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音に連れられて【感想文の日㉚】

こんばんは。折星かおりです。

第30回感想文の日、今夜感想を書かせてくださったのは、拝啓 あんこぼーろさんです。

先日までの「ことば展覧会」という企画を主催したり、リレー小説に参加したりとアクティブに活動をされているあんこぼーろさん。あんこぼーろさんの記事は軽やかな文体でありながら、可愛らしい音の描写や美しい色の表現にあふれていて、つい目元が緩んでしまいます。入れてくださるコメントもいつもとても楽しく、他の方の記事のコメント欄もちらりと覗いています。改めて、ご応募くださりありがとうございます!

それでは、ご紹介いたします。

■ラムネお兄さん。

シングルマザーで働いていたあんこぼーろさんのお母さまは、子どもたちを連れて近所の居酒屋によく通っていたそう。うるさくて煙草くさい居酒屋は、当時小学生だったあんこぼーろさんにとっては居心地のよい場所ではなかったようです。ある日、あんこぼーろさんはラムネを注文したのですが、手を滑らせてラムネの瓶を割ってしまい……。

子どものころのあんこぼーろさんの気持ちが、痛いほど鮮やかに、そして瑞々しく詰め込まれています。ガラスが割れる音って、どんなに賑やかな場所でも聞こえますよね。そしてその後に広がる、水を打ったような静寂。おとなの世界に放り込まれて気まずい思いをしている中、ぱっと身体が熱くなるような焦りもあったことでしょう。

しかし、居酒屋のお兄さんは素早く掃除をしたあとで、あんこぼーろさんの気持ちにそっと寄り添います。

目の前のカウンターのテーブルに、そっとビー玉が置かれた。
こつんと音がした。さっきのお兄さんがビー玉を、なぜだか僕にくれたのだ。

居酒屋に満ちている賑やかな音とは対照的な、お兄さんの対応にじんわりと温かな気持ちがこみあげます。そして何よりも素敵だったのが、「ラムネのお兄さんのようにありたい」というあんこぼーろさんの気持ち。

子供は大人が思うよりも、もっと多いかなりの量の情報を受け取ることができる。大人が思うほど単純じゃないし、大人と同じかそれ以上の感情をいつも感じている。と、僕は思う。

私も、そう思います。出会う「はじめて」が多い分、処理しきれない気持ちも、表現できない思いもたくさんあるはず。私たちも通ってきた道なのに、どうして記憶が薄れていってしまうのでしょう。もうあの気持ちを思い出すことはできなくても、私もあんこぼーろさんのように考えていたいです。

■おちゃめなパイロットたちが、旅客機の操縦席に座らせてくれた話。

愛知県に住む叔母さまを訪ねて、5才にしてひとりで飛行機に乗ることになったあんこぼーろさん。怖くないかとか、緊張しないで、と声をかけてくれるスチュワーデス(当時)のお姉さんたちは、搭乗準備中、あんこぼーろさんに操縦席を見せてくれました。まさに旅の始まりのようなどきどきとわくわくが入り混じる、素敵なnoteです。

「おちゃめ」なおとなが作ってくれた、色褪せることのない思い出。ひとりで飛行機に乗るこどもを操縦席に案内することは、きっとマニュアルに基づく対応ではないはずです。それでも彼女たちがそうしたのは、「人を喜ばせることが日常になっていたから」。

沢山のスイッチとレバーと、変な形の窓と、かっこいい制服と、嗅いだことのない機械の匂い。いろんなものに心を奪われた。まるで星空を眺めているようだった。
大人たちは、こんな複雑な世界で生きている。たくさんのスイッチや、レバーを駆使して生きている。

すごい、と思った。大人ってすごいって思った。

今でも記憶にはっきりと残る、きらきらとした思い出。めったにないことだ、と綴るあんこぼーろさんの言葉も楽しくて、くすくすと笑いながら読みました。

深い深いお辞儀で、え、ここは伊勢神宮なのかっていうくらいのお礼をしなさい。今すぐ。

「おちゃめ」になるには、「余裕」が必要。いつか私も、素敵な思い出を作る側になれるといいなぁ、と思います。

■群青ライター

離れ離れに暮らしていた"父"と”僕”の、男ふたり旅。大きな背中にしがみついて乗ったバイク、煙草の煙、はじめて聞く言葉……。情景の浮かぶ美しい表現で満ちた、「旅する日本語」応募作品です。

父の背中にしがみつき、
草木や土や空、
父の革ジャンの匂いを嗅いだ。

"僕"の目線で語られる、”父”の大きさが光ります。そしてきっと、その「大きさ」は精神的なものでもあるのでしょう。

大人になったらくさ
こげんやって
ため息ば楽しめるようになるとぜ

静かに静かに紡がれる、"父"と"僕"を包む景色。そっと閉じ込めておきたくなるような美しい文章に、ため息がこぼれました。

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毎週土曜日の「感想文の日」、感想を書かせてくださる方を募集しています!(1~2日程度、ご紹介日を調整させていただく場合があります。現在、1月23日以降の回を受け付けています)

こちら↓のコメント欄より、お気軽にお声がけください。

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