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ふなのりと巫女 ーかてかる帖ー


本編

これは沖縄がまだ琉球といわれた時代の物語です。

1.むかーし、むかし

①むかーし、むかし

むかーし、むかし
琉球王国にひとりのふなのりがおりました。

はたらき者のふなのりは、
毎日せっせと
たくさんの荷物を
島から島へとはこんでおりました。

2.今日はお休み旅に出よう!

②今日はお休み!旅に出よう!

「よしよし!

今日はおやすみにしよう。
ちょくら旅にでも出てみるか!」

いつもの舟から荷物を下ろし
下着だけつつんだ小荷物で
朝から海へとくりだしました。


3.荷物のない舟は楽チン

③荷物のない舟は楽チン

「あー。荷物のない舟はこぐのも楽チン。
 ここちよかねー。イッペー進むなー。」

あてもなくぐんぐん舟をこぎはじめます。


4.船の上でごろん

④舟の上でごろん

あんまりにもいきおいよく
舟をこいただせいか
少し疲れてきました。

「ちょっくらユクルんね~」

ふなのりは舟の上でごろんところがります。



5.あの岸にしよね!

⑤あの岸にしよね!

「あい~よく寝たあ!」

ちょっくらのはずが、すっかり昼すぎです。

「今日のバカンスはあの岸にしよね!」

ふと目についた岸へと舟をとめます。


6.ちゃーっとつづく道

⑥ちゃーっとつづく道

たどりついた岸の少し先に
たくさんの木々がみえました。

すっと近づくとまんなかに
ちゃーっとつづく道がありました。



7.小さなうたき

⑦小さなうたき

ふわっとひきつけられるように
その道をちゃーっとすすむと
その奥に小さなうたきがありました。

「うたきってのは、どんも気味悪いね~」

ふなのりは、木々のかげでつぶやきます。



8.うたきの前に。。。

⑧うたきの前に・・・

すると、うたきの前に
むすめをつれた親子らしき3人が
あらわれました。

まもなく、うたきの中から
ひにやけたおっばぁと巫女たちが
ぞろぞろ ぞろぞろと でてきました。


9.むすめはうたきの中へ

⑨むすめはうたきの中へ

なにやら話しをしたあとに
両親らしきふたりは去り
むすめは巫女たちといっしょに
うたきの中へと消えていきました。

ふなのりは、そのようすを
じっと木のかげでながめておりました。



10.ふなのりは宿で。。。

⑩ふなのりは宿で

すっかり日もおち
ふなのりは近くの宿に
とまることにしました。

天井を見上げると
じっとうつむいたままの
むすめのかおがうかびます。

「明日もっかい行きましょね!」


11.次の日

⑪次の日

次の日ふたたび、あのうたきの前に行くと
ちょうど昨日のむすめがひとりでいました。

ふなのりは、勇気をだして声をかけます。

「ハイサーイ!」

「あい!なんね~!?」

むすめはびっくりしてふりむきます。


12.海行きましょね!

⑫海行きましょね!

「デージーニリーな顔してんと海行きましょね!」

そう言うとふなのりは、むすめの手を掴んで
ぐんぐんあの林の道を抜けて岸辺へと向かいます。


13.海!ちゅらかね~

⑬海!ちゅらかね~

「ほら!海!ちゅらかね~。」

ふなのりが満面の笑みでむすめに言います。

「アッキヨー」

娘は、あまりの強引さにおこることすら忘れて
呆れ果てて笑い出してしまいました。


14.デージーニリーなおのこね!

「デージーニリーなおのこね!」

そう言いながら、ぽつりぽつりとはなしはじめました。

自分に不思議なチカラがあること。

巫女の修行のためにこの場所に
連れてこられたこと。

でも、ホントは巫女になんかなりたくないこと。

元のふつうのくらしに戻りたいこと。


ふなのりは、うなづきながら真剣な顔で、
きいてました。



15.にーにーは誰なんさ

⑮にーにーは誰なんさ?

「んで、にーにーは誰なんさ?」

と むすめがふなのりにたずねます。

「りゅうきゅう本国のふなのりさー。
ちょっくら、ナカユクイで遊びにきたんね。」

「じゃあ、にーにーのふねできたば?」

「お~。」

「アイッ!そのふねでにーにーのくにへつれてってね!」


16.ワカイン!なんくるないさ~

⑯ワカイン!なんくるないさ~

ふなのりはひどくおどろきましたが
むすめのまっすぐでちゅらな瞳をみると

「ワカイン!なんくるないさ~。」

と二つ返事でしょうだくし
すっかり夜がふけた海の中
巫女といっしょに舟にのりこみます。


17.そーっとそーっとくにへ戻り

⑰そーっとそーっとくにへ戻り

ふたりはくらい海の中へ
だれにも見つからないように
海にのみこまれないように
そーっとそーっとくにへ戻り
夫婦となって仲良くくらしました。



ところで!

うたきのおっばぁは、それはそれは
お怒りになったのですが、

むすめは巫女の智慧で
ふなのりが、はこんでた線香の材料をみつけ
ふなのりに線香職人になることをすすめ

「トートーメーにつかえる線香を
あつかう職人がムークならば」

と、うたきのおっばあからも無事
許しを得ることができました。

めでたし めでたし


本文中の沖縄語「うちなーぐち」一覧

うちなーぐち一覧


*イッペー =たくさん

*ユクルんねー = 休むかねー

*あいー =まあー

*ちゃーっと =まっすぐに

*うたき(御嶽)= 琉球の信仰における祭祀などを行う施設。聖域の総称。琉球の信仰では神に仕えるのは女性とされるため、王国時代は完全に男子禁制でした。現在でもその多くが一定区域までしか男性の進入を認めていません。

*おっばあ =おばあさん

*もっかい =もう1 回

*ハイサーイ = やあ!こんにちは(男性が使う言葉。女性は「ハイターイ」)

*あい!なんねー!?

=うわあ!なんですか?

*デージーニリー =ひどく困った

*ちゅらかね =美しいね

*アッキヨー =あきれた

*おのこ =男

*にーに =兄、おにいさん

*ナカユクイ =休暇

*ちゅらな瞳 =美しい瞳

*ワカイン! =わかった!

*なんくるないさ=なんとかなるさ。なんてことないさ。

*トートーメー=先祖の位牌の別称で、「尊い方」を意味する「尊御前」が 変化したものと言われています。 月のことも「トートーメ」と言います。

*ムーク =婿(むこ)

*ユタ =本来琉球では巫女ではなく、ユタと呼ばれます。



<あとがき>

これは、私の沖縄の船乗りだったひいひいじいちゃんと

巫女だったひいひいばあちゃんが駆け落ちしてきた実話を

元に私の妄想で描いた物語です。


幼い頃、いつもは母の隣りで眠っているのですが

時々、父親の布団に潜り込んでは、お話しを

聞かせて貰ってました。


いつもは、普通のおとぎ話なのですが、ある日ネタ切れしたのか

父「ひいじいちゃんは、巫女さんと駆け落ちしたんやで。」

私「えっ!?ひいばあちゃんは巫女さんなん??」

父「うん。元な。結婚してからは巫女ちゃうけどな。」


この話があまりに衝撃的過ぎて、ずーっと頭から離れませんでした。しかし、その後、この話について父から話が出ることは全くなく、聞き直すこともできず、ホントの話なのか作り話だったのか心の中でずっとずっともやもやしていました。


去年ふと実家に帰ったとき思い切って父親に聞いてみたのです。


すると、

父「あー、そやで。ひいじいさんが船乗りで、遊びにいった時に知り合ったらしい。」

とあっさり認め、実話やったんかい!ってなって、

興味津々で話を聞き出そうとするんだけど、面倒くさそうで乗り気じゃない父。

私「ふなのり!?線香職人ちゃうの?じいちゃん線香職人やったやん。」

父「親父はな。工場も持ってたけどな。ひいじいちゃんはふなのりや。

巫女やったやろ?結婚したらホンマはあかんやろ?しかも駆け落ちやろ?」

私「うんうん」

父「ばあさんは頭のいい人でな。このまんまやったら許しを得られへんからって

船乗りで色んな荷物を運んでるやろ?その中に線香の材料みつけて、

線香職人に弟子入りさせて、神に仕える琉球線香を扱う職人と一緒に、

神へ仕える仕事の手伝いをするってことで許しを得ることにしたんや。」

私「ひいひい婆ちゃんの智慧やったんや。」

父「その後も、ひいばあさんの指示でドンドン大きなって一時は財も残せたんや。」

私「財あったんや。そういや、じいちゃん伝統の琉球線香職人とかでTVでてたな。」

父「神仏用の琉球線香と蚊取り線香どっちも扱ってるのは珍しいしな。まあまあ有名やったわ。」

私「でも、だれも継がんかったよな。」

父 機嫌損ねる。。。。

(父は7人兄弟の長男ですが、20歳で大阪に飛び出してきてます。)


私「ほんで、ひいひい婆ちゃんが巫女さんしてたんってどの辺なん?
なんて島なん?」

父「離島ちゃうで。本島やけどな。そんな遠ない。(うちの実家は那覇)
名護やったかな?北谷やったかな?忘れたけど。
家系図みなわからんわ。まあ、その辺や。あんまわからん!」


沖縄の家系図おんなの記述ないやん!とか思いながらも
これ以上は聞き出せず・・・

父からの情報をまとめると

・ひいひい爺ちゃんは元々船乗り

・巫女の主に許しを得るため、ひいひい婆ちゃんの指示で線香職人に転職

・巫女の故郷は名護か北谷か?忘れたらしい。

名護と北谷の巫女伝説をネットで調べて、なんとなくの直感で「かてかる」を選びました。

現在は、沖縄県名護市汀間(てるま)に統合されてます。

父情報とネット情報と私の妄想でこの物語は出来上がってます。

主人公のふなのりは、我が父とじいちゃんの性格の特徴を元にしてます。

「悩まない。馬力ある。決断早い。行動力ある。言葉少ない。働き者。」

おじいちゃんが西洋風の男前だったので、巫女だったひいひい婆ちゃんは
きっと美人だったんじゃないか?だから一目惚れしたんかもな?

頭がいい!ってことだったし、駆け落ちを言い出したのは実は
巫女さんの方だったんじゃないか?との想い直して綴りました。

これは、実話を元にしたファンタジーでございます。



枚方生まれの枚方育ちの私には
父が沖縄の実家に電話してる言葉は
完全外国語、宇宙語で全く理解できませんでした。

文中に時々でてくる「うちなーぐち」は
これまたネットで調べて付け足しております。

間違っていたら、ごめんなさい><

沖縄DNAがあるにも関わらず
沖縄のことはホント無知です。

実家に居る時は殆ど会話することのなかった父から
実家に帰る度に色んなリアル昔話を聞き出すのが楽しい昨今。


嘘かホントかよくわからない
子供の頃に耳にした
我が家のご先祖様たちの
不可思議な様々な物語を
今の内に聞き出し
何かカタチに残していけたら。

そんな第一弾として「かてかる帖~ふなのりと巫女~」を制作しました。
どんな角度からでも楽しんでいただければ幸いです。


本作のパステル画も文も全て

【かにゃんクリエイト】が制作してます。


#創作大賞2022 によせて

この物語は2015年に実家で聞き出した話を
2016年に絵本として制作したものです。
今回は創作大賞用にnoteに書きおこしてみました。

わたしの能力では絵本が精一杯でしたが
この話を口頭で友達に伝えると

「映画やん!なにそれ!?先祖アグレッシブすぎ!」

といわれるので、
ぜひ、カドカワ映画になって欲しいな!
と思って応募しました。

主人公のふなのりは
auのCMでの浦ちゃんで
私の頭の中では再生されてました。

最近、ギタリストの友人が
浦ちゃんと高校の同級生で
今も交流があること知り、
じゃあ、同級生コンビで
音楽担当してもらおうかな?
なんて勝手に妄想はどんどん膨らんでます。

ドラマでもいいかな?
あーどんどん楽しくなってきます。

どうぞよろしくお願い申し上げます。


両親からたくさんのお話をききだし
どんどん絵本か小説にしていこう!
と企んでたのですが
残念ながら母はこの翌年2017年に他界しました。
母からも色々と聞き出したいおもしろそうな話が
たくさんあったのに残念です。

ですが、父はおかげさまで健在です。
2022年2月で89歳になります。

母が他界してからは
マッスルじいちゃんで無敵な父は
すっかり弱ってしまいましたが
介護の必要もまだなく
「ボケてきたわ。あかんわー。」
と自分でぼやきながら
兄とふたりで暮らしてます。

自分で言うてるうちは大丈夫かな?と

そんな父が母の棺の前で
突然泣きながら打ち明け出した話を
ストーリーにしたのはこちら↓
「ずっと秘密にしてたんだ」

よかったら、是非こちらもご一読ください。

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