見出し画像

ご質問にお答えします(24)「読者目線」を理解するためには

 師走に入り、今年ももうあとわずかですね。でもまだまだ終われない2022年。原稿が上がらなくて終われない2022。なんとか年内に終わらせたい2022年、、、!

 という、危機的状況の僕でございますが、モノカキTIPSはやりますよ!今回のご質問はこちら!


今回のご質問

 ということでございまして、今回は「読者目線」についてのご質問。モノカキTIPSでも、結構頻繁に「読者目線(視点)を意識しましょう!」というお話をしておりますけれども、じゃあ実際読者目線てどうやったら理解できるのかね?という内容ですね。確かにそうですね。意識すれ!としか言ってこなかったですしね。

 では、今回は「読者目線」について、お話してまいりましょー。 

■読者目線はなぜ大事なのか

 おそらく、質問者さんご自身は「読者目線」を意識するのがなぜ大事なのかある程度わかっていらっしゃるんだと思うんですが、一応、他にもご覧になっている人もおりますので、まずはざっくりと前提のご説明から。

 「読者目線」とは、読者側から見て、作品の表現や文章などがどう見えるのか、という視点のことですね。書き手は、自分の作品については最初からオチも知っていますし、文章の意図もわかっていますが、読者は結末を知らず、作者の意図を文章から読解するしかありません。また、性別・年代・国籍・政治信条などの違う読者がたくさんおられますので、①ストーリーや設定、シーンを理解するために適切な情報が提示されているか ②文章がちゃんと伝わるか ③不快な言葉、人によって差別的と感じるような表現はないか といったことを、客観的な視点でチェックする必要があるわけです。単に、文章やストーリーを理解しやすくするだけでなく、ミステリなんかでしたら、情報の出しどころ、タイミング、量なんてものを適切にコントロールできるようにもなりますから、「読者目線」を意識すると、作品そのもののクオリティアップにも繋がるわけですね。

 例えばですが、昨今、Youtuberの人が悪ノリして人に迷惑をかけたり、非常識な行動を取ったりして後々謝罪動画を上げる、なんてことが頻発しておりますけれども、これは「視聴者目線」の欠如によるものだと思うんですよね。本人たちは、誰かに不快な思いをさせてやろう、と思っているわけではなく、より注目されるにはどうするかを考えて、面白がってもらえるはず、と思って撮っています。
 でも、その「面白い」が、自分の主観や内輪だけにしか通用しないものであると、世間に向けて公開したときに受け入れてもらえず、炎上、謝罪、というコースを辿ることになります。動画を視聴している人というのは、年代も、育ってきた文化や価値観も違うので、自分が面白いと思っていることが、人にとっても面白いとは限らないわけですね。

 小説を書くということも同じで、だいたいの書き手はは自分の思いついたアイデアが「面白い」と信じて書いていると思いますけれども、それが人に伝わらないと、ただの自意識過剰、自画自賛、で終わってしまいます。だいたい、新人賞に応募して落選した後に、下読みが俺の作品を理解できないんだ! とか、正当な評価をされていない! などとぷりぷりする人は、読者目線で自分の作品を見ることができていないんだろうと思います。

 もちろん、読者の側が俺についてこい!というマイウェイな書き手もいて、作品が素晴らしければ評価されることもありますが、こと、エンタメというジャンルにおいては、一番大事なのは読者を楽しませることですから、「読者目線」は常に意識しておいて損はないと思いますね。

■有効なトレーニング方法

 さてはて、では読者目線でものを見る、という感覚を身につけるにはどうすればいいか、まずはこれをやってみよう、というトレーニング方法についてですが、

 そんなもんないのです……。

 いきなり元も子もないことを言ったんですが、こればっかりはですね、テクニックとか知識、スキルの問題とは根本的に違うのです。なので、有効なトレーニング方法なんて存在しないと思います。「読者目線」でものを考えられるようになるまでには無数の道が存在していて、それは書き手それぞれ辿るルートが違います。質問者さんが、僕と同じことをしても読者目線を理解できるとは限りません。正解がないんですよ。

なので、有効なトレーニング方法などはない、としか言いようがないというのが正直なところです。

 じゃあ無理じゃん、、、 と思うかもしれませんが、そんなことはありません。言葉で説明したり、定義したりすることは難しくても、僕たちは日常的に、読者目線を理解しようとするのと同じことを考えているからです。

■読者目線は、書き手のホスピタリティ

 質問者さんには、恋人や配偶者、親友や家族など、大切な人はいるでしょうか。その大切な人の誕生日が近づいてきたとき、プレゼントはどうしようかな、などと考えたことはありませんか?

 特に、サプライズでプレゼントしよう!ということになったら、相手がもらって嬉しいものはなんだろう、確か、前にこういうのが好きって言ってたよね、とかなんとか、一生懸命相手のことを考えて、喜んでもらえるプレゼントを贈ろうとするんじゃないかと思います。

 これが、「読者目線」を考えることと同じなのです。

 書き手は、自分の小説を読んでくれる人が、どう感じてくれるだろう、笑ってくれるか、じんと感動してくれるか、怒ったり悲しんだりしてくれるか、楽しんでくれるか、一生懸命考えます。質問の中では、そういう読者の心の動きをどうやったらわかるようになるのか、という問いがありましたけれど、ぶっちゃけわからないのですよ。僕もわかりません。想像して、自分なりに答えを見つけるしかありません。

 いつも一緒にいる恋人だって内心を覗き見ることはできませんし、どれだけ相手のことをわかっていると思っても、相手の心を完璧に理解することはできないわけです。だから、どんなプレゼントが喜ばれるのか、一生懸命考えなければ相手を喜ばすことができません。相手の言葉ひとつひとつを思い出してヒントにしたり、日々の生活で相手が欲しそうにしているものを観察したりします。

 その結果、こういうものだったらきっと喜んでくれるだろう、と自分で思うものをプレゼントしますよね。読者目線で考えながら小説を書く、というのも、他者の気持ちを想像する、ということなんだと思います。

 でも、読者なんて顔も見たことないし、なにを考えてるかわからないんだから気持ちを想像しようがない、と思うかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、多くの人が訪れるホテルや旅館はどうでしょう。リピーターのお客さんもいるでしょうが、多くは初めて訪れるお客さんです。でも、旅館の従業員さんやホテルマンたちは、どうすれば快適に過ごしてもらえるか、一生懸命考えて、お客さんを迎えますよね。

 料理人もそう。人にはそれぞれ好みもありますし、すべての人がおいしいと言ってくれる料理はなかなか作れないものです。が、多くの料理人は、どうすればお客さんが喜んでくれるだろう、と思って料理を作っているはずです。

 どんな職種でも、特にサービス業では、こういった「ホスピタリティ」という考え方は大事だと思います。お客さんが支払ってくれたお金に対して対価として提供する「サービス」は、マニュアルを作ったり、コストをかけたりすることで高品質なものにしていけます。でも「ホスピタリティ」というのは精神性、メンタリティの話なので、個々が自分の意志で持たなければいけません。

 でもまあ、そういった仕事に従事している方って、真面目に働こうとすれば、多かれ少なかれ「お客さんに喜んでもらうにはどうすればいいか」ということを考えますよね。自分の経験、ネットや本から得られる情報、先輩の話など、あらゆるヒントを総動員して、自分なりの答えを探そうとするものです。

 ですから、モノカキという職業であってもそれは同じなのです。プロ作家を支えているのは、自分の書いた本を購入し、時間を使って読んでくれる読者です。そういう人たちに、精一杯楽しんでもらいたい、と思ったら、自然と読者の目線に立って自分の作品を見よう、という考えに至ると思います。

 今回、質問者さんは「他人におもしろいと思ってもらえる小説を書きたい」と考えて、「人の小説を読んで自分の考えたことを解析する」という行動を取りました。なので、それでいいのです。そういうことを積み重ねていくのが正解で、質問者さんは読者目線でものを考えようとしている証拠です。どうすればいいんだろう、と試行錯誤して小説に反映していけば、自ずから作品は読者の目線に寄り添ったものになっていきます。

■意識すべきこと

 とはいえ、そんなざっくりした回答されても、とお思いかもしれませんので、「読者目線」を考えるときのヒントになるようなことをお伝えしておこうかな、と思います。あくまで考える出発点になるヒントなので、ここから質問者さんなりにいろいろ考えてみてほしいな、と思います。

①読者の読解力は一定ではない。
 読者によって文章を読解する力は違います。「これでわかるだろう」と思ったことが意外と通じなかったりします。かといって、説明臭くなると文章が冗長になります。端的に伝えるには、言葉を丁寧に選ぶ必要があります。

②好意を持ってくれているとは限らない
 読者は、自分の作品を「面白そう」と思って読んでいる人だけではありません。最初から批判的だったり、試そうとしていたり、なんなら粗探しをしようとしている人もいます。負の目線も意識し、読者に甘えないようにしましょう。

③価値観は違う
 自分の価値観は絶対ではなく、育ってきた環境、仕事、性別、年代などなど、いろいろな角度から一つの物事を見る必要があります。特に、小説については読者の中の一番のボリュームゾーンは「30代・40代の女性」ですから、男性の書き手は価値観の差に気をつけたほうがよいです。逆も然りですが。

④自分を常に客観視する
 
自分の作品だけでなく、常日頃から自分は周りからどういう人間に見えているだろう、とか、自分の言動はどういう印象を与えただろう、と考えてみることは大事です。そういうものの見方が読者目線の理解につながります。

⑤誰かに作品の感想をもらう
 有効なトレーニング方法はない、と前述しましたが、しいて言うなら一番効果的なのは作品を読んでもらい、感想をもらうことだと思います。その感想そのものだけではなく、読んでくれた人がどこに注目したのか、どういうところを気にしているのか、という、感想が出てくるまでの過程も積極的に観察しましょう。

■結論

 「読者目線」は、モノカキには重要な考え方で、読者から見た自分の作品をイメージすることで、よりクオリティの高い作品を書くことができるようになります。ただし、読者目線を想像することはテクニックやスキルとは違って、書き手のホスピタリティによる部分が大きいです。

 常に、読者が存在していることを意識して、まるで恋人にプレゼントを贈るときのように、読者がどう感じるか、どうすれば楽しんでくれるかを考えながら文章を書き続けていることで、だんだんと読者目線を意識できるようになっていきます。

 プロの書き手でも、読者一人一人の心理をすべて見通せるわけではありません。読んでくれた人の感想や編集者の意見、日ごろの人間観察、他作家の本を読んだ時の自分の心の動きなど、生活しながら経験していることを総動員して、読者目線に立とうと努力しているのです。

 読者目線を意識して、それをしっかり作品に反映させるには、経験が必要かもしれません。でも、読者をどう楽しませればいいのだろう、自分の作品をどう感じるだろう、と考えること自体が、読者目線を理解する第一歩ですし、意識した時点から少しずつ自分の作品は変わっていきます。なかなか近道はないですが、質問者さんは今の気持ちを忘れずに作品を書き上げていけばよいのではないかなと思います。


 読者目線を想像する能力が僕にあったのか、というと、そんなに特別な力はないんじゃないかなと思うんですよね。プロになると編集さんからいろいろ意見をもらえたりするので、それはとてもいい勉強になりましたけどね。

 でも、アマチュアの頃から、自分や自分の作品を客観視するのは得意だったかもしれないですね。僕は、自分自身を後方斜め上から映すカメラのような視点があって、いつも生活しているときはその視点がメインカメラになっている気がします。作家さんとお話をしていると、こういう感覚を理解してくれる方、自分もそうだ、という方もいらっしゃるので、客観視点でものを見ることに慣れている人の方が、読者目線も想像しやすく、作家向きなのかもしれないなあと思います。

 まあ、もちろんそういう感覚がある作家さんばかりではないですし、僕も子供の頃からそうだったわけではなく、大人になってから客観視の感覚を持つようになったので、きっと先天的な才能とかじゃないんだと思います。バックカメラの感覚がわからないからといって作家になれないわけではないですからね。そこは安心していただいて。でも、こういう感覚をイメージするだけでもちょっと変わってくるかもしれないですね。


 モノカキTIPSでは質問を随時募集しております。小説に関するご質問、その他答えられる範囲のご質問であればなんでも回答させていただきますので、どしどしお寄せくださいませ。 



【おしらせ】

新刊出ます。この作品は読者目線に立てたかなあー
予約受付中ですので、みなさまぜひぜひ。



小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp