文系の論文の書き方 資料集め編

「助けてください、先生!」

 私が勢いよく研究室の扉を開けて中に飛び込むと、パソコンに向かっていた先生が私の方を振り向いた。声はいつものように平坦だが、その表情は驚いているように見える。

「何か質問か? その顔はどうした。隈がすごいぞ」

 私の目の下にはパンダのような黒い隈ができていた。薄く化粧してごまかしていたけれど、所詮は付け焼刃、午前中こそばれないでいたものの、時間とともに化粧は剥がれている。

「いえ、その、最近、寝不足で……」

「ふむ、まあ、何か出そうか。寝不足なら珈琲はやめといた方がいいだろうな。さて、他には何があったか……」

「いえ、ええと、珈琲でいいです。今、寝ると困るので」

「そうか、ならちょっと待て」

 先生ががさごそと研究室の棚を探っている間、私はありがとうございますぅとだけ今にも溶けそうな声で言って机の上でだらっと身体を預けていた。テーブルのほどよい冷たさが走って上気した私の頬を冷やして、このまま寝てしまいそうなほど心地よかったけれど、せっかく聞きに来たのに今寝るのは良くない。眠気と激しい死闘を繰り広げていると、先生が湯気の立つ珈琲が入ったティーカップを私の目の前に置いた。

「砂糖はそこの瓶にスティックのが入っている。ミルクは机の端だ。菓子が食いたければ、そこにまとめておいてあるから勝手に取れ」

「ありがとうございます……」

 私はカップに入った珈琲をぐいと飲み干した。強烈な珈琲豆の苦みが私の喉を突き刺して、頭の扉をノックしていた眠気がそそくさと退散していく。うげぇ、苦い。自然と眉間をしかめてしまう。でも、おかげで目が覚めた。

「で、どうした?」

 私が落ち着いたのを見たのだろう、先生が改めて聞いてきた。ええと、実は……。私は珈琲に砂糖とミルクを適当に放り込みながら切り出した。

「論文の資料集めが上手くいかなくて」

「ふむ」

「ここらにある図書館とか、本屋とかを自転車で行ったり来たりして回ったんですが、全然見つからなくて……」

 仕方がないからちょっと遠くまで足を運んでいたら夜遅くまでかかって家に帰るのが随分と遅い時間になってしまうことも多かった。寝不足なのは、その後もネットでいろいろと本を探していたからだ。

「先生、私、もう駄目ですぅ。結局いい資料も見つからなかったし」

 私が嘆いていると、先生はほうとため息を吐いた。

「お前な、それは見つからなくて当然だろう。努力は認めるが、やり方はもう少し考えることだな」

 いいだろう。資料探しについて教えてやろう。先生はそう言って残っていた自分の珈琲をぐいと飲み干した。


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