裏庭のお茶会とスコーン、サンドウィッチ
1.おばさま宅での、初めてのお茶会
中学生の頃、父の仕事のため私の家族はまるごと、イギリス郊外の大学街で一年間過ごした。初めての海外生活のあれこれをご指南くださったのが、おばさまご夫妻であった。それもバスの中で、おばさまの方から日本の方?と話しかけられて始まったお付き合いだった。
ほどなく「お茶会をしましょう」とお誘いがあった。仮住まいから歩いて10分ほどの落ち着いた住宅地に、おばさまの家がある。一見すると大きめの家だが、実はお隣さんと折半している、セミデタッチドハウスと呼ばれる、二軒つながりの建物である。Templar Road という名前の道沿いで、洒脱なおじさまは「天ぷら横町だよ」と言っていた。銀座の天ぷら屋は、おやじが「はげ」←ママ(・_・; だから「ハゲ天」なんだよ、という昔話も。銀座の、それも馴染みの天ぷら屋というくだりだけで、日本の話なのだが舶来の匂いがした。
お宅に入って道路の反対側に抜けると、細長い裏庭が広がっている。隣家との境界は簡単な木柵しかないので、近所の数軒の裏庭がつながって広く見える。それでも、それぞれのお宅が様々な趣向を凝らした樹木や花を植えているので、庭のテイストはだいぶ異なっている。庭の手入れをしたり洗濯物を干したりして隣人と遭遇すると、柵越しにガーデニング話となる。そうした会話はゆっくり、はっきりした英語で分かりやすい上に、気分もゆっくりする。
おばさまの家の裏庭は、おばさまの性格に近いのか、あまり細かな草花にこだわらず、しかしいつも芝生は刈り込んで整えられていた(どこからかは不明だが、芝刈り機は貸してもらえた)。庭の奥の小高い部分は、かつての防空壕で、さびたドアがある。空襲があったらしく、この部分については、隣人との会話では触れない必要があったかもしれない。
種類は覚えていないが(聞いてもおそらく分からないが)、ほどよい高さの樹木が植えられていて、その近くに庭用の二つのテーブルと布製のパラソル、人数分の背もたれ付きの折りたたみ椅子やスツールを用意して、お茶会は始まった。
2.紅茶とスコーンなど
お茶はもちろん、紅茶。銀製のポットにたっぷり入っている。ティーコジーというものを初めて見た。薄い中綿が入った淡いブルーのキルトで、ポットにかぶせ、お茶を注ぐ時は手が熱くならない。温めたミルクをカップに入れてから、紅茶を注ぐ。おじさまの蘊蓄によると、先にミルクを注いでおくとカップに汚れがつきづらく、洗う手間が減る。昔のメイド(使用人)たちが編み出した裏技?だそうだ。
おばさまの家の、道路沿いの部屋は、大きな丸い出窓となっている。こうした長屋で、教育熱心な家は、窓にカーテンがついてないからすぐ分かるよ、と、おじさま。たしかに出窓は、装飾性があって値の張る重厚なカーテンが似合いそうだ。裏庭にもそのような事情があるのか、趣味の問題かは分からないが、裏庭沿いの窓のカーテンは、多くの隣家が無地のアイボリーの帆布のようで、庭の緑と、黄色がかった家の壁に映えてきれいだった。
初「スコーン」もいただいた。あたたかいスコーンをフォークで刺して横半分に割り、ベリーのジャムやクロテッドクリームをつけていただく。平たいお皿は縁飾りのついた、ミントン製だと思う。
そしてサンドウィッチ。薄い食パンに、さらに薄くスライスしたキュウリやトマトと、ツナ、ハム、波形に切ったチーズなどが入っている。パテも初めてだった。マヨネーズやマイユの粒入りマスタードも塗って、耳を切り落として四つ切りにした、端正な四角。パンを焼いてあるものもおいしかった。
30年ほど前だが、鮮明に覚えている。さらにいうと、身体にしみこんでいる。今でも、紅茶をいただく時、サンドウィッチを作る時、いつも「天ぷら横町」の家が浮かび、おばさまの声が聞こえるように思う。パスタをゆでる時は、お湯をいっぱいわかして、パスタは両手でねじって、とん、と鍋底に付いたら、鍋の縁に丸く広がるようにして。そうそう、手早くね・・・といった具合に。
3.お茶会のあと
その後、何度かおばさまの家の台所で料理を教えてもらうことになる。こだわりはあるけど細かいことや決まった作業には時間をかけず、電子レンジもよく使った。一人分の紅茶は、丈夫なマグカップで、電子レンジであたためる。毎朝のミルクも、二人分までなら電子レンジが効率的らしい。ただしボーンチャイナは、熱に弱いので注意する。香蘭の女学校卒で、料理は科学、がモットーだった。
おじさまから、ボーンチャイナの由来も聞いた。イギリスらしい合理性が生み出した、最上の製品だと。
誕生日には、バースデーカップをいただいた。コールポートのお品だが、パディントンベアがプリントされたマグカップである。ろうそくは一本で一歳向け(・_・; 大人になってね、という、おばさま独自のユーモアのあるメッセージがこめられていたと思う。高校生になってうかがった時は、クラブツリー&イヴリンのオードトワレとタルカムパウダーをいただいた。ポプリのように色々混ざったような、ラベンダーの香りだった。
マグカップは、電子レンジで使ったせいか取っ手がとれ(セメダインで補修)、トワレは廃版となったようだが、大切にしている。
付記:note 投稿2つ目。保存したものを、どの画面・操作で公開できるか、ハッシュタグの付け方で迷った。慣れてくるとよいですが。
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