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ウィルソン氏に花束を

 人はなぜ、祝い事や見舞いの際に花束を贈るのか。どうして花束をもらうと嬉しいのか。このような疑問に目をつけ、一つの考えを導き出した生物学者がいる。その人こそ、エドワード・O・ウィルソンである。彼は、人が花や自然を愛する理由として、「バイオフィリア」という考えを持ち出した。バイオフィリアとは、他の生命体、および、生命全体のプロセスと「親和的な関係を構築しようとする」人間の精神的な性向のことである。簡単に言えば、人が他の生物や自然に対して、関心や好意を抱く性質のことである。

 私たちが生物多様性や自然環境を守るべき理由として、バイオフィリアを提案したウィルソン氏だが、2021年12月に亡くなられたことが報じられた。ウィルソン氏の実績は、バイオフィリアだけではない。昆虫学者でアリの専門家だったウィルソン氏は、「社会生物学」と呼ばれる科学の一分野を築き上げた。さらに、ロバート・H・マッカーサーと共に島の多様性の平衡理論を完成させた。数学的手法を用いて、生物多様性を定量化したのである。

 「ダーウィンの後継者」と称されたウィルソン氏の降壇は、生物学史における一つの時代の区切りにもなり得る。私は生物学を学ぶ身として、彼の著作や理論をいくつか読んだことがある。どれをとってもセンセーショナルな内容であり、なお一層生物学が好きになるものばかりである。多くの功績と名著を残したウィルソン氏を追悼し、花束を贈りたい。

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