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風を切る【感想文の日㊽】

こんばんは。折星かおりです。

第48回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは、さわきゆりさんです。

noteで文章を書くようになる前、携帯小説を書かれていた時期もあるというさわきさん。これまでに書かれている短編は、じーんと感動するお話やちょっぴり不思議なお話など、とっても彩り豊かです。バイクもお好きで、エッセイの中にはツーリングレポートも。生き生きと綴られた旅はどれも魅力的で、1週間わくわくしながら拝読しました。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■my machines

バイクが大好きなさわきさんの相棒は、ホンダのVTRとスーパーカブ110。頑丈なVTRはツーリングに、スーパーカブは通勤や買い物に大活躍しています。バイクの紹介からひしひしと感じるのは、さわきさんの「バイク愛」。「好き」がぎゅぎゅっと詰め込まれた、素敵なエッセイです。

トップ画像はもちろん、作中の所々に登場するバイクの写真がとっても爽やかで目を奪われました。VTRの目がさめるような青、スーパーカブの可愛らしいイエロー。空にも海にも映える2台がすごく「いい顔」をしているのはきっと、さわきさんが撮影された写真だからなのでしょう。

私は、この空色のバイクのミラーが切り取る、青空の欠片が大好きだ。
これを見る度に、皆に平等に分けるお菓子を、自分だけひとつ多くもらえた時のような、嬉しい気分になる。

「好き」がまっすぐに伝わる、可愛らしい表現に頬が緩みます。シンプルな文章でありながら、「青空の欠片」という言葉がツーリングの風景を想像させ、爽やかな風が吹いたような気持ちになりました。

最初の頃には「似合わないね」と言われていたVTR。それでも今は「その青いバイク、似合うね」と言われるようになり、すっかり「相棒」になっているそう。

私にとって、バイクを持つ、それも2台も持つというのは、実は分不相応な贅沢なのだろうと思う。
けれど、一生にひとつだけの贅沢、と決めて手に入れたバイクは、私の人生をカラフルに彩ってくれている。

「一生にひとつだけの贅沢」。そう決めて手に入れたバイクと「お互いに、相棒になれた」ことを想像し、幸せな気持ちに満たされました。

■ひまわりの足跡(全3話)

家族で隣県のひまわり畑を訪れた"僕"は、ため息がこぼれるほどに鮮やかな風景を前に、あるひとりの女性のことを思い出します。新卒で入った会社にいた、顔中をくしゃくしゃにして笑い、いつも穏やかで、丸い瞳を輝かせていたあのひと。まるでひまわりのような"彼女"についての、切ないお話です。

入社したばかりの僕の隣の席にいた彼女は、周囲から絶大な信頼を得ていました。仕事が速く、知識の豊富さは幹部会議への同席を求められるほど。しかし彼女は、いつまでも短時間の契約社員のままで、正社員への登用を断っていたようなのです。

そんな彼女は「自己満」だと謙遜しながら、僕にひとつひとつ丁寧に仕事を教えます。どんなに忙しくても、何度も声をかけても苛立つことなく。例え「今やらないといけないことか」と先輩社員にいら立ちをぶつけられても。

「仕事ってね、最初は意味がわかんなくても、ある日突然、電気が通ったみたいに、いろんなことが見える時が来るの。そうなった時に、そのノートが役に立ったら、私もきっと、改めて嬉しくなるって思うんだよね」
(『ひまわりの足跡②』より)

彼女の信念と、仕事への姿勢が滲むセリフが素敵です。きっとその「ある日」はまだまだ遠いのに、僕にきちんと仕事の説明をし続ける彼女。実は彼女がそうするのには、ある理由があったのです。

切ないけれど、彼女の強さが光るその理由とは。この続きはぜひ、さわきさんの作品を読んでみてくださいね。

■2年後の青空

福島県いわき市で開かれる一般ランナー向けのマラソン大会、「サンシャインマラソン」。東日本大震災から2年が経とうとしていたときの大会で、"私"はシルバー人材センターから来た"おじいちゃん"と、選手の荷物を預かるスポーツボランティアを務めることになりました。仕事の合間に手が空くと、おしゃべりに花を咲かせるふたり。そのうち、話題はあの震災のことになって……。

大会のスタート地点である陸上競技場は、太陽の光に照らされてきらきらと輝いていました。しかし、そこに併設された総合体育館は、東日本大震災で亡くなった方のご遺体の安置所になった場所。その屋根を見つめて、おじいちゃんはこう呟きました。

「俺の家と、うちの母ちゃんは、流されちまったんだ」
俺は、母ちゃんに、あの体育館で、やっと会えたんだよ。

そこで鳴り響く号砲。1万人のランナーが駆け出すころには、おじいちゃんの顔にはすでに笑みが戻っていました。

「すごいな、こんなにたくさんの人が、いっぺんに走り出すなんて。なんだか、生きてるって感じがして、感動するよなあ」

穏やかな微笑みに、涙がこみ上げる"私"。あの日の悲しみのすぐそばに、今日の「生」がある。場面の鮮やかな描き方に息をのみつつ、おじいちゃんの言葉に、こちらまで熱いものがこみ上げます。

そして、おじいちゃんは「今は幸せだ」と語ります。新しい家が建ち、気にかけてくれる子どもたちや孫もいる。

目尻の下がった笑顔が、強がりではなく、本当のことなのだと伝えていた。それならいい、それなら救われる。

実話をもとに再構成されたという、このお話。おじいちゃんや"私"が今も、これからも、幸せであることを心から願っています。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださる方を募集しています(1~2日程度、記事の公開日を調整させていただく場合があります。現在、6/12以降の回を受け付けています)

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