場と言うのも、いくつか種類があると思うのです。まず一つは、文章の組み立てや基礎をカリキュラムを組んで教えてくれる、シナリオスクールのようなところ。もう一つは、作家本人や元編集者などの経験者が教えるカルチャーセンターやワークショップのようなところですね。

 前者は、原稿を書く時のルールですとか、シナリオの組み立て方、といった「技術体系」を教えてくれるところだと思います。後者は、主催者によっていろいろ方向性の違いはあると思いますが、現場の生の声や実際の体験談、作家自身の方法論などを軸に教えてもらう場、という感じでしょうか。

 つまり、調理師専門学校とお料理教室みたいなものだと思うんですよね。

 調理師専門学校ですと、料理の基礎や技術を教えてくれて、卒業すると調理師免許が取得できます。就職先も斡旋してくれますし、「調理師になる」ということだけを考えれば、非常に有利です。

 対して、お料理教室は、講師の料理人や料理研究家の人が、「私はこう作る」といった自身の体験やセンスを織り交ぜつつ、料理の作り方を教えてくれます。食材の意外な組み合わせだったり、調理道具の便利な活用法だったり、講師の独特な視点を学ぶことができるわけです。

■メリットについて

 いずれも、学ぶ場における一番の利点は「誰かが添削してくれる」ことだと思います。人が読むことを意識して文章を書いて、それを読んだ人の感想を聞く、というのは、なかなか一人では出来ないことですし、それはとても大事な経験です。
 だいたい、新人賞一次落ち、みたいな作品を読ませて頂くと、文章が一人よがりになってしまっていて、それを「自分の世界観」と勘違いしている人も多いので、他者の視点が入る、評価される、というのは、自己満足の殻を破るいい経験になると思います。ここは面白い、ここは上手い、と言ってもらえたらやる気も出ますしね。

 もう一つの利点は、基礎を学べること。前述の添削も含めて、自分の文章力というものを客観的に判断してもらえることになりますから、自分では書けていると思っていたのに伝わらない、とか、自分が正しいと思っていた日本語が間違っていた、とか、そういう個人出来は出来ない「気づき」が、ぐっと文章力を上げてくれると思います。

■デメリットについて

 では逆に、デメリットもあるのだろうか、というと、これは精神的なものが大きいかな、と個人的には思います。全員に当てはまるものではないと思いますけども、大きいのは、「やってる気になる」という点。

 スクールなどに通うことで、自分では「夢に向かって努力している、行動している」という気持ちが生まれると思います。業界の裏話を聞いたり実際に作家さんと面識を持ったりすると、「自分は一般の人間とは違うんだ」という感覚を持つこともあるんじゃないかなと。

 でも、それはとても危険なことだと思うんですよね。
 
 スクールに通って勉強しても、どうしても技術やセンスがプロレベルまで追いつかない人もいますし、運に恵まれない人もいます。なので、どこかで自分の社会生活を犠牲にすることに線を引かなければならないものだと思うんですが、「私はやっている」と思ってしまうと、ここまでやって来たのに、という思いが出て、惰性でだらだらと続けてしまいがちです。

 こういったスクールも商売という側面はありますから、「生徒を繋ぎとめる」「効果をアピールする」ということはどうしてもせざるを得ません。生徒を無理矢理褒めてみたり、あと一歩まで成長しているのに、と希望を持たせてみたり、ということをするところもあるかもしれません。どれだけプロには程遠い文章を書いていても、「諦めろ」と宣告してくれるスクールはほとんどない、ということは自覚しておく必要があります。

■実際問題どうなのか

 では、実際、プロの作家さんはスクールに通っていたのか、というお話ですけれども、ライターや脚本家さんと比べると、小説家で「スクールに通った」という人は、割合的にそれほど大きくないと感じます。脚本家さんなんて、ほとんど皆さん一度はスクールに通ってるんじゃないかと思うほどですけど、作家さんで「〇〇スクールの出身です」と自己紹介する人はあまり見たことがないですねえ。

 ただ、もちろんいないわけじゃないです。複数のプロ作家を輩出しているようなところもありますし、ライターや脚本家、編集者を経て小説家になった方の中には、スクールに通っていた、という方もいらっしゃるように思います。僕の知っている作家さんでも、某ワークショップに通っていた、という方もいらっしゃいますね。

 余談ですけど、作家も含め、出版界に明らかに多いな、と思うのは、「早稲田大学文学部出身」、いわゆるワセブン出身の皆さん。プロ作家の経歴なんて、僕みたいな地方大学卒から、長いこと専業主婦やってました、とか、刑務所入ってました、みたいな人まで種々様々ですけど、ワセブン出身という方は、ほんとに一大派閥ができるんじゃないかと思うほど多いです。
 僕の場合、最初についた単行本の編集さんも、最近ついた新しい文庫の編集さんもワセブン。芥川賞、直木賞受賞作家の経歴でも、明らかに「早稲田大卒」が突出してるので、もう、その辺のスクールに通うなら、早稲田の文学部に行くのが一番の近道なんじゃないかと思うくらいですけどもね。

■結論

 ということでございまして、結論的には「早稲田行け」というどうしようもないところに落としてしまいましたけども、「小説家になるため」ではなく、「自分の小説を書く力を伸ばすため」という考えであれば、専門学校や養成所といったところももちろん意味があると思います。

 前述の通り、調理師専門を出れば、「調理師」にはなりやすいんですよ。お料理教室に通えば、美味しい料理のレパートリーは増えるはずです。ただそれが、自分の創作料理を食べさせるような「料理人」になるための近道になるか?というと、必ずしもそうとは言えないわけです。そこには、個人の独創性やセンスも必要ですし、人との繋がりや運といったものも関係しますからね。小説も同じことです。

 小説というものは少しアーティスティックな要素も持っているものでして、技術や視点といった「教えてもらえる部分」と、それをどう活かしていくか、どう自分のセンスや人生経験と融合させていくか、という「誰にも教えられない部分」の両方を伸ばしていく必要があると思うんですよね。
 なので、スクールに通うにしても、「ここに通えば小説家に近づくんだ」と責任を向こうに預けるのではなく、あくまでも「ここは自分の小説を面白くするための糧」と考えるとよいんじゃないかな思います。小説家になるためには、「面白い小説を書くこと」が唯一の近道だと思いますからね。

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ということでございまして、今回はお寄せいただいた質問に回答させていただきました。回答になっているかは別として、こんな感じで何か聞きたいことがある、という方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽に質問をお寄せくださいませ。

まあ、すぐ回答できるかはわかりませんがね、、、、、
気長にお待ちいただければ。


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小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp