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ささやくように【感想文の日 58】

こんばんは。折星かおりです。

第58回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは、もえさんです。

お気に入りの音楽や日常を彩るアイテム、ふと思い出した記憶などを、そっとささやくような優しい言葉で綴っていらっしゃるもえさん。静かで、それでいてきらきらと光る言葉がとても可愛らしくて、いつも楽しみに読ませていただいています。今回「感想文の日」にご応募くださり、本当に嬉しかったです。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■考える人たち

高校生のとき、同じ教室にいた個性的なクラスメイトたち。世界をつくっている大きなものについて考え、それを口にできる彼らをもえさんは「ほんの少しだけ馬鹿にしていた」そうです。それでも、その裏側にあったのは小さな羨ましさ。あの頃言葉に出来なかった気持ちがいまここに、まっすぐに紡がれています。

小さい頃とか中高生の頃とか、どうでも良いことをお風呂の中で難しく考えて、大発見したつもりになったり。そういうの、人に話すの恥ずかしいとか、皆に知って欲しい自分じゃないとか、今でもそんな事の繰り返しだから。ひっそり共感して満たされています。ありがとう

冒頭で引用されるこちらは、実名でnoteに投稿をしていた高校の同級生にもえさんが送ったDM。考えることや文章を書くのが好きで、いまここでnoteを書いている。それでもこれを「実名で」となると、そのハードルがぐんと上がるように思うひとも、きっと多いはず。私も実名ではないので、"彼女"に対してもえさんが抱く眩しさに、うんうんと頷きながら拝読しました。

そして、中でも素敵だと思ったのがこちら。あの頃同じ教室にいたクラスメイトに対して、もえさんが思いを巡らせる部分です。

それでも、どんなに日常が忙しなく続いていたとしても、彼女は世界から受け取ったものについて考え、自分のものにしていると思う。そうして親しい人に、彼女の世界をお裾分けしているんだろうな。
彼は今、世界を構成する論理の端っこを掴んでいる。
もしかしたら端っこどころじゃ無いかも。
1ミリもそういう話をしなかった、まともな会話すらした事がなかった、これからも会う事もないだろう彼に見えている世界に私はやっぱり嫉妬する。

彼女が、彼が見ている世界への、素直な憧れのまなざし。「嫉妬」という言葉を使いながらも、その奥に確かにある「尊敬」がひしひしと伝わる文章が光っています。

ひっそりと生み出す思考は酷く自己完結で広がりを持たないものだ。今でも。

こう綴られているけれど、冒頭のDMを届け、もうしばらく会っていない高校のクラスメイトへの気持ちを丁寧に言葉に出来るもえさんの思考は、きっと柔らかく広がっているのだと、私は思います。

■図書館のおはなし

高校生の頃の夏休み、図書館で勉強をしていたもえさんは、いつも窓際で宇宙図鑑を開いているおじいさんに出会います。もえさんが受験勉強をしている間、ただひたすらに宇宙と向き合っていたおじいさん。その姿を見ていたもえさんは、ある思いを抱くようになったそうです。

図書館の記憶を遡るきっかけとして登場するのは、もえさんが手に入れた香水 "ウィスパーインザライブラリー" 。この素敵な名前の香水はどんな香りなのだろう、と想像しているうちに、ふわりと手を引かれるようにお話の世界へ引き込まれてゆきました。

大きな宇宙図鑑開いて、ノートに一生懸命書き込んでいるお爺さんがいたこと。
私が数学の青チャートと睨めっこしていた対角線上で。
彼が無性に羨ましくて、憧れて、ただただ格好良いと思った。私が微分積分して、英文を分解して歴代の内閣を暗記して構造式を書く、という事に一日の大半を費やす斜め前で宇宙を眺めていたお爺さん。

図書館にいた、大きな宇宙図鑑と向き合うおじいさん。彼がしていたのはきっと「好き」をまっすぐに追いかけ、「なぜ」を純粋に楽しむ勉強なのでしょう。そしてもえさんの「宇宙を眺めていたお爺さん」という言葉にも、心を掴まれました。おじいさんはただ図鑑を読んでいたのではなく、図鑑が教えてくれる「宇宙」を見つめていた。広い広い世界に触れあうことが出来る図書館の魅力も伝わる一文に、息をのみました。

私はその先にある、自由な勉学に憧れている。
生活の糧にならないような、ただ好きなだけの勉強をいつかしたいな。宇宙でも、歴史でも、料理でも何でも。興味のあることを。

受験のためではない「自由な勉学」。ただ「好き」を追いかける勉強は、とても楽しいものですよね。私もそんな勉強が出来る大人でいたいです。

■ウサギとカメと私と妹

徒競走はあまり得意ではなかったけれど、長距離走では学年で2位の結果を残し「はやく走れるひと」になった小学生の頃のもえさん。しかし、妹さんはそんなもえさん以上に、長距離走でよい記録を残します。当時もえさんはそんな妹さんのことを自慢していたけれど、10年以上の時を経て、あの頃には気づかなかったある事実が明らかになったそうで……。

悔しい、の前に私の妹すごいでしょう、と自慢していた。私だって表彰状貰ったし、ケイドロでは優秀な泥棒として活躍している。そんな事で小さな自尊心を満たしていた。

「足がはやい」がひとつのアドバンテージだった子どもの頃、もえさんは自分よりも速く走ることができる妹さんをまるで『ウサギとカメ』のウサギのようだと思っていたそうです。しかし大人になってから、もえさんは小学校時代の日記帳の中に、ただ「走るのがはやいウサギ」ではなかった妹さんの姿を見つけます。

妹の日記には結果に至るまでのプロセスが丁寧に綴られていた。去年の記録と授業での記録から目標値を設定。その目標を達成したら、前を走っている周回遅れの子を抜かす事にチャレンジ。ライバルの女の子を意識することも忘れない。そうした5分間の結果が1位だった。応援に来た母は、応援する場所を指定される。彼女が目標としている距離の目印になっていたの。

長距離走で学年で1番の距離を走った妹さんの力は、緻密な観察と地道な努力に裏打ちされたもの。お母さまが妹さんの目標距離の目印になっていた、というところにも妹さんが心に秘めていた熱い思いを感じます。

妬み嫉み、自虐が混じったあの頃の「私の妹すごいでしょう」を撤回。
混じりっ気なしの誇らしい気持ちを詰め込んだ「私の妹すごいでしょう」を宇宙中にばらまきたい日曜日。

小学生のとき、ここまで丁寧にひとつのものと向き合われていた妹さんの姿に、あの頃とはまた違う思いを抱いたもえさん。クリアで気持ちの良い読後感に、つい頬が緩みました。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださるかたを募集しています!(7/19をもって、一旦受付を終了いたします。現在、7/31以降の回を受け付けています)

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