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【前編】信州佐久で地域複業のココロを学んできた〜Beyond the Coworking Vol.18

※この記事は2022年10月27日に公開したものの転載です。
※後編はこちら

先週、久しぶりに「Beyond the Coworking」を開催すべく、長野県佐久市のワークテラス佐久におじゃました。

告知ページはこちら。

ちょっと自分で引用すると、

昨今、コロナ禍を経て、地方都市にもコワーキングが続々と開設されるようになってきました。それはローカルの人と人をつなぐハブとして、コミュニティをベースとするコワーキングの必要性が認識されてきた証拠だと考えられます。

ただ、ローカルのコワーキングは大都市圏のそれとは違う運営の考え方が必要です。地元だけで閉じてしまうのではなく、外からもリモートワーカーを迎え入れて、ローカルとリモートをつなぎ、そこで新しい価値を生むインフラとして機能することが求められます。

そしてそれこそが、人口減少に未来の不安を感じる地方の町をサステナブル(継続可能)に転換する有効な手段となります。

という認識のもと、ではその「外から迎え入れて、かつ、関係を維持する方法」として何があるのか、と考えたときに真っ先にアタマに浮かんだのが、ワークテラス佐久をベースに展開されている「地域複業」だった。

ローカル(地域)の課題を、外部からやって来るワーカーの手を借りて解決する、その対価も生まれ、地域の経済活性化にも結びつく。そういうエコシステムを回すのが地域複業で、ローカルコワーキングはその実行者をローカルにつなげる働きをする。

そこで「ワークテラス佐久」における地域複業の先行事例に学び、地域にあるべき理想のコワーキングを構想するきっかけにすること、そしてまた、地方移住や多拠点生活を志向しているワーカーの方の参考になることを目的に、2日間にわたって開催したというのが今回のイベント。

地域複業で先行する長野県

ちなみに、長野県佐久市はガチで地域複業を推進している。

まず上げておきたいのは、株式会社JR東日本企画長野支店が運営する YOBOZE!。これには、ワークテラス佐久のスタッフも務める柳澤さんが関わっている。

ローカル特有の課題を抱える地元事業者と、地域複業を希望するワーカーをつないで課題解決の機会を作っている。基本的に、佐久市商工振興事業の一環として実施するため、利用手数料は一切かからない。そう、タダです。

(出典:柳澤拓道氏)

それと関連して、佐久市が移住者やいわゆる関係人口に「副業・複業」として担ってもらう「地域複業創出事業」を市内の企業を対象に募集している。

こういう取り組みは、例の「地域おこし協力隊」とはやや違う文脈で進行しているように見受けられるし、多拠点移住者の選択肢としても面白いと思う。

とか言ってたら、今度は長野県が株式会社Another worksと協定を結んで、今月から複業人材を登用する実証実験を開始した。

この実験では、デジタル・メタバースエバンジェリスト、広報基本方針策定アドバイザー、広報コミュニケーションプランナー、総合計画PRプランナー、エシカル・プロモーション・スペシャリスト、課題解決共創パートナーの6職種の複業人材を募集する。「お」と思った人、多いんじゃないだろうか。

要するに、長野県は、ガチなのです。

東京に近い(新幹線で60〜70分)という地の利が有効に働いているのは確かだが、「行ってみようかな」という気を起こさせる企画が実に上手い。

その中でも、ワークテラス佐久は、率先して地域複業の取り組みを行っている。サイトのトップにはこうある。

ワークテラス佐久が提供する、
地域の関わりしろ” SAKUSAKUSAKK”


地域のキーマンと越境者の協働を通じて、
新しい豊かな佐久を模索していきましょう。

この「地域の関わりしろ」という言葉がローカルの活性化に大きく関わっている。

ぼくはローカルのコワーキングは、その土地だけで閉じていてはいけない、外からやって来る者を受け入れて、ローカルのワーカーとつなぐ役割を担わねばならないと考えている。

外と内、リモートとローカルがつながることで、その地に新しい価値を生むことが期待できるし、そうすると、その地の持続性(サステナビリティ)が増すから。

それを佐久は地域複業という文脈で着々と前進している。

ということで、ワークテラス佐久をベースにそうした地域複業の実際を学ぶために開催した2日間を、ザク〜っと記録しておきます。

ワークテラス佐久はデカイ…が手作り感がいい

実は長野県佐久市へは、コロナの間には何度かオンラインイベントでおじゃましていたけれど、リアルな訪問は2016年のコワーキングツアー以来、実に6年ぶりだった。あの時は電車を乗り過ごして滑津の駅で1時間次の電車を待ってたなぁ。

その時はいまはなきiitoco!!というコワーキングだったけれど、そこを運営していた江原さんがワークテラス佐久に携わるようになったので、今回、初めて伺った。

しかし、デカイ。元は情報センターだった(かな?)らしい。中をざっと見渡すとこんな感じ。電気代、スゴイだろうなぁ。

参加者が集まってきたところで、簡単に自己紹介して、館内を案内してもらった。

ちなみに、参加されたのは地域複業を考えている東京在住の方、長野県内でコワーキングの運営をされている方、東京とカンボジアで事業展開されている実業家の方、地域複業を軸に活動の拠点を開設したいとお考えの方、そして、地域複業バリバリの実践者の面々。あいにく自治体職員の方は参加ゼロだったが、バラエティに富んだメンバーで関心を寄せるところもさまざまで非常に楽しかった。

これは周辺地図だが、スタッフの方が壁に直接手描き。

聞けば、ワークテラス佐久のスタッフさんたちは、皆、手に職を持つ複業人材で、カメラマンや革作家、ステンドグラス作家、消しゴムはんこ作家、チェリストであり街づくりの専門家、等々、それぞれが別の顔を持っている。そういう働き方が、もうデフォルトになってきていることが判る。

(出典:江原政文氏)

スマホアプリで館内案内のビデオが再生される。

これは連歌に着想を得た、連画。連想した被写体を写真でつないでいく。オモシロイ。こういうアート感覚もコワーキングには合う。

浅間コーラは長野県浅間山麓の天・地・人が織りなすプレミアムクラフトコーラで、スタッフの柳澤さんが別会社で取り組んでいるプロジェクト。これは、イベント用に手作りされた屋台(というのかな?)。

こちらは、先日、そのイベントに出店した時の様子。荒天にもかかわらず用意していた150杯が数時間で完売したそうです。スゴイ。

現在、クラウドファンディングに挑戦中で、こちらで柳澤さんの熱い想いが読めます。

ワークショップの前に街歩きで土地勘を

館内案内の後、1日目は、まず街歩きから始まった。地域複業という前に、佐久の町を巡って土地勘を養い、夕方からのワークショップの予備知識を得る時間という設定だ。話や理屈だけではなくて、町を五感で感じるということはとても重要だと思うので、あえて先にこの時間を作った。

まず、今回ご厄介になるお宿、柏屋旅館さん。和風旅館をゲストハウスに改造されたそうで、佐久の日本酒を13種類、好きなだけ飲み比べできるという危ないサービス付き。

あたりは静か〜な町並みで、概ね、飲食店が並ぶ。

一歩、脇道に入ると、懐かしい風景。昼間は静かだけど、夜はそこかしこに明かりが灯って地元のお客さんで結構賑わってる。

地下道を抜けると、

広場に出る。実はこれ、道なんだそうです。

ここを囲むようにしていろんな建物や施設がある。

ここは、予約制のシェアスペースのTELTさん。残念ながら閉まってたので、画像はサイトから拝借しました。

(出典:TELTウェブサイト)

その隣にもこういうスペースが。空いた物件を再活用して、このエリアに人を集めようとしている。

通りの端には八十二銀行の旧支店があった。支店統廃合により、いまは使われていないんだそう。勿体ない。ここにコワーキングと宿泊施設を併設し、コワーケーションを企画してデジタルノマドを呼び込んだらオモシロイと思う。

地元民に愛されている、昔からあるレストラン。佇まいがいい。

最寄りの中込駅の前にあったパン屋さん。なんと、創業108年だそうです(大正時代!)。パン2種とスコーンを買った。美味かった。

かと思えば、ケーキ屋さんでアイスクリームをいただいたり。

で、道の駅に回って地酒を買った(もうはや)。

ここからの眺めに良き日本のローカルを感じつつ、ワークテラス佐久へ帰還した。それにしても、佐久って広い。

地域複業のキモは自己実現と内発的動機

さて、ここからのワークショップは2時間。まず、ぼくが「コワーキング曼荼羅〜コワーキングにおける8つのテーマ」と題して、毎度おなじみコワーキングの5大価値コワーキング曼荼羅についてお話した。ええ、またしても時間オーバーしました。すみません!

(出典:林光氏)

続いて江原さんと柳澤さんが、「ワークテラス佐久におけるリモートワーカーを呼び込み、関りを深める取り組み紹介~ローカルコミュニティ化、(コ)ワーケーション、地域複業~ 」と題してプレゼンした。ここが本日のメイン。

まず、地方にはさまざまな課題があるということを共有した上で、

(出典:江原政文氏)

あくまで内発的動機(人から言われるのではなく)で解決への道を探るプロジェクトを起ち上げることの重要性を訴えた。

(出典:林光氏)

ただ、それを一人ではなかなか実行できない。そこで、コワーキングの力を借りて複業化し、さらにマイクロビジネス化することを思いついた、と江原さんは言う。

(出典:江原政文氏)

「リモートワーカーなら時間を自由にコントロールできる。収入をある程度確保しながら、週1日とか月に数日、複業に勤しめるはず。ローカルとの接点を求めている移住型リモートワーカーなら、地元との接点ができてなおさら都合がいい。これをうまく回せば、地元にも還元できるし、自らもいくばくかの収益を得る」

つまり「プロ>複業>体験」と位置づけて、しかし、自分たちの暮らしを自分たちで作る、というスタンス。案外ここは、今まで見逃されていたポジションではないか。

(出典:林光氏)

ぼくはこれからは定住を前提とした移住ではなくて、ワーカー(もしくは自分の人生を生きる人)が、気に入っている土地を行き来する、そのさなかでも仕事はする「移働」のほうがいいと思っている。

移住と言うとどこか大掛かりな計画が伴う。が、「移働」はもっと身軽で気の向いたときに行きたいところへ行けばいい。ただし、観光客ではないので仕事も継続することが大事。

(出典:林光氏)

でも、すでにそういう生き方をする人はどんどん現れている。今回のコロナ禍がそれを後押ししたのは言うまでもないが、コロナ前からテクノロジーの進化のおかげでリモートワークが浸透し、デジタルノマドが世界中を行き来してる様を見て、居場所を自由に選択する時代に入ったのだと感じた。

(出典:林光氏)

で、それをサポートするのもローカルコワーキングの役割だ。ただし、いつもの仕事を抱えてやって来て、ただそれをするためだけにコワーキングを使うのでは芸がない。持ってきた仕事以外に、そのローカルで起こっているなにかに関わりを持つこと、そこをつなぐのがローカルコワーキングだ。

ワークテラス佐久で実践している地域複業は、一見、地方都市の思いつきのように見えるかもしれないが、実はそうした新しい働き方(=生き方)をエンパワーする、まさに時代の最先端を行く方法論に他ならない。

(出典:林光氏)

そうしていくつもプロジェクトが動き出すと、それに関わろうとうする人が現れる。それがコミュニティとなり、相互に重なりだす。コミュニティ間を行き来する人が出てくる。それが相乗効果を生む。言い換えると、ローカル同士は競合しない。←ここが大事。共生する。

(出典:江原政文氏)

そうして立ち上がったローカル複業化プロジェクトのひとつが、竹林問題を解決するために竹パウダーにし、有機農家に使用されることで対価を生むことになった活動、「millplot」だ。

(出典:江原政文氏)
(出典:江原政文氏)

その他にも数々の活動が行われていて、翌日開催された「地域複業フェス2022 in 佐久」では「millplot」を含めて4つの取り組みのプレゼンがあった。…のだが、長くなったので、そのことは後編で書くとする。

(出典:林光氏)

冒頭、柳澤さんはこのスライドを映して、単に副収入を増やすために「副業」するのではなく、自己実現のためにするのが「複業」であると語った。そして、江原さんは「内発的動機」が肝要であることを何度も話した。

ややもすると、地方創生だの地域活性化だの、大きな言葉を使いがちだが(ぼくもときに口にしてしまうが)、もっと個人的感情の機微によって行動に移しても、何のそしりを受ける筋合いもないはずだ。

自分の暮らしたい暮らしをするためにいくつも仕事を持って機嫌よく働く、その結果、自分も、そしてローカル(地域)もハッピーになるのなら、それに越したことはない。その個人活動の積み重ねが、ローカルをサステナブルにする。

つまり、コトは個人から動き出す変わるということ。←ここもちゃんと抑えておきたい。

ということで、ご参加いただいた皆さん、誠に有難うございました。

この続き、2日目の地域複業フェスのことは後編に書きます。

なお、この日の夜は食事の後、柏屋旅館さんで二次会が始まり、くだんの日本酒をいただきながら2時前まで話し込んでしまったことを報告しておきます。

それでは。

※後編はこちら

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