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【第8回】視点・人称によるメリットとデメリット<初級編>

 最近、モノカキTIPSがめっきりご質問に頼りっきりになっておりまして大変に申し訳ない限りだったので、今回はね、通常回にしてみようかなと思います。たまには技術論でも語ってみましょうかね。

 というわけで、今回のTIPSは、皆さんが迷われるかもしれない、小説の地の文における人称・視点の問題について。お話させていただきます。一回目は初級編ということで、とてもベーシックなお話。

■視点の種類

 さて、念のため「地の文」の説明をしますと、小説においては「会話文以外の文章」となりますでしょうか。小説では、漫画や映画と違ってストーリーを語る「語り部(視点人物)」が必ず存在しなければならないわけですけれども、「地の文」は、この語り部の視点から語られる文章、ということになります。

 語り部を誰にするか、視点をどこに置くか、というところで、小説全体の形式、文体、ストーリー構成が大きく変わってきますので、設定やプロットとともに、書き始めるにあたっては非常に重要な要素となりますね。

 まず、視点を考える上で一番大きい分かれ道ですけれども、それは「主観視点」か、「客観視点」か、というところですね。

 「主観視点」とは、語り部が物語の主人公(または登場人物)であり、作家はこの登場人物の視点で話を書きます。読者は、その登場人物の視点を通して、物語世界を見ることになります。

 その場合、地の文は「俺」「私」など、主人公の一人称が用いられます。「俺は〇〇を見て、怒りを覚えた」「私の手の中には、△△が残った」などなど、視点人物のモノローグ(一人語り)という形式で話を進めます。この場合は、「一人称主観視点」といいますね。

 一体、この視点人物は誰に向かってしゃべってるん?というツッコミがたまにありますけれども、小説のお約束なので気にせず書きましょう。

 続いて、「客観視点」。こちらは、物語には登場しない誰か、傍観者の視点で書く場合です。勘違いしてはいけないのは、「物語の主人公を見ている、脇役の視点」ではないということです。それはあくまで主観視点。物語上、存在しないはずの誰かの視点が客観視点ということになります。つまり、映画であれば観客の視点。もしくは、すべてをお見通しな神の視点です。作者の視点でもありますね。

 客観視点の場合は、地の文で出てくる人称はすべて「三人称」になります。「山田は〇〇を見て、怒った」「伊藤の手の中には、△△が残っていた」というように、登場人物たちには見えない語り部が話を進めていくことになります。これは「三人称客観視点」です。

 さて、大まかに分けると小説の視点・人称というのはこの二つに大別できるわけなんですけれども、現代小説といわれるジャンルでは、さらに、「三人称客観視点だけど限りなく主観視点に近い」という作品が多いと思います。背後霊とか守護霊みたいな視点で、主人公の近くにひっついて物を見ていて、たまに主人公の内面にするっと入って気持ちを代弁したりする、という視点ですね。この場合は、「三人称一元視点」と表現されることが多いと思います。

 まずはこの三パターンを押さえておけば、大体の小説に対応できると思いますね。これ以外はたぶんレアケースなので、筆力がついて、新しい表現にチャレンジしたいときに考えるといいんじゃないかなあと。

 さらに、これら人称・視点は、「単一か」「複数か」という枝分かれをします。「単一視点」というのは、物語の最初から終わりまで視点が変わらないこと。対する「複数視点」は、物語の中で何人かの視点人物が存在する場合を言います。小説は、これらの「視点」「人称」の組み合わせで、読み味やストーリー構成を考えていくわけですね。

■各視点での基本的な書き方

 さて、前述の人称&視点の3パターンですが、それぞれちょっとしたコツがあります。ちょっと例文にしてみますね。

・一人称主観視点
俺は〇〇を見て、過去の出来事を思い出し、怒りに震えた」

・三人称客観視点
山田は〇〇を見て、過去の出来事を思い出したのか、怒りに震えた」

・三人称一元視点
山田は〇〇を見て、過去の出来事を思い出し、怒りに震えた」

 さて、違いがお判りでしょうか。

 一人称主観視点では、主人公自身が感じた思いを、地の文として表現することができます。なので、「過去の出来事を思い出した」という、本人にしかわからない内心や感情も書くことができるわけです。

 対して、三人称客観視点では、主人公であっても他人の視点で見ていますから、内心はわからないわけです。なので、他者にはわからない部分は推測として書かなければなりません。「怒りに震えた」は、他人から見ても一目瞭然なのでそのまま書いてOKですが、「過去の出来事を思い出し」と書いてしまうと、お前はなんで主人公の心の中が読めるんじゃ、と突っ込まれてしまいます。
 ただし、これも「神の視点」で書くことによって、すべての登場人物の内面を書き出すことができます。神様は全知全能で、登場人物の内面もお見通しなので、「過去の出来事を思い出し」でも大丈夫です。でも、全体的に登場人物たちを少し上から俯瞰するような感じになります。

 そして、三人称一元視点。これは前二つのいいとこどりで、ちょい客観的な視点から見るので、外見的な描写も客観視点できるし、時には内面に入り込んで、主人公の気持ちなんかも我がことのように書ける、という利点があります。神の視点ではあるのですが、限りなく本人に近い神の視点、という感じですね。もちろん、ある程度の制限はあるので、これがベスト、というわけではないですが。

 さて、もう一つ。今度は「逆」のパターンです。

・一人称主観視点
 わたしは恥ずかしさのあまり、顔が赤くなっていくのを感じた。
・三人称客観視点
 伊藤は恥ずかしかったのか、顔が赤くなった。
・三人称一元視点
 
伊藤は恥ずかしさのあまり、顔が赤くなった。

 今度は、一人称視点での注意点。一人称視点では、登場人物の主観ですから、自分の内面は表現できるのですけれども、自分自身を客観的に見ることは不得意です。なので、例文のように「自分の顔が赤くなった」というのは、鏡でもないと見ることはできないので、「わたしの顔が赤くなった」と書いてしまうと、「視点ブレ」ということになってしまいます。本人が知覚できるのは、顔に血が集まってきて頬っぺたが火照ってくる感覚くらいなわけですね。その感覚を得ることでようやく、ああわたし、たぶん今顔が真っ赤なんだ、と視点人物が理解することになります。一人称視点の場合は、そういう、自分自身の客観的表現に対する知覚のプロセスをちゃんと意識しないといけない、ということですね。

 対して、三人称視点は視点人物を客観的に見るという表現は得意なので、自分が(客観視点として)見ている光景をそのまま書けばまず問題はないです。その代わり、三人称一元視点の時は、場面の主となる視点人物は一人に決めたほうがいいので、その場合は一人称視点とほぼ同じで、視点人物を中心に、主観・客観を意識する必要があります。

■視点に関するルール

 さて、いずれの場合においても、視点というのはあまりころころ切り替えることはできません。ある一つの場面で、急に視点が変わってしまうと、読者を混乱させることになるからですね。なので、同じ場面での視点切り替えは行わない、というのが基本的なルールになります。
 まあ、小説に明確なルールはないので、新しい表現としてめちゃくちゃ視点切り替えの入る小説を書いてもいいんですけれども、やってみりゃわかるんですが、書きにくい上に読んでる人も混乱しかしないので、普通の商業作家を目指すなら、ルールとして考えておいていいと思います。

 どっちかっていうと、うっかり視点が切り替わって視点ブレが起きてしまっていた、ということの方が多いと思いますので、そういうことがないように気をつけましょう、ということですね。

 ストーリー構成上、どうしても複数人物の視点で語らなければいけない場合、一場面の中で視点を切り替えるのはNGなので、最低限、章や節を区切る必要があります。それでもやっぱり読者を混乱させてしまいかねないので、いろいろ工夫は必要になります。その辺については、次回の中級編にて。

■視点は書き出す前に決めたほうがいい

 さて、僕が新人賞に応募した頃は、こういった「視点」という考え方を知らなかったもので、応募原稿は何カ所か視点ブレがあったんですよね。実は、商業出版するようになってからも一回やらかしてしまったことがあります。文庫化する時に、しれっと直したんですけれども。今思えばなんともお恥ずかしい限り。おまいうですけど、皆さん気をつけましょうね。

 案外、ばーっと読んでると気がつかないもので、一般読者さんはスルーしてくれることもあるんですけど、気がついちゃう人はやっぱりおりますし、書評家さんとかは厳しく見ていらっしゃると思いますね。
 新人賞レベルだとね、あまり甚だしいブレでなければ、今後の伸びしろも踏まえて大目に見てくれることもあると思いますけれども、プロになって賞を獲って人気作家になりたい!という方は、やっぱり基礎的な文章の技術が備わっていないと賞の候補になんかなりませんから、なんとなくノリで書くのではなくて、きっちり意識して書くとよいんじゃないかなと思います。

 視点については、物語の執筆を始める前、それも、プロットを立て始める前にキッチリ決めてしまうことをお勧めします。なんで?という理由については、また次回ということで。

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 さて、今回は初級編ということでしたが、次回は中級編。とはいいつつも、何を書くかはほとんど決めていないので、気長にお待ちください!

 質問は随時受け付けておりまーす。主に小説に関しての質問を頂いておりますが、それ以外でも気楽にお寄せくださいませ。

新刊もどうぞよろしく、、! 第二弾制作も決まりましたー

小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp