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長島昭久の「考え方」のおかしさ―武蔵野市住民投票条例をめぐって

長島昭久氏が以下二つの拙稿、に対する反論として、「考察」なるものを公表したというから見てみたが、あまりにもひどいものであったので全て触れられるわけではないが見ていきたい。
(長島氏の「考察」の公開から約3時間後に本稿を公開し、書いた時間は1時間足らずのため、誤字や読みにくいところなどがあるかもしれませんが、ご容赦ください。)

1.外国籍住民に「無条件」 で住民投票資格を付与するのは乱暴なのか

まず、大見出しの「外国籍住民に『無条件』で住民投票権を付与する」という記述は、適切ではない。なぜなら、外国人についても日本人同様、3か月の居住要件が科されるからである。「外国籍住民に『日本人と同条件』で住民投票権を付与する」というのが適切である。

さて、そのような細かい点はとりあえず置いておいて、長島氏が「問題」とすることが、いかに非論理的・非現実的なものであるかをみていこう。以下が、長島氏が「問題であると考え」る点である。

今回、武蔵野市長から提案のあった「住民投票制度」には、大要つぎの3点が問題であると考えます。
① 3か月以上市内に住む外国籍住民にも、日本国民と同様、「特段の要件」を設けずに、投票権を認めていること。
② 「常設型」の住民投票であることにより、既定の署名数(住民投票有権者総数の1/4)を満たせば、かりに市の権限を超えるようなテーマでも住民投票に付すことができること(『武蔵野市住民投票条例(仮称)素案』7頁)。
③ 住民投票は、憲法や地方自治法に則って投票結果に法的拘束力のない「諮問型」ではあるものの、市長や市議会は投票結果を尊重する義務を負い、「実質的な拘束力が生まれる」(武蔵野市自治基本条例逐条解説)と解されていること。

1-1.市の権限を超えるようなテーマでの住民投票の問題とは

「『常設型』の住民投票であることにより、既定の署名数(住民投票有権者総数の1/4)を満たせば、かりに市の権限を超えるようなテーマでも住民投票に付すことができる」点が問題であるという。しかし、市の権限を越えるようなテーマで住民投票が行われたとして、そもそも市にその権限はないのであるからどうすることもできない。仮に、その「権限を越える」ことを市がやろうとしても、権限逸脱で無効である。住民投票は何らの法的効果も(及ぼそうにも)及ぼせないのである。「たとえば、安全保障や警察権限に関わる事項」の住民投票を行ったとしても、それが市の権限外の事項であれば、それは「無駄」になるだけである。
これが問題だとするのであれば、せいぜい住民投票をやる費用=税金が無駄、というくらいであり、外国人云々の問題は出てこない。

1-2.住民投票尊重義務は問題か

「住民投票は、憲法や地方自治法に則って投票結果に法的拘束力のない『諮問型』ではあるものの、市長や市議会は投票結果を尊重する義務を負い、『実質的な拘束力が生まれる』(武蔵野市自治基本条例逐条解説)と解されていること」を問題だとしているが、これはあまりにも市民を馬鹿にしており、武蔵野市であるか否かを問わず、もはや住民投票そのものを否定している。
投票結果を尊重する義務を負うのは当然である。住民投票を行って、なんら結果を尊重してくれないのであれば、住民投票をやる意味はない。あくまで二元代表制を補完するのが住民投票であり、それ以上でもそれ以下でもない。また、どのような住民投票を意識しているのかわからないが、そもそも市政を揺るがすような無茶苦茶な住民投票が、①住民投票者総数の1/4の署名数を確保し、かつ②賛成多数になることなど不可能に等しい。

住民投票は、地方自治における首長と地方議会の二元代表制を補完する制度として、これまでに全国78の自治体で導入されてきました。全国に約1700の自治体がありますから、ごく限られたものであることがわかります。そのうち、住民投票権を日本国民のみならず外国籍住民にも認めたのは43自治体で、さらに少数となります。しかも、今回の武蔵野市と同様、「特段の要件」も設けずに外国籍住民に投票権を付与している自治体は、たったの2市(大阪府豊中市、神奈川県逗子市)しかありません。

これについては、もはや「自白」しているが、大阪府豊中市や神奈川県逗子市においては、(今年や昨年というレベルではなく)、日本人同様の条件による外国籍住民に対する住民投票権を付与している。
ところで、これらの市では、何か問題があったのであろうか。住民投票が、外国籍住民により乱発されたり、「たとえば、安全保障や警察権限に関わる事項」についての住民投票が行われたのであろうか。そのような事実はないし、そのようなことが起きる予兆すらない。また、これらの条例が制定された際、長島氏他、国会議員は何らかの懸念を示していたのであろうか。(管見の限りそのような事実はない。)

2.外国人参政権と住民投票権ー判例・有力学説の立場

前にも何度も書いたが、外国人参政権と外国人の住民投票権付与はまったく異なる。立法論からは、(国会の)法律により定めなければならない(狭義の)参政権と、条例により定められる住民投票権という違いがあり、そもそも外国人の住民投票権付与は、外国人参政権とは切り離されるものである。(少なくとも国会議員が関与しなければ外国人参政権は(良くも悪くも)認められないのである)。制度としても、長や議員の当選に影響を与える「1票」ではなく、その投票の結果は、あくまでも長や議会が決定する際の参考にされる「意見の表明」として扱われるものであって、長や議会の決定を法的に拘束するものではないし、これは地方自治法の趣旨にも反しない(水島朝穂教授の直言参照)。
そのうえで、これも別稿でも書いたが最高裁判例・近時の最有力学説は、(住民投票権より強い)外国人参政権でさえ「国政禁止・地方許容」であるということは改めて強調しておく。

また、長島氏は、あえて実質的な拘束力というが、「諮問」であることには変わりないし、また、市の権限を逸脱した住民投票ははじめから無効であることは前に述べた通りである。

外国人の参政権については、最高裁や高裁の判例によれば、一定の基準の下で「例外」も認められる余地があるとも考えられています。それは、つぎのような参政権の類型によって異なります。まず、「国家」公務員の選定・罷免権については、例外なく日本国籍を有する日本国民のみに保障されます。一方、地方自治に関わる「地方」公務員の選定・罷免権については、外国籍住民にも付与することが憲法上禁じられているとは解されず、「一定の基準」に基づいて立法裁量に委ねられる余地があるとされます(参照、平成7年の最高裁判決(※)) 。以上のような、国と地方の公務員の選定・罷免権を「狭義の参政権」と呼びます。

くどくど長島氏は書いているが、平成7年最判は端的に言えば"外国人の地方参政権は、保障されてはいないが、付与することを禁じてもいない"ということである。特に、「永住者等その居住する区域の地方自治体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者について」というのも、これらの者が禁止されるとする考え方は完全に誤りである、ということを表明したにすぎない。
また、長島氏は、住民投票権についての名古屋高裁判決も引いており、「まったく同じ文言」をつかっているというが、これは単に平成7年最判を引用しているからである。(引用してあることは、名古屋高裁判決にも明記されており、「まったく同じ」ことを強調するのは不適切である。)この名古屋高裁判決の持つ意味は、せいぜい平成7年最判の射程(=影響を持つ範囲)が(狭義の)地方参政権にとどまらず、住民投票権にまで及ぶ、というくらいのものである。
以下、名古屋高裁判決の当該指摘部分である。

「憲法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づいてその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようという趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人であって、特別永住者等その居住する区域の地方自治体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者について、その意思を日常生活に密接な関連を有する公共的事務の処理に反映させるべく、条例をもって、地方公共団体の区域における住民投票等の意思決定手続き過程に参加する措置を講ずることまで憲法上禁止されているものとまでは解せない(最高裁平成7年2月28日第3小法廷判決)。しかしながら、このような措置を講ずるかどうかは地方公共団体の立法政策にかかわる事柄であって、憲法上このような措置を構ずべきことを命じているものと解することはできない。

また、国民主権における「例外」というが、地方自治においては、住民自治が原則であり、国民主権の問題と混同して考えていることも問題である。住民投票にかかわらず、日本においては3か月居住していなければ選挙権・(武蔵野市においては)住民投票権は付与されない。
3か月居住する外国人に住民投票権を認めない理由を、「その居住区域に対する帰属意識や当事者意識」に求めるのであれば例えば学生の一時期だけにおいて実家・故郷をはなれ、学生時代が終われば帰郷するような日本人にも、住民投票は認められないことになる外国人留学生と上京・下宿(という言い方が正しいかはさておき)する日本人学生に「居住区域に対する帰属意識や当事者意識」に差はないだろう。(卒業後も日本の同区域に住み続ける意思のある外国人留学生と、帰郷前提の日本人学生の同区域に対する帰属意識・当事者意識ならば、前者(外国人)の方がその帰属意識・当事者意識は高かろう。)

また、「広義の参政権を外国籍住民にも『例外的に』認める際には、『一定の基準』に基づく『一定の要件』が課されるというのが、洋の東西を問わず世界の常識」というが、「住民投票」とひとことでいっても、海外における住民投票の在り方はさまざまである。(「諮問型」ではない)法的拘束力のある住民投票について、在留要件等があることは何ら不思議ではない。

なお、韓国では永住資格取得から3年経過することにより(いわゆる狭義の参政権である)外国人の地方参政権を付与している。韓国は、日本に対し、相互主義として在日韓国人への参政権を求めているものの、知ってのとおり特別永住者を含め、外国人の地方参政権付与に反対しているのが長島昭久氏である。

長島氏の言葉を借りれば、「今回武蔵野市から市議会に提出された「武蔵野市住民投票条例」の内容は適切なものといえるでしょうか。」について、「答えはYes」である。

そして、繰り返しになるが、「異例」といっても初めての例ではないことは長島氏も示すとおりであるし、先例である2自治体において何らかの問題が生じたり、生じる蓋然性も認められない。また、仮にこれを「違憲だ」と主張しても、司法でそれが認められることはないだろう。日本における「諮問型」の住民投票という特性、そして、外国人の地方参政権すら禁じられていないとする判例法理があるからである。

さて、ここまで述べてきたが、長島氏がツイッターにおいて投稿した、悪質な括弧書き付記によるミスリーディングについて(「外国人に投票権を認める武蔵野市住民投票条例は憲法上問題ないー長島昭久氏の悪質なツイートを許すな」)は、何ら説明されていないことには改めて抗議の意を示したい。

3.ただの「外国人差別」的主張

そもそも外国人といっても多種多様で、ムスリム系の住民と欧米系の住民とでは明らかに生活する上でのニーズは異なるでしょうから、彼らの生活の質を向上させ、住民生活における多様性を実現するためには、外国籍住民の方々にアンケートなどを実施したり、外国人専用の相談窓口を設けるなどして、多様なニーズを丁寧に吸い上げて、きめ細かく行政サービスに反映させることの方がはるかに有効ではないかと考えます。したがって、武蔵野市が取り組むべきは、外国籍住民が「市民」として地域コミュニティに溶け込めるよう、言語や生活面の支援サービスを充実させることではないでしょうか。

長島氏のここら辺の主張は、あたかも条例ができるとそれは外国人のためにある、と言わんばかりである。しかし、そもそも住民投票は、長島氏の言葉を借りれば「住民としてのニーズ」を「吸い上げる」ものである。(例えば住民税も払う)住民である外国人が住民投票権を付与されない理由にはならない。外国人のニーズを吸い上げるための「アンケート」や「相談窓口」は、別に行えるのであるから住民投票の議論とは関係ない。

わかりやすく言えば、「外国人を含めて住民」とする松下市長と、「外国人は住民ではない」とする長島氏の差である。つまるところ、「差別」である。

4.住民投票条例制定プロセスの正当性

住民投票条例の上程に至るまでの過程は、武蔵野市住民投票条例は本当に「騙し討ち」で「市民不在」なのかで詳細に記載されているのでそちらをご覧いただきたい。

長島氏の主張は、まったくもってこれに対する反論にはなりえない。

なお、今回もほぼ触れられていない統計学的に見て十分な住民アンケートを軽視している長島氏の姿勢こそ、あまりにもご都合主義である。

5.おわりに

長島氏の「反論」を期待していた自分がバカであった、というほどの詭弁である。憲法論に関してはいわずもがな、悪辣なミスリードツイートよりはマシ、という程度である。ちなみに、憲法について考えれば、「地方自治の本旨」(憲法92条)に沿って発展させていくという姿勢の現れである、武蔵野市住民投票条例は優れているというほかない。

憲法学的にもあまりにも軽薄そのものであり、事の本質をみえていない。
早大・水島朝穂教授の論考などと比べるのは失礼であるが、拙稿と比べても極めて論理性に欠いた、非常に陳腐な論考であるといえよう。

長島氏は、平穏な武蔵野市に、ヘイトスピーカーらを呼び寄せた始末を、どうにかしていただきたい

p.s. 「さしあたり、松下玲子市長、笹井肇副市長、KAOPУさん、水島朝穂先生には読んでいただきたいと思います😊」と長島氏はツイートしているが、筆者のアカウントは、以前長島氏が「皇室典範は憲法と同等の法規範」とツイートした際、反論したらブロックされており、返信すらできない状況にあることをお伝えしておく。

長島氏の言葉であるが、拙稿も「いささか長文ですが、条例の審議にあたる武蔵野市議会議員の皆さんにもご一読いただきたい。」

●参考:住民投票権条例についてのこれまでの記事

●参考:長島氏についての記事



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