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「珈琲屋に通ってみた」〜ライブハウスから店へ

ある日、珈琲屋でライブが開かれることになった。

奏者は、山の中にあるライブハウスのピアニストさん。
珈琲を入れに手伝いに来ていた親父さんの店に、ピアニストさんの方が来てくれる事になったのだ。

しかも、ピアニストさんのソロが聴けるだけでなく、それぞれ持ち寄った楽器演奏にピアニストさんがその場で伴奏を付けてくれるという・・・
今思えば、とても贅沢なこと。

もちろん私も楽器を持参し参加した。
けれど、参加したのを後悔したくらい緊張し、演奏はボロボロだった。

インターネットでチェロを探して買い、いきなりオーケストラに飛び込んで席に座るようになったものの・・・

周りから聞こえてくる音を頼りに音程を探り弾きするのと、一人で音程を取りながらメロディを弾くのは大違い。

おまけに、人前で一人で弾いたことがほとんど無かった。

緊張で手は震え、小さな店内で弓がテーブルにぶつかって焦り、持ってきた楽譜もよく読めない始末。
当然、音程もうまく取れない。

顔見知りの方も客席にいたが、きっともう二度と聴きたいと思わないだろうと思い、かなり落ち込んだ。

けれどその日振る舞われた手作りのケーキが美味しかったのと、親父さんの息子さんでもある、若店主の笑顔が素敵だと思ったのを覚えている。

拙い演奏だったにも関わらず、これからも大歓迎という調子で、若店主が出会いを喜んでくれたのに救われた。

それから、月に一度だったか・・・何度かライブが開かれた。

80代から始めたというオカリナを一生懸命吹く方の演奏に感動したりもした。

感動は必ずしも、演奏技術があるかどうかと比例しないところが不思議だ。

私も何度か懲りずに参加させてもらったが、相変わらずで毎度落ち込んでいた。
貴重な機会をもっと楽しめば良かったのにと思う。

そんな会は、若店主が二人目の子供さんを授かり、イクメンをするとのことでお開きになった。

それから数年が経ち・・・
珈琲屋の近くにある音楽教室に、何年も前からこの方に習えたら・・・
と憧れていたチェロ奏者が講師としてやってくることになった。

実はオーケストラに潜り込んだものの、最初の二年間以降はチェロは独学状態だった私。

「独学では無理だよ」
と言われ続け、自分でも上達しないことに悩んでいた。

子供達の学費もピーク時期と重なり、予算的には厳しかったが、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
迷わず独学返上、月に一度、音楽教室に通う様になった。

レッスンが終われば、そのまま珈琲屋さんに寄る。
そのうち、若店主とも親父さんとも、すっかり顔なじみになった。
気がつけば二年経つ。

その間に、若店主も去年からもらったギターを練習し始めた。

先日もレッスン帰りに立ち寄り、ちょうど楽器も楽譜も持っていたのでチェロとギターで一緒に弾き、歌った。

曲は浜田省吾の「もうひとつの土曜日」。

単純に楽しかったし、若店主の真っ直ぐな歌い方にも感動した。

そんな瞬間がやって来るとは、初めてこの店で弾いた日には想像出来なかった。

下手でも落ち込んでも、チェロ をやめないで良かったと思う。

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