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宜保榮次郎「三線のはなし」

仕事で全国を回っていた頃、よく出張先の書店に立ち寄り、地元の出版社の本を買うことがありました。
買う本はもちろんその地元の事物をテーマにした本です。
地域には地域の出版社がちゃんとあって、地方色豊かな本が出版されているのです。
宿泊先では夜な夜なそれらの本を読みながら、その地についての思いを深めたりしていました。

この「三線のはなし」は那覇の書店で買った一冊です。
おきなわ文庫という出版社から発行されていました。
この出版社からはこの新書判のシリーズでたくさんあって、それを買おうか選ぶのに苦労した記憶があります。

話はそれますが、私はかつて民謡が大嫌いだった時期があります。
その頃は、どこの民謡であっても三味線の伴奏で甲高く、長く伸ばした声を耳にしただけで、閉口するほどでした。
琉球民謡も同じでした。
ゆったりした節回しが私の耳に合わず、沖縄に出張するたびに耳にしてうんざりしていました。

しかし、ある時、突然琉球民謡に目覚めました。
3回目の出張の時、ある朝ホテルで目覚め、何気なく据付けのラジオのスイッチを入れると琉球民謡が流れてきました。
それを耳にした瞬間、私は一瞬不快な気分になったのですが、その次の瞬間には、そのメロディ・声・伴奏の三線の音が強く心に響いて来たのです。
「なんだこの素晴らしい曲は……」
何の前触れもなく、突然、天啓のごとく琉球民謡に目覚めたのです(曲は名前は忘れましたが、琉球舞踊の曲でした)。
そして、三線を弾きたくなりました。

その日は土曜日、仕事もなく午後には帰途に着く予定でした。
あまり時間がなかったのですが、即座にネットで三線の種類や価格などの情報を得て、牧志の商店街の楽器店に行き、一棹購入したのでした。

もちろん、私は三線を弾けませんから、その後、久茂地のデパートで教則本(NHK趣味悠々「めんそ〜れ!知名定男の三線入門」)も買いました。
その時に一緒に買ったのがこの「三線のはなし」でした。
……

この本は、簡単にいえば三線についての紹介本です。
三線の形状(その種類)、材料(棹や本体は黒檀など、皮はダルマニシキヘビ)、音の出る仕組み(角のようなバチを人差し指の先にはめ、それで弦を弾きます。弦を押さえる時、薬指は使わない、琉球音楽の音階には原則「レ」と「ラ」がない)などの説明から、その歴史、楽譜「工工四(くんくんしー)」(漢字で音階を表現しています)の解説、名器(開鐘(けーじょー)と言います)の紹介などなど、実に興味深い話が載っています。
著者は沖縄県内をぐるりと回って調査を進め、情報を得ているようですが、その結果は十二分に出ている内容だと思います。

特に面白かったのは、三線にまつわるさまざまなエピソードです。
名器のことを別に「開鐘(けーじょー)」と言います。
これは首里城が開門する際に鳴らす鐘の音が「遠くに響く」ということを当て、いい音で響く三線を名器としてこう呼びならわしたようです。
「五開鐘」(説によって何種類かあります)が有名で、そのうちの数本は沖縄県立博物館・美術館に収蔵されています。

「呪いの三線」というものの紹介もありました。
その三線を手にした人には不幸が訪れるというものです。真偽は定かではないですが、まことしやかに書かれていました。
ということで、三線ファン、琉球ファンにはお勧めします。
……

なお、私が買った三線ですが、機内持ち込みして大事に持ち帰り、今も我が家にあります。
毎年夏になると弾いています。エアコンをかけずに窓を開け、暑い風を浴びながら演奏すると気持ちいいのです。
なお、沖縄では三線を弾くだけではなく、歌わないとダメなんですね(歌三線と言います)。私も下手ながら歌ってますよ。

今や琉球民謡は私の楽しみの一つになりました。
あんなに民謡嫌いだったのに不思議なこともあるものです。

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