晴れ時々火花
飛行機事故から何日か経ち、僕は無事にカトマンズに戻った。ポカラでは体調を崩してほとんどの時間をベッドで過ごす事になり、印象に残っている出来事といえば同室の女の子からお見舞いのみかんをもらったことぐらいだろうか。僕が寝込んでいる間に彼女が出発してしまったので、せっかくの海外で日本人遭遇の機会をフイにしてしまったのは残念だった。決して日本で会うことのなかった人に海外で会うのは何か特別なものを感じてしまう。
Googleマップで見つけた日本食レストランへ鼻歌混じりに向かっていた。空は快晴、人は穏やか、道はたまに汚くてちょっと臭いこの街を僕は気に入っている。ちと寒いからセーターでも買おうかなどうしようかな〜。でも荷物になるからな〜。なんて考えながら、もうすっかり歩き慣れた道を歩く。昨夜食べた中華麺のお店が見えたので、そこを左折したらお目当てのレストランはもうすぐだ。ネットでお店の情報を予習済みなので、もう注文するものは決まっている。”厚揚げ、茄子と豚肉のコチュジャン炒め定食”ご飯おかわり無料。
『ご飯おかわり無料』
僕が一番好きな日本語である。この言葉を強調するためにブログの太字機能があると言っても過言ではないだろう。あと温泉や井戸水などの『掛け流し』ね。みんなが幸せになる言葉たち。
数ヶ月ぶりの日本食。しかも”定食”というこのふた文字が加えられる事で期待が風船のように膨らんでいく。そのうえご飯のおかわりが無料だなんて、「こんな幸せなことがあっていいのお???」と付き合いたてのキモいカップルみたいなことを思っていた。厚揚げと茄子と豚肉の三つの食材が一緒にコチュジャンで炒められているのか、もしくは厚揚げは単品で小鉢に添えられているのかどうか、もし厚揚げの山頂に生姜なんて乗ってたらもうナマステだよな〜などと妄想していた。彼女どころか気になる子もいない仕事もない独身小柄男性である僕が、目の前の現実から目をそらしながら本能の赴くままに日本食へ進んでいくと
”パンッ!!!!”
と大きくて乾いた銃声のような音が間近で響いた。周りは建物に囲まれた一本道で僕は前を見て歩いていたので、後ろかと思って振り返るが何も起きていない。建物を挟んで一本隣の道かその辺だろう、ネパールだから少しくらいのドンパチはあるだろうと安堵し、間近に控える栄光(定食)に向かって再び歩き始めようとしたその瞬間、今度は
”チリチリシャラシャラ、、、”
の音とともに空からオレンジと赤色の混ざった火花がパラパラ、時にシャーッと勢いよく僕の真上から降ってきた。後から考えればすぐにその場を離れるべきだったのだが、当時は驚きを一周してむしろ冷静に「わあ!綺麗!!!」と花火を見ているかのような感動を覚えていた。ほんの一瞬だったものの、身の危険よりも先に火の煌めきに心を奪われてしまったことに、自分の危機管理能力の低さを思い知らされた。
結局のところ、原因は誰かが二階のベランダから洗濯した縦横2メートルほどの布を電線に引っ掛けてしまったからであり、これはこれで問題ではあるが、とにかく怪我人がいなくてよかった。出発前に「生きて帰るわ」なんて冗談で友達や家族に言ってたが、ちゃんと冗談で終われるようにしたい。
ちなみに、厚揚げは他の食材と共に炒められていました。オイシカッタ!
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