見出し画像

ローカルコワーキングのための実践的教訓とベストプラクティス:今日のアウトテイク#276(2024-08-20)

<アウトテイク>
・SNSに投稿するのではなく、これを自分SNSとした投稿
・記事として仕上げる前の思索の断片、または下書き
・一部、筆が乗ってきて文字数多いのもあり〼
・たまに過去に書いたネタを展開する場合も
・コワーキング関連のネタが多め
・要するに「伊藤の現在地点」
・いずれKindle本にまとめる予定


#今日のBGM

#今日のコトバ

"誰も君に真実を教えようとはしない。それは、自分で見つけなければならない。"
(ノーム・チョムスキー)

#「コワーキング曼荼羅に学ぶローカルコワーキング基本のキ」受講者募集開始

9月より、「コワーキング曼荼羅に学ぶローカルコワーキング基本のキ」を開講します。

この講座は、14年前のぼくと同じく、自分たちにコワーキングが必要と考える人たちを対象にした講座です。場所貸しのビジネスありきではなく、参加するワーカーのカツドウがより良い社会にするために有効であると考える人たち、その人たちを支援したいと思っています。

自分たちのコワーキングの開設・運営をお考えの方は、ぜひ、上記のサイトをチェックください。

#ローカルコワーキングのための実践的教訓とベストプラクティス

Pauline RousselさんのCoworkiesのリーダーズクラブ向けのニュースレターで、「地方のコワーキングスペース: 成長のための実践的教訓とベストプラクティス」と題した記事が送られてきた。念のためサイトを見ると会員制限されていないようなので、共有する。

ちなみにPauline Roussel さんは Dimitar Inchevさんと2年かけて世界の47の都市の420のコワーキングを訪ねて地球を巡り、そのうちの250のコワーキングを紹介した「Around The World in 250 Coworking Spaces」という本を2021年に出版している。

現時点では世界のコワーキングに関する最重要資料のひとつ。日本のコワーキングも紹介されていて、後段に出てくる長野県富士見町の「森のオフィス」もそのひとつ。

Rural Cowokingというのは、ここでは「地方のコワーキングスペース」としているけれど、この「地方」の定義が意外と難しい。「田舎」とも言えるし、日本でなら「里山」をイメージする人もいるだろう。

この記事ではこうある。

例えば、イギリスでは人口密度が10,000人以下の地域を「地方」とみなしています。
アメリカでは、農村地域とは、開けた田舎と、住宅戸数が2,000戸未満、居住者数が5,000人未満の集落を指す。
一方、スペインでは、住民数3万人3未満、または1km2あたりの住民数が100人未満の沿岸部以外の自治体はすべて農村部に分類される。

ぼくがよく使う「ローカル」は「田舎」だけを意味せず、人口の少ない地方の「町」もローカルと思って使っている。さらに言えば、東京は大都市だが、その周辺にはここでいうローカルな町もたくさんある、という認識だ。

なので、感覚値でしかないけれど、人口100万人でも15万人でも2,500人でもローカル。人口の多寡ではなくて、むしろ大都市圏からの距離感、位置関係でローカルと捉えている。

以下、要点のみざっくり紹介する。

で、まず、その地方になぜコワーキングが必要なのか?

パンデミック期にリモートワークやフレキシブルな雇用形態が広く採用されたことで、ほとんどどこからでも効率的に仕事ができることが明らかになった。その結果、大都市に住むことは義務から、より個人的な選択へと変化した。

人々は現在、生活の質、生活費、自然や家族への近さなど、他の要素も考慮して住む場所を決めている。この変化は、職場がある場所に制約を感じるのではなく、自分の価値観や嗜好に合ったライフスタイルを選べるという新たな可能性をもたらしている。

しかし、大都会でのライフスタイルから地方でのライフスタイルへの移行を効果的に行い、仕事の生産性を高く維持するためには、いくつかの重要な要素が必要となる。多くの地方では、他に有力な選択肢がないため、人々は自宅で仕事をすることが多い。そこで、地方におけるコワーキングスペースの重要性が浮かび上がってくる。

毎度同じことの繰り返しで恐縮だが、でも、この「自分の価値観や嗜好に合ったライフスタイルを選べるという新たな可能性」がもたらされているということを理解しない企業もまだ多い。「RTO(オフィスへもどれ)」運動は一部ではまだ続いているが、有能な人材ほど自由な選択肢を優先する。

そこで、地方にコワーキングが必要となってくる。それを表したイメージ図をコピペしておく。(クリックすると拡大します)

コワーキングがなければ家ばかりで、

(出典:Coworkies)

・誰もが独りで仕事する。
・エンゲージメントもコラボレーションも少ない。
・適正にコスト低減できない。
・地域外からの関心を惹かない。

そこにコワーキングがあればこうなる。

(出典:Coworkies)

・皆が一緒に仕事する
・エンゲージメントもコラボレーションも多い。
・コスト低減も実現する。
・地域外からも関心を持たれる。

言う事なしじゃないですか。

コワーキングスペースが、人々が互いに見守り合い、サポートされ、コミュニティの一員であると感じられる歓迎の場所となっている。 これらのスペースは単なる仕事環境ではなく、つながりを育み、田舎暮らしにありがちな孤独と闘う社会的なハブとして機能する。

ほら、単なる作業場ではなくて「社会的なハブ」と彼女も言ってる。念のためだが、これは地方に限った話ではない。都市圏でもコワーキングが社会的なハブであることは変わらない。ただの作業場にしているのはその運営者のコワーキングに対する理解が足りないだけだ。

生活圏内のコワーキングは地域コミュニティとしても十全に機能する。今まで、昼間はオフィスに通勤していなかったお父さんたちが、町内のコワーキングで毎日顔を合わすようになり、コミュニケーションが生まれ、つながりができ、それまで縁の薄かった「地域」という感覚が呼び覚まされて、いわゆる「町内会」あるいは「自治会」の様相も呈してくる。

というか、空き家問題が深刻になっている地方ほど、町内の空き家を活用してコワーキングを設置するべき。

一方、もちろん課題もある。

地方のコワーキングスペースは社会的、コミュニティ的に大きなメリットをもたらしますが、特に孤立を防ぐという点で、独自の課題と機会も伴います。
これらを理解することで、人口の少ない地域でこのようなスペースを効果的に設立し、維持することができます。

その地方のコワーキングスペースの主な課題と機会を表にしたのがこれ。(クリックすると拡大します)

この課題と機会は表裏一体だ。課題が機会を作ることにもなるのはローカルコワーキングでよくあること。例えば、専門的なリソース不足であっても、人のつながりを作ることで埋もれていた地元の人材を発掘することはある。

また、コワーキングの収益性が乏しいのは利用料金だけで考えるからで、いつも言うようにコワーカーをチームにして、地域内のお困りごとの案件を受託することで利用料金以外の売上も作れるし、あるいは異業種、例えば飲食店、宿泊業などとのコラボを積極的に取り入れることでカバーすることは可能だ。

このあと、記事ではスウェーデン、日本、インドの事例を紹介している。

スウェーデンのGomorronは最も近い主要都市から200キロ離れているÖstersundという町にある。2016年の創業。

単に仕事をする場所としてだけでなく、地域のコラボレーションとイノベーションのハブとして誕生した。年々成長し、企業やリモートワーカーの増加に対応するため、町内の複数の場所に拡大しているという。←これ、パンデミック以降の典型的なパターン。

で、Gomorronがどうして成功したかの問いに対してこう解説されている。

コワーキングスペースの成功は、地域コミュニティとの深い統合に大きく起因している。
創設者たちは、スペースの創設と運営に地域社会を巻き込むことの重要性を強調し、そのスペースが地域社会の特定のニーズと強みを反映していることを確認した。
このアプローチは、人々がくつろげる、強力で、包括的で、協力的な環境の構築に役立っている。

地域社会を巻き込むこと、これはどこでも聞く言葉だ。言うは易く行うは難しだが、ここをスキップしてしまうと、なかなかその地に根の張ったコワーキングにはならないのは容易に想像できる。

ぼくが地域おこし協力隊にぜひコワーキングをやってほしいと言ってるのは、彼らの立ち位置ならローカルコワーキングを起ち上げる、あるいはそのきっかけを作ることができると思ってるから。

事実、協力隊員の任期中にコワーキングを起ち上げ、見事に「社会的ハブ」として機能せしめ、ついにはコミュニティ財団まで設立して(のちに一般財団法人に認定)、地元の継続可能性を高めている事例もある。

何度か紹介しているが、愛媛県西条市のサカエマチHOLICがそれ。

ここのカツドウについては過去にも書いてる。

次に日本の事例で紹介されているのは、長野県富士見町の森のオフィスだ。

ここには、8年前の2016年8月に、コワーキングツアーでおじゃました。(あー、長らくご無沙汰)

このときは8日間で8箇所のコワーキングを巡った。

「森のオフィス」の津田さんは、コワーキングを起ち上げた際のことをこう語っている。

「森のオフィス」がオープンした当初、コワーキングというコンセプトは、特に日本の地方ではあまり理解されていませんでした。
地元住民も当初は抵抗感があり、プロジェクトに抗議する人さえいました。
しかし、忍耐強く、徐々にコミュニティを構築することで、コワーキングスペースは最終的に支持を得ました。

やはり、地元といかに判り合えるか、ここは地道にプロセスを踏んでいくことが肝要ということだ。

「森のオフィス」の第一の動機は、都市部から富士見に移住してくる人たちをサポートする環境を作ることだった。
その目的は、移住者が地域コミュニティに溶け込みやすくし、新しいプロジェクトやビジネスベンチャーに協力できるスペースを提供することだった。
この取り組みは、人口を増やし、新たな経済機会を創出するという町の広範な目標に沿ったものだった。

これ、ぼくの記憶に間違いなければ、日本でワーケーションという言葉が囁かれ始めるずっと前の話だ。彼自身、八ヶ岳に惚れ込んで移住した人だから、こういう発想が生まれたのに相違ない。(そのへんのことは、そのツアーのリポート記事で書いたのだが、掲載していたサイトがクローズしたので、今はネット上にない)

そして、その結果、地域社会にどんな変化が起こったのか。

「森のオフィス」は、フリーランサー、デザイナー、クリエイティブ・プロフェッショナルを富士見に呼び寄せ、富士見に大きな影響を与えてきた。
これらの新参者たちは、町に仕事をもたらすだけでなく、地元のビジネスや文化イベントに貢献し始め、地元住民に溶け込んでいる。
こうした融合が新たな共同体意識を育み、伝統的な田舎暮らしと近代的な遠隔地での仕事とのギャップを埋めるのに役立っている。

ここです、ここ。

地域外から来た者をただお客さん扱いするのではなく、ローカルプレイヤーとして遇することで、地元に新たな価値を産み落としている。「伝統的な田舎暮らしと近代的な遠隔地での仕事とのギャップを埋めるのに役立っている」というのは、まさにローカルコワーキングならではの存在価値を物語っている。

ただ、居場所を変えて田舎に引っ越すだけではない。そこにいる人たちと一緒にカツドウすることで、コミュニティの一員となる。言われてみれば、ごくシンプルで当たり前のことだが、それを自力でするにはパワーが要る。そこで、コワーキングを使う。コワーキングが媒介になってくれる。なにしろ、コワーキングは人と人をつなぐ社会的ハブだから。作業場じゃなくて。

津田さんのインタビュー動画はこちら。カバーがカッコいい。

と、書いてきて、すでに4,800字を超えたことに、今気づいた。もうひとつ、インドの事例があるが、インドのことは別のネタで書くので、そのときにしよう。

ということで、今日はこのへんで。

(カバー画像:富士見森のオフィス)


ここから先は

0字

この記事は現在販売されていません

最後までお読みいただき有難うございます! この記事がお役に立ちましたらウレシイです。 いただいたサポートは今後の活動に活用させていただきます。