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かくとだに「よう言わんわ」のさしも草

2019年11月10日からのツイートまとめ

【2019年11月10日】
(この日「大阪弁の『よう言わんわ』『よう〇〇せんわ』は関東の言葉に訳しづらい」というツイートがRTされてきた)

笠置シヅ子の「わてホンマにヨイワンワ(『買物ブギ』)」だね。ただし「よう言わんわ」の「よう」は「よく」ではなくて古語の「え+○○ず」で不可能を示す言い回しが残ってるんだと思う。「ようできん」とか「よう行かん」とかも言うよね。「○○するの無理ー!」の「無理ー!」成分が「え」とか「よう」。

「わてホンマによう言わんわ」は「私ほんとうに言語化ムリです」って意味だし、「遠くてよう行かんわ」だったら「遠くて行くのムリです」だし、「子は京に宮仕へしければ まうでづとしけれど えまうでず」は「子は都で宮仕えをしていたので、訪問しようとしたけれど、訪問ムリです」だ。

「ようやらん」もどこかで聞いたことがある。やっぱり「やるのムリです、不可能です」の意だから「え+動詞の否定形=不可能」と同じなんだよ。「よう○○せんわ」って出たら「○○するのムリだわ」ってこと。推しのいるお姉さんたちがよく言ってる「無理、言語化できない、語彙力」が「よう言わんわ」。

方言、割と古語が現役。

古語って思ったより死語じゃないんだぜ……気をつけてみると意外と現代まで生き残っているんだぜ……そういう目線で古文やってみると面白いんだぜ……

「○○弁に、翻訳できない□□という言葉がある。これが○○(地方)の心なんだろうな」というところで立ち止まるのも、それはそれで郷土愛って感じがして微笑ましくはあるのだけどさ。もう一枚分奥の層へ入り込んでみると、それは全然「翻訳できない」ようなものではなくなる。伝わる言葉になるんだよ。

その、いま使っている言葉のもう一枚、もう二枚分奥の層へ行ってみれば「よう言わんわ」は古語の「え言はず」に繋がる。そこからふたたび現代の、大阪弁ではなく関東弁の方角へ向かって戻ってくれば、それは「言うのはムリだわ」へ翻訳できる。「『よう言わんわ』関東弁でよう言わん」ではなくなる。

「ひとつ分、奥の層へ行ってみる」たとえば昔の言葉へ、とか。「ひとつ分、別の層を重ねてみる」たとえば外国語とか。そうやって言葉のレイヤーを行ったり来たりすることで「うちの地域だけかもしれない、よその言葉で『よう言わん』をよう言わん」が少しずつほどけていく。

そうやって「よう言わん(言語化ムリ)概念や感情や感覚」を「言えるようにする」。そのために、今はもう誰も使わない(と思い込んでいる)古文漢文を習ったり、日本で暮らす限りどうせ使わない(と思い込んでいる)外国語を習ったりするんだよ。学んでみれば思ったよりたくさんのことが「言える」のよ。

【2020年9月28日】
かくとだに「えやはいふ」きの さしもぐさ
(こうだとさえ「言えやしない」よさしもぐさ)

とか

こは「えもいはぬ」はなのいろかな(これは「何とも言えない」花の色ですね)

とかの

「え+否定形→不可能」の言い回し。「よう+否定形」という形で西の方の方言に今も生き残っている。

「わてほんまに『よう言わんわ』」の「よう+否定形」が「かくとだに『えやはいふ』きのさしもぐさ」「こは『えもいはぬ』花の色かな」の「え+否定形」の子孫だと知ったときはすごく興奮した。

古文の時間に習うような古語がちょこっとずつ訛りながら方言に生き残っているのを見かけると興奮する。熊本弁の「ナニナニの『ごたる』(ナニナニの『ごとくある』→ナニナニの『ようだ』)」とか。

【2023年5月14日】
当番、「かくとだに」の歌が大好きで。若かった頃は上の句はただ「さしも知らじなもゆるおもひを」を言いたいだけの前フリだと思ってスルーしていたんだけど、文法をちゃんとおさらいしてから見直したら「えやは伊吹のさしも草」が「え『やは』『言ふ』きのさしも草」だとわかって惚れなおした。

「え言はず(言えない。今で言う『よう言わん』)」を「やは(どうして〇〇できようか・反語)」で強調した上に「言ふ」と「いふきやま(伊吹山)」を引っ掛けて「さしも草(モグサ、ヨモギ、伊吹山特産品)」を出してきたのかー!という超絶技巧がわかった途端めっちゃくちゃ好きな歌になった。

しかも「さしも知らじな」が「さ(そうである)・しも(強調)・知ら(知る)・じ(まい)・な(詠嘆)」だと分解できるようになって更に更に好きになった。

「伊吹山特産のモグサみたいに燃えている思いをあなたご存じないでしょうね、だって言えませんから……(メソメソ)」くらいのイメージだったのが「『こうなんだよ』とさえなんで言えるかっつーの! 伊吹山のさしも草みたいに熱く燃える思いを『そうなってる』って絶対知らねェだろうにさァ!」に変わり。

ああこんなに強調・ダジャレ・強調・詠嘆が入ってるんだからシャウトしてる感じで読んじゃっていいんだと思ったら一気に好きになっちゃったのが「かくとだに」の歌。

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