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ゲロ山くん

「えっとぉ、お名前が…」

「ゲロ山しんじです!」

「あ、そのまま、げろやまさんでいいんですね」

「そうなんですよ、変ですよね!」

「変というか、珍しいですね、本当にカタカナなんですか?」

「はい!カタカナでゲロです!」

「へぇ、すごい」

「よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします。ではまず、なぜ当店に応募しようと思ったのでしょうか?」

「すみません、それはですね、あの、飲食店がぜんぶダメで…」

「あ、あぁ」

「ほんと、20くらい落ちてて、名前のせいで…」

「いや、うん、それは大変ですね」

「コンビニももちろんダメで、だって、不快じゃないですかゲロ山がレジに立ってたら…」

「んー、いや、んー、難しいところですね、いや、ほんと大変ですね…」

「サク山チョコ次郎ってわかりますか?」

「え、あー、チョコの」

「大好きなサク山チョコ次郎を持ってレジにゲロ山が立ってたら不快になるかおもしろエピソードとして喋られるかじゃないですか」

「まぁ、うん、そうですかね…」

「あっすみません!なんか変な話ずっとしちゃって!」

「いえいえ、じゃあ、面接を続けていいですか」

「はい!お願いします!」

「週にどのくらい入れますか?」

「あ、もう、いつでも入れます!」

「土日祝は」

「いつでも大丈夫です!」

「なるほど、移動は」

「隣のアパートなんです」

「えっそうなの?」

「はい!ちょうど募集してて、絶対ここで働きたいと思いました!」

「あ、じゃあもう明日から、来てください」

「え!合格ですか!?」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」


俺の名前はゲロ山しんじ!

というわけで、今日からこの自宅の隣の書店で働くことになった!

本当は食費も浮くし飲食店がよかったけど、まぁ分不相応ってやつかな!

運命を受け入れよう!

「おはようございまーす!」

「…あ、おはようございます」

「今日から新しく入りました、ゲロ山っていいます!」

「あ、いぇぃです、よろしくお願いします」

「…はい、よろしくお願いします」

なんて言ったか聞こえなかったが、まぁ名札を見ればわかるだろう!

店長に業務を教えてもらって、とりあえず店長に見られながらレジをすることになった!

飲み込みの早さを褒められた!

「ゲロ山くんは飲み込みが早いですね」

店長じゃなければイジってるのかとムッとしたところだが、たぶん店長は気付いていない!

店長は超優しい!

「じゃ、僕は事務所で作業してますので、何かあったらすぐ呼んでください。あ、いえきくーん、レジ一緒に入っててもらっていい?」

いえきくん?

いえきくんが隣に来て、エプロンの名札を見ると、『胃液』と書いてあった!

「胃液っていうんですね!」

「え、あー、はい」

「苗字が胃液ですか!」

「はい」

「下の名前は?」

「ひろあきです」

「胃液ひろあき!」

「はい」

「良い名前ですね!僕はゲロ山しんじっていいます!」

「お互い大変ですね」

「はは!いや!胃液とゲロて!はははは!」

胃液ひろあき、彼はドライだが、めんどくさくない大学生、たぶんユーモアもある!

余計なことはしない!

野暮なことは言わない!

でも仕事はちゃんとする!

すごく接しやすい!

僕とはテンションが遠いが!

すごく近い!

居心地がいい!

「胃液さんってなんか、居心地がいいですね!」

「いごこち?あー、居心地か、胃の調子みたいなことかと思った」

「胃の調子?…あー!胃の心地で胃心地!ははは!」

ほらユーモアがある!

ポーカーフェイスでそういうことを言う!

女だったら好きになっちゃう!

俺が女だったらね!

「早いけど、先に休憩いっちゃってください」

店長に言われて11時から1時間の休憩に入った!

隣なのでいったん家に帰ってメロンパンとコーヒーを食べてトイレで吐いて胃液さんと交代!

あもちろん家のトイレでね!

午後からはレジを1人で任された!

胃液さんが戻ってくると、品出し業務とレジを1時間交代でやることになった!

胃液とゲロが交互に!

ゲロと胃液が交互に押し寄せてくる!

レジに立ちっぱなしじゃない業務シフトであっという間に退勤時間になった!

ここは最高の職場だ!

翌日!

店長不在!

事務所でずっと寝てるバンドマンと品出しジジイ!

レジに呼んでも来ない!

休憩が取れなかった!

僕はレジ対応中に嘔吐してクビになった!

生まれや学歴や見た目で人を判断する世の中の完全勝利!

ほらいつかやると思ってたんだ!

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