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パラオ政府を狙ったサイバー攻撃 犯行の動機は? ウィップス大統領の会見を取材

日本外国特派員協会(東京都千代田区)で6月5日、パラオ共和国・スランゲル・ウィップス大統領の記者会見が開かれた。複数の記者が繰り返し質問したトピックは、3月にパラオ政府を狙って発生したサーバー攻撃についてだった。

ウィップス大統領によると、サイバー攻撃があったのは今年3月14日。ちょうど資金協力に関する米国との協議と時期が重なっていた。パラオ政府のサーバーがハックされ、政府文書2万点以上が盗まれたほか、給与支払いシステムも一時シャットダウンに追い込まれたという。

ウィップス大統領は会見で、「おそらくロシアで開発されたランサムウェアがマレーシアから発信されたようです。中国ともつながりがあると見られています」と、踏み込んだ発言をした。

ウィップス大統領が中国の関与を示唆する主な理由をまとめると、下記3点に要約できる。

1 ハッキング攻撃の時期(資金協力に関して米国と協議していた時期と重なった)

2 犯人から政府に対する金品の要求がなかった(何か違う目的があるはず)

3 パラオと台湾の密接な関係性

中国側はこの疑惑を「根拠のない非難」と否定している。

The New York Times の6月2日付報道によると、DragonForceというハッカー集団が犯行への関与を表明している。またNYタイムズは「パラオは中国の関与を示す証拠を示していない」という専門家の声も紹介している。ハッキングされた資料の中には、パラオを訪問した日本の海上自衛隊に関する情報が掲載された書類もあったという。

特派員協会での記者会見では、安全保障以外にも、日本との経済関係についても質疑応答があり、ウィップス大統領は観光政策の一環として、日本からの直行航空便の再開を希望した。

会見の全編動画は特派員協会のYouTubeから視聴できます。

日本とパラオの国交が樹立してから、今年で30年となる。日本政府はパラオとの関係強化を進めている。岸田首相との首脳会談の外務省発表はこちら

日本と深い関係があるパラオ

赤道近くにある南国の海洋国家「パラオ共和国」は、日本と歴史的に深い関係がある。

パラオ本島の面積は日本の種子島とほぼ同じ大きさ、人口は約2万人。ベントー、トクベツなど日本語に由来するパラオ語が多くあることでも知られている。

ユネスコの世界遺産にも認定されたサンゴ礁と青い海が、多くのスクーバダイバーを魅了している。

地政学的に重要な位置にあり、防衛戦略の観点からパラオの動きに注目する国は多い。特に19世紀以降は、軍事拠点として戦火に見舞われた。

第一世界大戦後、日本による委託統治が始まり、アジア太平洋戦争中には南部ペリリュー島が日米両軍の激戦地となり、多くの犠牲者が出た。

1947年に米国を施政国とする国連の信託統治領へ。独立と国連加盟を果たした94年以降も、米国とは強い連合関係にある。自国の軍はなく、安全保障面では今でも米国の軍事力に依存している。

また、パラオは1999年12月から台湾と外交関係を樹立している国でもある。

パラオ共和国・スランゲル・ウィップス大統領(筆者撮影)


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