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片想いのしまい方-13-
この記事は以下から連続した内容になっています。
もしよろしければ、順番にお読みいただけますと嬉しいです。
道化師の涙(平成元年)
ある日のバイト終わり。
その日もいつものように八軒さんにアパートまで送ってもらい、2人で夕飯を食べた後、とりとめのない雑談をしていた。
私は、何気なくテーブルの上に置かれた八軒さんの財布を見て、ふと(免許証の写真を見たい!)と思った。
「お財布の中身、見てみてもいい?」
まぁ、これはさすがに断られるだろうと思いつつ言ってみたのだが、返事は意外にも「おお、いいぞ。」だった。
ええっ、とは思ったが好奇心には勝てず「じゃあ、お言葉に甘えてー。」と財布の中身を見せてもらった。
だが、お目当ての免許証を見たら早々に気が済んでしまった。
(いくら入ってるのかとかはさすがに見づらいし、キャッシュカードとかも見ない方がいいだろうし…)と悩んでいたら、サービス券のようなものの端っこが目に入った。
これなら見てもいいだろうと思い、財布から引き出して…私は凍り付いた。
ラブホテルの割引券だった。
(ああ、そうか。こういうところに一緒に行くお相手がいたんだ。)
そう思った瞬間に私の心は砕けてしまった。
泣きたかった。
子供みたいにワーワーと声を出して泣きたかった。
(でも、今は絶対にダメだ。)
鋼の意思で平静を保った。
(大丈夫、取り合えず笑っとけ。笑っとけば後は何とでもなるから。)
私は親指と人差し指でラブホの割引券をピッと挟み、ニンマリと笑いながらこう言った。
「いいもの発見しちゃいましたぁ~♥」
「ああ、それな。友達にもらったやつや。」
「へーっ。」
「ホントだって。」
「ふーん。」
「いや、もうホントだって!ああ、じゃあもういいや、それ、かおりちゃんにやるわ。別れた彼氏とでも行ってくればいいやん。」
今度こそ、私の心は本当に粉々に砕けてしまった。
(ああ、私、別れた彼とそんなだらしない付き合いをしてると思われてたんだ…)
ショックだった。
私はただただ、八軒さんのことが好きだった。
その気持ちだけが何より大切で、私の唯一の正義だった。
だから大切な人を傷付けてでも、辛い別れを選んだ。
「私はあなたを好きになったから彼と別れたのに。なのに、なんでそんな酷いコトいうの?」と叫びたかった。
でもできなかった。
だって、ラブホの割引券を片手に告白なんて!
そんなの、いくら何でも悲しすぎるしマヌケすぎる。
心はもう、とうに壊れてしまっているというのに、私の口はバカみたいな言葉を垂れ流し続けた。
「別れた人とそんなところに行って何するんよ。っていうか、女の子がラブホの割引券持ってるのもどうかと思うよ?だって、支払いの時に彼女に『あ、私ここの割引券持ってるー!』って出されたら『どゆこと?』ってなるよね。」
「あー、確かに」
「でしょ、だからぁ、こういうものはお支払いの時に男の人がコソッと使うのがいいと思うよ。じゃあ、元のところに大事に戻しておくね。」
私は本当に根っからの道化師で、辛いことほど笑い話にしてしまう。
そういう女の子はモテないって、昔から嫌というほどわかっていたハズなのに。
その後も私達は何事もなかったかのように雑談を交わし、いつものようにおやすみとバイバイをした。
彼が帰って1人になって、ほんのちょっぴり私は泣いた。
思ったほど涙は出なかった。
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