見出し画像

コブ・サラダ・レポート

 コブ・サラダというものがある。日本では、アボカド、トマト、チキン、キャベツ、タマネギ、ビーンズなどをダイス状にカットしたサラダで、独特のスパイスの香りがするオレンジ色のドレッシングがかかっている。
 最近ではあまり珍しいものではなく、スーパーやコンビニのサラダにも、シーズンによって出る・出ないはあるにせよ、ほぼほぼ定番の商品となっている。キューピーからはドレッシングも出ているから、家庭にとってもなじみ深いだろう。
 僕もこのコブ・サラダとやらが好きで、コンビニであったら買ってしまうし、アボカド・サラダのときにコブ・サラダ・ドレッシングがないと癇癪を起こして卓袱台をひっくり返し、窓を割って回る…とまでいかないけども、けっこう不満である。
 ダイス状にカットしているから、実際の量に対して咀嚼回数が増えるせいか大きな満足感を得られるし、具材も多いから味も食感も飽きない。個人的にはサラダ・ボウルくらいの大きさでコブ・サラダを食べたいものだけど。

 しかし、よくよく考えてみるとコブ・サラダというもの自体をよく知らずに食べている気がする。その起源や発祥元でのスタイルについては何の知識もない。
 美味しければそれで良い、というのはたしかにそうなんだけども、それではエッセイにならないので、ここでは少し深掘りしてみようと思う。なぜ深掘りの対象がコブ・サラダなのか?それは僕が昨日コブ・サラダを食べたからです。

 コブ・サラダの発祥について、ドレッシングの発売元であるキューピーは、以下のように記している。(1)

始まりは、ハリウッドの厨房からでした。
コブサラダは、1930年代にハリウッドの人気レストラン「ブラウンダービー」のオーナーシェフMr.コブ氏が、常連さんのために作ったまかないサラダがその始まりといわれています。
店の正式メニューにするとたちまち評判を呼び、その人気は世界中へと広がりました。
アボカドと肉やゆで卵などお好みの食材をダイスカットにして、お皿に並べるだけ。手軽で、彩りがキレイで、栄養バランスのよいサラダ、それがコブサラダです。

(キューピーHP 「『コブサラダ』とは」より引用)

 なんとなく「Mr.コブ氏」という表現に引っかかりを感じずにはいられないけども、それは良いとして、起源は1930年代のアメリカ・ハリウッドにあるレストラン「ブラウンダービー」でMr.コブが発明したまかないサラダらしい。
 この起源譚について詳しく調べてみると、けっこう細部が異なっている。この手のものはなかなか正確な情報源に当たることが難しいけども、何より史学研究ではないので、英語版のwikiのページを参照した。(2)
 具材は、アイスバーグ・レタス(日本でいうレタス)、クレソン、エンダイブ(キクヂシャ)、ロメイン・レタスなど葉物野菜、トマト、カリカリのベーコン、フライド・チキンの胸肉、ハードボイルド・エッグ、アボカド、チャイブ(ネギやらっきょうの仲間)、ブルーチーズで、ドレッシングは赤ワインのヴィネグレット・ソースという。
 具材で見ていくと、シェフ・サラダと似通っている。シェフ・サラダは固ゆでの卵、ハムやターキーなどの肉、トマト、きゅうり、チーズなどだから、コブ・サラダの具材も特別というわけではなく、アメリカのサラダとしては普通のライン・アップなのかもしれない。

 名前の由来はいくつもある。①ハリウッド・ブラウン・ダービーのオーナーであるロバート・ハワード・コブ(ちなみに彼はブラウン・ダービーのチェーン店を始めた人でもある)に因んだという説(ロバート・H・コブ由来説)(2)、②オーナーのボブ・コブが興行師であるシド・グローマンのために残り物で作った説(ボブ・コブ由来説)(3)などがあるらしい。
 作られた経緯も作った人もさまざまで、〔1〕ロバート・H・コブが真夜中近くまで何も食べておらず、キッチンで見つけた残り物とフレンチ・ドレッシングでサラダにした説(2)、〔2〕エグゼクティブ・シェフであるロバート・クライスがサラダを作成しロバート・H・コブに敬意を表して名前を付けた説(2)、〔3〕オーナーのボブ・コブが、歯科治療を終えたばかりでよく噛むことができないシド・グローマンのために、細かく刻んだ残り物のサラダという説(3)などがあるらしい。
 ここまで来ると史実というよりも民俗学の対象というか、アネクドーツの類いにちかいけども、調べてみると面白い。というか、歯科治療した後にバリバリとサラダを食べるのはけっこうキツいんじゃないかと思う。とくに歯を削ったあとだったとしたら、なおさらだ。それにさらなる疑問さえ出てくる。

 では結局のところ、日本でいうコブ・サラダ、それを象徴づけるあのドレッシングはどういう経緯で生まれたのか?
 少なくとも本場のアメリカではあのオレンジ色のドレッシングではなく、ヴィネグレットやフレンチである。となると、どこからあのドレッシングが「コブ・サラダ・ドレッシング」と呼ばれるようになったのか?ここまで来るとキューピーさんに問い合わせをしないと、正確なことはわからないかもしれない。
 いちおうドレッシングの材料を見ると(1)、ドレッシングの基本的な材料に加え、チリ・ペパー、にんにく、卵黄、ヤラピノ、クミン、ピーマン、コリアンダー、たまねぎ、パプリカ、オレガノ、しょうがなどなど。スパイスの材料を見ると、ターメリックとガラムマサラを入れたらほぼカレーであるけども。
 でも、また疑問になるけど、このスパイスを見ると、どちらかといえばメキシコっぽいのである。ヤラピノは別名・ハラペーニョであり、ご存じのとおり、メキシコを代表する青唐辛子だ。そう考えると、パプリカ、オレガノ、クミン、チリ・ペパーなどもどことなくメキシカンだ。
 しかもキューピーの商品詳細を見ると、乾いた赤茶色の大地にサボテンが生えている上、説明にも「少しスパイシーなメキシカンテイスト」と書いてある……ということにここまで書いていて気がついた。僕にはブラインド・スポットが多すぎるのかもしれない。

 以上から考えてみると、日本におけるコブ・サラダというのは、どちらかというと発祥地であるアメリカン・サラダというよりは、具材からして「どちらかというとメキシカンな風味にしたサラダ」というのが穏当なんじゃないだろうか?
 ここまで長ったらしく文章を書いていて、しかもそれを人に読ませておいて、こういうことを言うのもどうかと思うんだけど、なんの意味があるんだろう、この文章は?
 結局のところ、そういうのがエッセイなのだろうけども。何はともあれ、以上がコブ・サラダ・レポートでした。

出典
(1)キューピー コブサラダドレッシング
 https://www.kewpie.co.jp/dressing/regular2016_cobb/

(2)Wikipedia Cobb salad 
 https://en.wikipedia.org/wiki/Cobb_salad

(3)Wikipedia Brown Derby Hollywood Brown Derby
 https://en.wikipedia.org/wiki/Brown_Derby

※画像は、フリー素材サイトぱくたそ(www.pakutaso.com)の写真素材を利用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?