ドキュメンタリー映画「共に生きる 書家 金澤翔子」の試写会へ。忘れていたものを思い出させてくれる映画でした。
6月2日公開「共に生きる 書家 金澤翔子」の試写会へ。その感想を書き留めておきます。
翔子さんの筆の、ダイナミックな動きに感動しました。オープニングの躍動感はアートだなぁと思いながら、泰子さんと翔子さんのワールドに引き込まれていきました。
私がJDS(公益財団法人日本ダウン症協会)の会報の編集をしているなかで、ダウン症のある人が活躍する話を記事として取り上げるときに、ただの成功談や自慢話にならないように視点をどこにもっていくかをいつも考えています。これはもちろん、私だけでなく理事の皆さんが考えていることです。この映画も、多くの専門家が登場し、様々な視点から翔子さんの作品を語っていました。書やアートの専門家、ダウン症の専門家(JDS玉井浩代表理事)。そして、誰よりも、母・泰子さんの視点。
子育ての中で、いちばん大事でいちばん難しいのが、「信じてまかせること」。それを、泰子さんが実践してきたからこそ、翔子さんの特別な才能が開花したんだよなぁと痛感します。
揮毫する前に、必ず祈りを捧げる翔子さんの姿は、何かが降臨するのを待っているかのよう。そのあと軽やかに筆をとって、躊躇なく筆を紙に下ろし、鮮やかに墨を繰り広げていく。迷いのない動きがそのまま作品の躍動感になってあらわれていく。この感じは、書展でリアルに作品を見るか、動画でないと伝わらないんじゃないかと思います。大きなスクリーンいっぱいに描き出される墨に、圧倒されてしまうのでした。
この軽やかにパッと書き始める感じは、先日取材を兼ねて見学してきた、「ダウンズタウンプロジェクト」のワークショップに参加している方々が、画用紙を前にして、刷毛にしみ込ませた絵の具を躊躇なく紙に置いていく姿と重なるものがありました。納得するまで描き、できた、と「完成」を伝えて、必ず作品のテーマを言う。それはダウン症のある人の特別な力なのか、アーティストだからなのかはわかりません。
こんな風に自由に書けたら・描けたら、気持ちいいだろうなぁ。子どものころはこうやってかいていたような気がするなぁ。そんなことを思い出させてくれる映画でもありました。
映画のなかですごく印象的なシーンがあって、アートの専門家に「この作品のどの字が難しかった?」と尋ねられた翔子さんは「簡単よ」と答えるのです。彼女にとって書くのが難しい字なんてない。あの筆遣いを見たら、納得する話でした。
親子の絆の物語としても、ダウン症のある人のドキュメンタリーとしても、アートの観方としても、様々な切り口がある映画です。とにかく、翔子さんの作品と笑顔が最後まで印象的なのでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?