見出し画像

短歌 2023 初秋

恋の季節なんてものはやっぱりなくって、人肌恋しかろうが離れがたかろうが、終止符というものは必ずある。

6首が5編と、おまけの一つでちょうど31首。
ああ、なんてキリがいいんだろう。ここで幕引きです。


《終止符》

さよならを切り出す覚悟で靴を履く 借りてた本はきれいに包んだ

貸し借りはほんとにこれでなにもなし 歯ブラシ捨てるくらいはしなよ

これきりと分かってワルツ 今日だけは私のターンで踊らせてよね

あの頃の定番はもう廃盤です 見つからなくって困るといいわ

ほんとうね、あなたに恋は早すぎた 年の差なんてあてにならない

薄青にひこうき雲は霞んでく 何も言わないあなたの向こう


《親密さ》

かぼちゃプリン、キーマカレーの上の黄身、満月  あなたがくれたオレンジ

どこからか運ばれてきてオオゼキで積まれたレモンを手に取っている

犬が来た!犬だ!犬だけ?犬のあと飼い主が来て、紐長すぎだよね、ねって

深川めしもブルーボトルもなくたって リトリップには載らないしあわせ

親密という言葉はぼくらのためにある 錦糸町のサイゼリヤへの道

恋人役は得意分野よ あなたほら、恋人面がお上手になって


《TOHOシネマズ新宿》

イメージカラー あなたはこの青 月に一箇所だけがその青

青天の霹靂めきてフリスビー 初夏の御苑の空の高さよ

不器用なあなたがちゃんと分かるよう たくさん教えた好きなものたち

TOHOでたのしい映画を観た隙に大事なことを少し差し込む

ふと5秒ピアスを見てたら じゃあ僕は向こうで なんてどうして

折りたたみ傘わざと忘れて叱られて ねえあなたってホントに馬鹿ね


《ワンルーム》

この部屋の本に埋もれて窒息死する覚悟くらいもちろんあった

吸う息と吐く息のリズム 一瞬と永遠の間の静寂を聴く

眠れずに仕方ないから背中越し岡崎京子の背表紙眺め

パック寿司、ピザデリバリー、ドーナッツ 箱すら開けられてない炊飯器

駅までの一本道を歩くこと 同じ夕焼け眺めてたこと

あの部屋は記憶の中にしかないと気付けば すべてまぼろし さらば!


《星占い》

よみきかせ絵本たのしいおはなしも すべてかならず最後は「おしまい」

失恋を味わおうにもあなたとのふたりの写真がないのひとつも

感情はいつも遅れてやってくる 気づいた時には手遅れだった

終わるのはもう始めから決まってて それがたまたま今日だっただけ

グッバイシェリー 会いたかったわ 人よりも人の言葉を分かってる犬

星占い見てないけれど知っている 今日の1位はしし座のわたし



自作解説なんて野暮だけど、人は変わらないようでいて変わっていく。
過去作の改作、しゃらくさく言えばセルフオマージュってそういうことなのかもしれない。

これを書いたときから、思った以上に時が過ぎていた。
短歌にすることはやはり、こぼれた感情を結晶にして、身から解き放ち、少し離れて眺めて、少し磨いてみたり、飾ってみたりすること。
だからもう、すべては過ぎ去ったことで、私は今を生きている。


魂を捧げた相手と正式にケリつけるまでにかかった時間



この記事が参加している募集

#今日の短歌

39,568件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?