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「珈琲屋に通ってみた」〜追い出し会

学生と同じノリでお喋りできる店主を慕ってか、珈琲屋には学生も毎日の様に訪ねてくる。

カウンター席で地図を広げ、次の旅先をよく計画していたK君は、息子と同い年だ。

たまに店で会い、横に座るとお喋りしてくれた。

銀縁メガネで服装も特に目立つ訳でも無く、むしろファッションにはあまり関心が無さそうだけど、メガネを外すと案外イケメンだ。

友達がいる様でも無い、どちらかとちうと人付き合いも苦手そうな学生さんに見えたけれど、珈琲屋には4年間通い、店主によると、店で一番愛された人物なのだとか。

そんな彼の卒業祝いを、店の家族でするという話を、たまたま前日に聞き、私も交ぜてもらった。

K君の話を聞いては、我が子も上手くやってるだろうか?同じ様に悩んだり困ったりしていないだろうかと思ったりしたものだったから、そんなK君の卒業を、我が子と同様祝ってやりたい。

おまけに、就職は初めての土地へ行く様だった。

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店主がこの会場に選んだのは、カジュアルな和食店。

高い天井に、古い骨董がジャンクに並べられた店に入った瞬間、懐かしかった。

独身の頃、デート先で定番の店だったのだ。

結婚してから一度も行ったことが無い。

我が子の年齢を考えると、20数年ぶりだ。

内装もメニューも、ほとんど変わっていなかった。

変わったのは、若い店員さんが金髪なくらい。

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「山賊焼きがお勧めよ」

店主にそう言われて、

「そうだよね、そうだった」

と、山賊焼きの入ったメニューで注文する。

甘辛いタレは昔もこんな味だったか…味まではよく覚えていない。

畳席でK君は、店主の小さな子供達によじ登られ遊んでいる。

まるで、お正月かお盆に集まった、親戚のお兄さんにじゃれつく様だ。

私は店主のおかあさんと握り寿司を頬張る。

すっかり食べ終わり、子供達も飽きた頃は、まだ帰るには少し早い時間。

「ボーリングに行こう!

カリンさんも行くでしょ?」

まさかのボーリング大会をする事になった。


チームは店主と子供達。

K君と私。

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ボーリングなんて、何年もした事が無い。

食事時にカルピスサワーを飲んだけど、お酒には弱い私は、たぶんいつもよりハイテンションで、何が起きてもおかしくて笑い転げていたと思う。

学生のK君は、スポーツ類はまるで何も出来そうに無い印象だったが、

(いつか釣りに連れて行っても散々だったらしい)

ボーリングは意外にも、ストレートに真っ直ぐ投げ、2ゲーム目はすんなり100点を超えた。

私の方は、そもそも下手だし、2ゲーム目となると、ボーリングの玉を持って前後に振るだけでフラフラで、笑うしか無い。

でも、大笑いして楽しかった!

楽しい時間をありがとう!

考えてみれば、家族揃ってボーリングをした事が一度も無い事に気づいた。

今週旅立つ我が子とは出来なかったのが残念だけど、珈琲屋さんのご家族と擬似体験の様で楽しかった。

帰り道、店主のおかあさんに車で送ってもらうと、K君が

「子供は可愛いね。

犬と遊ぶのと一緒の感覚ですね」

とK君が言った。

犬と人間を一緒にしたら失礼かもしれないが、私も初めて我が子を持った時、同じ事を思った。

「そうそう。

私、子供を育てるとか怖くて仕方なかったけれど、生まれてみたら、子供の頃飼っていた犬の相手をするのと、そんなに大きな違いは無かったよ。

私、おかあさんになったのは25才の時で。

私も子供みたいなもので、一緒に遊びながら育ったよ」

うなずくK君を見て、いつかもしも、K君がお父さんになる日が来たら、この話を覚えていて、子育てを怖がらずにお父さんになってほしいと思った。

「タマに会いませんか?」

そういえばK君はよく、タマという名の犬の話をしていたのだ。

この日初めて分かった。

タマというのは、学生の間住んでいた、学生向けアパートの番犬なのだ。

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まだ比較的若い、柴犬だった。

私も犬を飼っているからか、タマの方から近づこうとしては手を出すと後退りをする。

可愛い!

K君が「タマ、タマ」

とよく話したくなるのも分かる。

4年間、見知らぬ土地で心の支えになった事だろう。

今日も仕事から帰りかけたのをUターンして、珈琲屋に寄ってみた。

誰かに会える気がしたのだ。

すると、K君が自分のお母さんを連れて店にやって来た。

明日が卒業式なのだそうだ。

のんびりした話し方で、K君をそのまま受け入れ楽しんでいるおかあさん。

安心して様子を眺めつつ…

これからの前途が明るいものであってほしいと、我が子同様に願ったりだ。

※本文はここまで。

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