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市町村がデジタルノマドビザを発給し世界中からリモートワーカーを引き寄せ世界とつながることでサステナブルになる時代

※この記事は、2022年5月29日に公開されたものです。元々は有料記事ですが、最後まで無料で読めるように設定されています。

コロナ禍の影響で自由に移動できなくなって2年余り。この間、デジタルノマド(=リモートワーカー)もずいぶんウズウズしていたが、各国では徐々に受け入れ体制を整えてきている。

日本も4月に106ヶ国からの入国受け入れを発表していた。ただし、この時点では短期ビジネスや留学に限った措置で、一般の観光旅行に対するビザの発給は制限されたままだった。そのことはここでも書いた。

で、ようやく6月10日から2年2ヶ月ぶりに海外からの観光客受け入れを、98の国と地域を対象に解禁する運びとなった。

ただし、6月1日から一日あたりの入国者の上限が2万人に引き上げられるのでそれを上限とする。何事につけ慎重というかゆっくりというか「段階的」が好きなお国柄だが、とりあえずは喜ばしい。

ただ、気になるのは「添乗員付きのパッケージツアーの団体客」に限っていること。行動や感染状況を管理しやすくするためと説明しているが、なんでも「団体」で行動させることが好きなお国柄が災いして、世界の情勢からまたしてもかけ離れていくことを懸念する。

というのは、以前から言ってるが、海外では個人が自律的に「移働」する(リモートワークする)ことを大大前提としてモノゴトが進められているからだ。そのことを如実に表しているのが、デジタルノマドビザだ。

これはただ単に観光客を誘致して一時的に「消費」させることで現地にわずかばかりの利益を落とすのではなく、もっと生産的で継続的なビジネス関係を構築しローカル経済を活性化する効果がある。

で、そのデジタルノマドビザとは何か?

デジタルノマドビザとは何か?

ハーバード・ビジネス・レビューでも紹介されていた。

今やテクノロジーのおかげでリモートワーカーは国境を超えて移動し、文字通り世界のどこからでも仕事ができるようになった。そう、デジタルノマドだ。

気候が温暖で物価の安定している地域に、2ヶ月〜3ヶ月滞在して、そこで生活しながら仕事もする彼らは、非日常を日常に変えながら旅をするという意味では、単なる観光客とはぜんぜん違う人種だ。

これまでは自分で時間と仕事を自律的にコントロールできる個人ワーカー(フリーランサーやビジネスオーナー)がデジタルノマドの典型だったが、昨今、社員にそういう待遇を提供する企業も現れている。海外では。

例えば、Zapier、GitLab、Doistのようにオフィスをまったく持たず、すべてリモートで働くというモデルを採用している企業もあれば、TwitterやShopifyのように物理的なオフィスは残しつつも「リモートファースト」の考え方を取り入れている企業もある。

これはコロナの影響でリモートワークを導入した企業がその可能性に気づいたことと、とりわけミレニアル以下の世代がリモートもしくはハイブリッドな労働環境を強く求めてくるようになったことが関係している。いずれにしろ、どこで仕事してもいい時代がいよいよ本格化してきているのは間違いない。←ここ、日本は大きく立ち遅れている。

そのデジタルノマドもくだんのコロナのおかげで自由を奪われたわけだが、ダメージを受けたのは彼らだけではない。受け入れ先である地域にとっても大きな経済的損失を被った。

それを挽回すべく、各国で我先にとデジタルノマドに特定のビザを発行し始めた。それが、デジタルノマドビザ。

なお、パスポートは自分の国が発行するものだが、ビザは渡航先の国が事前に渡航者の身元を確認、審査して発行するもの。なので、国(地域)によってさまざまなビザがあり、その滞在期間もまちまちだ。また、観光目的でビザが要らない国もあれば、ビザが必要であっても短期の滞在に限り空港到着時にビザの取得が可能な国もある。

ちなみに、日本には「一般査証」「就業査証」「短期滞在査証」「通過査証」「外交査証」「公用査証」「特定査証」「医療滞在査証」の8種類のビザがある。

ここで言ってるデジタルノマドビザは、「デジタルノマド(オンラインでリモートワークするワーカー)であり、滞在地以外の企業に勤める者に発行されるビザ」のことだ。

実は、コロナ禍が流行し始めてすぐに、世界的な旅行者数の減少に苦しんでいる多くの国が、デジタルノマドに特定のビザを提供し始めていた。昨年の3月23日のぼくの講演用のスライドにこのシートがあるから、すでにこの頃にはあった。

ちなみに、「滞在地以外の企業に勤める者」という条件は、ビザ取得者が現地の仕事を奪うことがなく、かつ自活できることを証明するよう規定されている。

で、これが通常のビザより長い滞在期間が許されている。←ここがこのトピックスの最大のポイント。

ここに、デジタルノマドビザを発行している国(地域)の一覧表がある。「Duration(滞在期限)」の欄をご覧あれ。

(画像出典:Harvard Business Review ウェブサイト)

例えばポルトガルでは、滞在期間中にリモートで仕事をしていることを証明できるワーカーに対し、12ヶ月の滞在ビザを提供している。

その他、オーストラリア、チェコ、UAE、エストニア、ドイツ、タイ、インドネシア、イタリア、スペイン、ブラジルなど、多くの国がデジタルノマドビザを提供していて、滞在期間も12ヶ月から24ヶ月、中には48ヶ月(4年!)という国もある、また、滞在期間を延長できる国もある。

これらのビザの発行には、通常、相応の収入があること(金額は国によって違う)と国外で雇用されていることの証明、旅行保険、健康保険などを必要とする。発行費用は、安いところで33ドル、高いところで2,000ドルとこれまた幅が広い。

各国がデジタルノマドビザを発行する本当の理由

ところで、なぜ、各国はデジタルノマドを誘致するためにこんな特殊な(滞在期間の長い)ビザを発行するのか。それは、彼らが長く滞在して地元に相応の経済効果をもたらしてくれることが判っているからだ。だがそれは、彼らの消費活動のことを意味しているのではない。

デジタルノマドはただの観光客でもバックパッカーでもない。れっきとしたワーカーであり、ビジネスマンであり、経済活動をしながら移動する、つまり「移働」者(リモートワーカー)だ。

だから、彼らの活動拠点として滞在場所を提供し、十全に仕事できる環境を整備し、人間関係を結ぶ機会を設けることで、デジタルノマドは自分の時間とお金を現地経済に投資し、現地の知識労働者と協働もしくは協業関係になることで、リモートワーカーと地域社会の双方に成果をもたらす。

この記事でも、「デジタルノマドが地域間の知識や資源の流れを促進し、自分自身、所属組織、そして受け入れ国に利益をもたらす可能性がある」とある。つまり、コラボレーションを促進し、イノベーションを引き起こす原動力となり多くの恩恵に浴することができる。

ちょっと引用しよう。

短期間の旅行や地理的に離れた同僚との短期間の共同生活によって、ワーカーが新しいアイデアやプロジェクトの成長に役立つ情報やリソースにアクセスすることができ、それがリモートワーカーとその組織の両方に利益をもたらす

熟練したリモートワーカーは自国の文化的背景からユニークな知識を受け入れ先のコミュニティにもたらす

現地のビジネスパースンたちは、デジタルノマドが持ち込んだ知識に自分たちの既存の知識を組み合わせる「知識の再結合」を行っている

「知識の再結合」は、とりわけ閉じてしまいがちな地方都市においては不可欠だろう。そうして外から取り入れ、自分のものにすることで地域を再生できる。

デジタルノマドは起業家精神を育み、世界各地にテクノロジークラスターを形成する上で重要な役割を果たす。ちなみにスタートアップ・チリは政府出資のインキュベーター・プログラムだが、2012年の設立以来、実に280社以上のベンチャー企業をチリに招聘している。←これも日本がやるべきこと、というか、市町村でやるべき。

こうした目に見えない、いわゆる無形資産を獲得することが、地元を、国をサステナブルにするということをどの国も重々理解しているからビザの発行に躍起になっている。いわばデジタルノマドの争奪戦が繰り広げられているわけ。

ところが日本には、今のところ全然そんな気配がない。世界は他と交わることでどんどんアップデートしているのに、あいも変わらず団体旅行客めあてに「おもてなし」などと寝言を言ってる有様。20世紀もいい加減にしとかないと、本当に滅びる。

で、そのデジタルノマドの活動拠点であり仕事場であり人間関係を結ぶ機会を設けるところが、ローカルのコワーキングなのだ。

おなじみの図をあげておく。

日本の市町村もデジタルノマドビザを発行しよう

デジタルノマドビザについて、もう少し筆を進めておきたい。

日本の企業はワーケーションはおろか、テレワーク(リモートワーク)すら満足に普及していないし、残念ながら当分浸透しそうにない。なので、先の記事でも動きの鈍い国内企業よりも自由に動ける海外のデジタルノマドのほうが大事と書いた。

それは、一向に普及しない企業主導型の国内ワーケーションによる効果を期待するより(ぼくはこの日本型ワーケーションは早晩腰砕けに終わると見ている)、海外から直接デジタルノマドを引き寄せることにトライしたらどうだろうか、ということ。

もっとはっきり言うと、コロナ禍後(まだ終わってないけど)のローカルコワーキングがフォーカスすべきは、東京から企業の制度に則って来る会社員よりも(ま、多少はいるにせよ)、世界から自分の意志で渡航して来るリモートワーカーのほうだ、ということ。

地方(あるいは地方自治体)は無思考に国内の観光業者のプランに乗っかるのではなくて、世界からデジタルノマドを受け入れる姿勢を、態勢を自ら打ち立てて、企画し、広く海外にアピールすることのほうが効果があると考えている。なぜなら、彼らは日本に来たいと思っているし、今まで来ていないのは呼んでなかったからだ。

そこで提案したいのが、国ではなくて市町村が発行するデジタルノマドビザだ。

ハーバードの記事には出ていないが、ポルトガルの小さな島でも、昨年デジタルノマドビザを発行して話題になった。

人口わずか8,200人の村が受け入れ先で、定員100名に対し3,000人が応募したらしい。←ポイントはここ、村が発行した、というところ。

ちなみにここは、サッカー選手クリスティアーノ・ロナウドの故郷でもあるから、それも人気の原因かもしれないが、いまどき、国の判断を待ってるのではなくて市町村が自律的に企画して制度を整備し然るべき法的処理を施してビザを発給する、言い換えれば、ローカル主導で世の中を引っ張っていく時代にすでに突入しているということだ。

何かと言うとお上に伺いを立てる風習の日本(の行政)だが、今や地方がそれこそ自律的に起案してコトを動かすべきではないかと思う。そういう法制度がなければ(ないのだが)、法が整備されるよう情報発信し機運を高めて同志を募り運動することも考えてもいいのではなかろうか。

ことに、日本の地方はそれぞれネイティブな魅力にあふれていてデジタルノマドを惹きつけることは必至だ。『新・観光立国論』を書いたデービッド・アトキンソン氏は、観光が成立するための以下の4つの要素をあげている。

・自然が豊か
・気候にバリエーションがある
・文化・歴史が深い
・食事が美味しい

日本は海と山の島国で自然に満ち溢れている。むしろ平地のほうが圧倒的に少ない。暑いところもあれば寒いところもあり四季の変化が楽しめる。長い歴史の中で培われた文化は日本独自のものだ。それに、和食に限らず洋食も中華も、世界中の食事が美味しくいただける。つまり、日本は最強。

我々は日頃あまり意識していないが、これらの要素は世界から人を惹きつける大きなポテンシャルであることを弁えておいたほうがいい。

ただし。

それは日本中どこでもそうなのだ、ということも肝に銘じておくべき。なにかというと、海がきれい、寺社仏閣が古い、日本食が楽しめる、と観光系は喧伝したがるが、日本中どこでもそれは同じで差別化されていない。

それよりも、ヒトとコト。その地にどんなヒトがいて、どんなコトをしているのか。それがどんなにオモシロイのか、どんなに尖ってるのか、どんなに変なのか、が最も人を惹きつける。結局、人が人を呼ぶ。そして、その人がいるから、また来ようと思う。その人はそこにしかいないからだ。

そしてそこでモノを言うのが、先の図でもあるように、ローカルとリモートをつなげるローカルコワーキングがあるかないか、だ。まず、ローカルありき、これは何度でも言っておきたい。

先の4つの要素はあくまでデフォルトとして、それに「ヒト」と「コト」のレイヤーを載せて企画して発信することが肝要だ。海や寺や海鮮丼はおまけにすぎない。(なんでここで海鮮丼が出てくるのか判らないが)

最後にもうひとつ付け加えておきたいのは、焦点を絞るのは企業でも団体でもない、個人だ、ということ。毎度くどいが、ここを見誤るとすべてが台無しになってしまう。もう個人が個人で動く時代に入っている。すべての軸は個人だ。そのことも先の記事に書いてるので参照されたい。

それでは。

(Cover Photo:VOIウェブサイト)

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