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第8話ー初めて文章化するNYCで暮らして学校に通った6年間ー10代の少女が感じたこと 「ギター少女」

 ギター少女、マルニーのことは、初めて見たときから惹かれた。あんな男っぽい女子は初めてだった。もちろんメイクや装身具とも縁がない。我が道を行くという態度を無理なく堂々としかもごく自然に見せていた。かっこいいと思った。休み時間はいつも彼女を中心に人の輪ができていた。が、おしゃべりに加わるのではなく、その雰囲気に合わせた歌をギターに乗せて歌っていた。ある日、私は勇気を出して、恐る恐るその中に座った。すると「Hi, Kaori」と彼女が笑みを浮かべて言った。名前を憶えていたことが嬉しくて、頬が熱くなった。
 
  年に一度のタレントショーではマルニーはステージに立つことはなかったが、ある時こんなことがあった。生徒によるミュージカルが終わって、イベントは終わりという時に、彼女がおもむろに立ち上がってギターを力強く弾き始めた。キャロル・キング作詞作曲、ジェイムズ・テイラーも同時期にレコーディングした「君の友だち」だ。皆をリードする彼女のギターと精一杯のボーカルに鳥肌が立った。
 
 ベトナム戦争が泥沼化して、捕虜になった兵士の名前を刻んだブレスレットを身に付けて彼らの生還を祈っていた女の子たちが大勢いた時、無意味な戦争に対する不満が高まり、何となく社会全体が暗かった時、そんな時に彼女の歌う「君の友だち」は、暗闇を照らす一つの希望の明かりのように感じられた。
 
 すぐに教師を交えての大合唱になった。私も歌詞を覚えていたので合唱に加わることできた。ベトナム戦争のことは正直何も知らなかったが、何か新しい時代、新しい価値観が生まれつつあるのを感じた。1955年に始まった戦争はそれから3年後の1975年に終わった。

 音楽との出会いは、初めての体育の授業でもあった。クラスをいくつかのグループに分けて、何をするのかと思ったら、教師がラジカセのスィッチをオン。流れて来たのはハービー・ハンコックとヘッドハンターズの「カメレオン」。これをもとにダンスの振りを考えろ、と。初めて聴くタイプの音楽になぜか無性に興奮した。体の奥が目を覚ましたような気がした。レコードを買いに走った。キャロル・キングの「タペストリー」に次いで買ったレコードだった。

 肝心の創作ダンスはというと、全然できなかった。フォークダンスしかしたことのない私の動きを見て、同じグループのお腹の出た、厚化粧のヒスパニック系女子が、「話にならない」と言わんばかりに苦笑した。

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