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彼ママと2人でヨーロッパに行った話

学生時代、私の中ではわりと長くつきあった人がいる。

つきあってすぐに、彼の家で予想外に彼のママと会ってしまう。そこでちゃんと挨拶をして、誘われるがままに夜ごはんまで一緒に食べに行った。そこから私と彼ママのつきあいは始まる。

一人っ子だった彼は自分の母親とわりと仲が良く、2人で買い物にも行ったりしていた。私も混ざって3人で食事をすることもよくあった。家に行くとだいたい3人でリビングでくつろぐ、ということも日常茶飯事に。(お父さんは仕事が忙しくてなかなか会わなかった。)

彼が家の近くでバイトの日、彼のママと家で2人で彼の帰りを待っているということがあった。そのとき、テレビで旅行の番組かなんかがやっていて、それを見て「どこか行きたいね~」という話になった。それは春休みの少し前の話。

その頃彼は大学生だった。スノボにハマりすぎていた彼は、春休み、友達と山に籠ると言い出した。私はウインタースポーツまったく興味なし。寒いのもきらい。もちろん一緒に山に行くことなんてありえない。彼が数週間山に籠ることで、彼女と母親は暇を持て余してしまったのだ。

そして春休み前、私と彼ママは「2人でどこか行こう!」ということになった。世間では普通、彼女と彼ママが2人きりで旅行に行くなんてあまりない話だろう。結婚することも決まっていないのに。(その時はすると思っていたけど、実際しなかったし。)

しかも行先は6泊8日、イタリア~フランス周遊の旅。

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ツアーに申し込んで、2月の終わりか3月だったか、私と彼ママはヨーロッパに出発した。12時間ほどの長いフライトを終えて、まずはイタリアへ。飛行機が着いたのは現地時間の夜だった。

ローマは街中落書きが多く、路上駐車もすごくて、あまりきれいな思い出がない。ピザはおいしかったけど、注文してからなかなか来なくて、そのくせ男の店員さんはやたら話しかけてきて、あまりいい思い出がない。

イタリアの後はパリへ行った。念願のパリ。とても美しかった。シャンゼリゼ通りも、セーヌ川も、凱旋門も素敵だった。ルーブル美術館も、テラスのカフェで食べたクロックマダムも、ラデュレの本店も、今思い出しても最高の数日間だった。あ、モンサンミッシェルも最高だった。あの景色は一生忘れない。

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パリにいるとき、仲良くなった女性の添乗員さんと一緒に3人でランチをすることになった。私と彼ママの関係性を告げると、彼女はとても驚いていた。その添乗員さんは彼ママと同じくらいの歳だったと思うけど、「今までそんなご関係の方と会ったことはありません~。素敵ですね。いつか本当の親子になれるといいですね。」みたいなことを言っていた。

出会ったばかりの人に彼との結婚を願われて不思議な心境だったけど、悪い気はしなかった。

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彼のママも初めてのヨーロッパで、2人で姉妹のように初めて見る景色や物にキャッキャッしていた。泊まる部屋はずっと同室だったけど、2人とも心地いい疲れで毎日爆睡。まったく気まずさも気の使い過ぎもなかったと思う。少なくとも私は。

とにかく楽しい、あっという間の8日間が終わった。彼のママとの絆も、より深くなった。

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数年後、添乗員さんの願いは空しく、彼と別れることになった。

彼の部屋に置いてあった私の荷物を取りに行ったとき、彼のママが荷物と一緒に私を駅まで車で送ってくれた。

彼と出会ってつきあった数年間、彼と同じ時間だけ彼のママとも多くの思い出を残してきた。2人でヨーロッパに行ったことはもちろん、ジムに行ったり、買い物に行ったり、ごはんを食べたり、思い出が一気に蘇ってきた。

彼と別れる時よりも、ボロボロと涙がこぼれてきた。彼のママも少し泣いていた。2人とも「もう二度と会えない」ということが分かっていた。

年齢のわりに若く見えて、いつもエネルギッシュで、優しかった彼のママ。いま思い出しても、こみ上げるものがある。

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本当の娘のようにかわいがってくれた彼のママは、今も元気にしているかなと、時々思う。

あのままもしも結婚したら、どんな嫁姑になっていたかな、とも時々想像してみたりする。


あの別れが本当につらかったから、この後私は「これからつきあう人のママとは、あまり仲良くしすぎないようにしよう」と心に誓ったのだった。


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