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「コロナ危機から見える各国 シリーズ4 中国」


W H Oは6月19日、「世界で一日の感染者が15万人を超え、パンデミックは新たな危険局面に入った」と、警告を発した。
そして、中国では、北京での先週以降の新しい感染者が合わせて180人を超えた。

今回の「コロナ危機から見える各国 シリーズ」では中国を取り上げたい。

1、 状況

一度は、新型コロナウイルスの感染封じ込めに成功したかと思われていた中国北京市で、新型コロナウイルスの集団感染が起こり、中国は現在、「戦闘状態に入っている」と危機感が強まっている。
感染の震源地は、北京の胃袋とも言われ「新発地市場」で、18日までに、感染者137人が入院し、症状のない感染者も10人を超えた。19日には累計183人の感染が確認された。
中国のSNS には、「北京は、第二の武漢になるのか?」という切迫した不安の声が広がっている。

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新規感染者ゼロを56日間守ってきた北京では、警戒レベルを引き下げたばかりだった。
しかし、6月11日に一人、12日に6人、その後は毎日30人を超える感染者が見つかり、あっという間に150人を超えてしまった。
感染者は全て、「新発地市場」の関係者か、客だった。

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「新発地市場」は、北京の農産物の約8割を扱う最大の市場。
この市場での150人以上の感染者の他にも、感染は北京に隣接する河北省や東北部の遼寧省、内陸部の四川省に広がっている。(写真は AFPより)

2、 対策

北京市は緊急対応レベルを「2」に引き上げ、16日から小中学校を登校禁止にして、付近の住宅団地は封鎖。公共施設の使用も停止。             地下鉄やバスの本数も減らされた。
60%を超える北京発着のフライトもキャンセルされた。

感染リスクの高い付近の住民は、北京市から出ることを禁じられ、他の省から入ることも制限されている。
市外に出る際には、危険区域の住民でなくとも、PCR 検査が義務付けられる。
また、感染拡大の責任を取って、副区長や市場のマネージャーなど、四人が免職処分となった。

中国政府は、あえて「ロックダウン」という言葉は避けているが、厳しい外出制限が課され、北京封鎖に近い状態となっている。
中国政府は、5月30日以降にこの市場を訪れた約20万人を対象に、PCRなどの検査や追跡を進めている。

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最初、海外から輸入されたサーモンからの感染が疑われたが、市の幹部は、「サーモンからウイルスは検出されなかった」と、この説を否定している。(写真はAFP)


3、 政治的影響

「北京の安全と安定は、共産党政権に直接的影響を与える」として、最初の感染爆発の際も、北京の安全確保のために最大限の注意と厳しい政策をとってきた習近平政権にとって、北京で第二波の感染爆発が起こるとしたら、悪夢以外の何物でもない。

共産党政権の拠り所ーー正統性ーーはこれまでは、経済を発展させ民を豊かにすることで説明されてきたが、いまの中国経済は成長どころか、実質的にはマイナスと言える。失業者の数も膨れ上がり、国民の不満は大きい。

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「コロナ対策を成功させ、国民の命を守った」として政権の正統性を主張し、国民世論を動かしてきたが、万一ここで第二波を食い止められず、多くの死者が出るようなことになれば、武漢での初動の遅れや情報隠ぺいがまだ記憶に新しい国民の反発はさらに大きなものになるだろう。        (写真はテレビ東京より)
共産党にとって、何より重要な「社会の安定」が脅かされかねない。

最大の市場が閉鎖された北京では「農産物の流通が滞り、価格が上がるのでは?」との不安から、一部のスーパーなどに行列ができたため、政府は、今後一ヶ月は主な野菜10品目に価格統制を導入するとしている。

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また、市場閉鎖を受け、北京市の路上には、露店商の姿が復活した。(写真は朝日新聞)

習近平国家主席は、北京等からの露店商の一掃を図ってきた。

しかし、李克強首相は、コロナ危機を受けて遅れて開かれた全人代の後の記者会見で「露天商の復活で、成都では一夜にして10万人の雇用が生まれた。」と露天商推進の意気込みを示していた。


そんな状態で、政府のお膝元、北京で露店商の増加が止められなくなれば、習近平の面目は潰れ、ただでさえ分断がささやかれる共産党政権内部の権力闘争にも油を注ぐことになりかねない。

北京市の問題は、実は北京市内には止まらないのだ。


4、 外交に及ぼす影響

日本の尖閣諸島近海には、すでに65日間、中国の公船が連続航海し続けている。尖閣を日本が国有化して以来最長だ。
時には4隻もの公船が目撃されており、16日には菅官房長官が「極めて遺憾で、海保の巡視船による警告や外交ルートで厳重な抗議を繰り返し実施している」と述べた。

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中国公船が漁船に近づいたこともある。

さらに、防衛省は20日、外国潜水艦が18日に鹿児島・奄美大島沖の接続水域内を潜ったまま西進したと発表した。これは中国の潜水艦と見られている。

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日本政府からは、「自国が引き起こしたコロナ禍の中、現状変更を試み、実効支配の実績を創ろうとしている」という警戒の声も、聞こえる。(写真は朝日新聞より)


中国は、南シナ海でも、勝手に新たな行政区を設定するなどして、緊張を高め、実効支配の程度を強めている。
4月にはベトナムの漁船を沈め、4月と5月には、マレーシアの掘削船に嫌がらせをして米豪の介入を招き、さらにフィリピンが実効支配している島の周りには漁船を装った艦船が集まり、威嚇した。

アメリカのポンペオ国務長官は「中国は新型コロナウイルスによる混乱を利用して問題行動を行なっている」と非難した。


また、インドとの国境では、5月から、互いに5000〜6000人の兵士を派遣して睨み合いを続けてきたが、
インド側に20人の死者が出ている。
これまでに数回の発砲事件が起こっていたが、死者が出たのは、棍棒での殴り合いや石の投げ合いだという。互いに相手が越境してきたとしている。
両国は長年国境問題で衝突してきたが、死者が出たのは45年ぶりのことで、いかに両国に余裕が無くなっているか、想像できる。

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(写真はANNニュースより)

中国もインドも、経済が低迷し、コロナウイルスの脅威に晒されて、国民の不満が高まっているのだ。だから、今戦うのは得策ではないと理性では分かっていても、振り上げた拳を先に下ろす余裕がない。
 

WHOにコロナウイルスの発生源と初期の中国のハンドリングについて、第三者委員会を設置し、詳しく調査するよう求めたオーストラリアに対しては、中国は輸入する大麦に80%を超える関税をかけ、牛肉の輸入も一部停止し、国民にも旅行に行かないよう警告している。

それに対し、オーストラリアの前首相は「圧力には抵抗できる」という論文を新聞に寄稿した。オーストラリアでは中国のスパイ摘発など、強硬姿勢が明確になっている。

どの方向を見回してみても、内憂を抱えた中国の外交は、ますます外に向かって攻撃的なものになっている気がする。


しかし、なぜ、これほどの災厄が自国にふりかかったのかを知ろうとする国々のリーダーたちは、これらのやりとりを注意深く見守っている。開かれた情報網の恩恵を受けている国民たちも同様だ。 WHOの調査の結果も精査されるだろう。

その成り行きを見ながら、多くの人はどう思うのか?

長い物には巻かれろ、さもなければ輸出品を買ってくれなくなる、と思うのか。 それとも、このような不条理な横暴は許してはいけないと決意するのか。

世界のどのくらいのリーダーたちが、国民が、どちらを選ぶかで私たちの「世界」の未来は変わってくる。

前者が多ければ、中国は勢いを維持できるかもしれない。

逆に、後者が多ければ、その道は険しくなるだろう。


5、 今後

国営の中国中央テレビで、感染の専門家は「良いニュースは、全ての感染者が市場に関係しているため、経路を追いやすい」としたが、一方で、「新発地市場の取扱量は非常に大きいため、今後新たな大流行が起きるのかどうか、今はまだ分からない」と発言している。

中国は他国に先駆けて、経済活動を再開した。
しかし、輸出は思うように伸びない。当然だ。これまで輸入してくれた多くの国々が、今、コロナ禍に巻き込まれ、輸入どころではなくなっているのだ。

中国は、「一帯一路」構想で、インフラ整備をきっかけにし、多くの国への影響力を高め中国を頂点とした「華夷秩序」に従う国々を増やそうとしてきた。
しかし、経済低迷で、世界のあちこちで「一帯一路」のプロジェクトが資金難のため中止になるなど、中国の外交戦略は軋み始めている。

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(写真は朝日新聞)

それに代わって「新型コロナウイルスをいち早く封じ込めた国」としてマスクや治療薬、ワクチンなどをてこ(レバレッジ)にした外交を展開しようとしてきた。
しかし、オランダやスペインなどヨーロッパの数カ国は、マスクの性能に問題があるとして回収、もしくは返品した。
また、感染拡大に悩んだ日本の神奈川県も、四月に急遽中国から、1億3000万円で、マスク50万枚を購入した。
しかし、サンプル8枚のうち5枚が高性能の N95マスクとして「十分な機能を有していないとして、医療機関などに配るのを中止した。

治療薬やワクチンに至ってはさらにハードルが高くなるだろう。

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       (写真はAFPより ミャンマーに到着した中国チーム)


G7が「香港国家安全法」に対し、声を一つにして懸念を表明し、中国に再興を強く強要した外相声明を出した意義は大きい。  
世界で確実に中国という国へのイメージが変わりつつある。


貿易黒字で得た巨額の資金を使ったインフラ外交も、巨大なマーケットを使った恫喝外交も、イメージアップのための対外プロパガンダも、このところ空回りをしている。
中国という巨大な船は今、大きなダメージを受けて、無駄に攻撃的になっているような気がする。
この迷走しつつある巨艦は、これから先、どういう航路を辿るのだろう。


ニュースを見ながらツラツラと世界の行く末を考えてしまいます。       どうぞ、良い週末をお過ごしください!☺️💕


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