文系の論文の書き方 構成編
「どうだ? 論文は進んだか?」
課題を提出しに研究室に来た私に、先生が珈琲を片手に聞いてくる。私は肩を跳ねさせて、すっと視線をそらせた。嫌な汗が背筋を伝っているような気がした。しかし、先生は私の態度から察したのだろう、一転して呆れたような表情を見せた。
「もう期限がないぞ」
「だって……」
先生の淡々とした責めるような口調に、私は思わずいじけたような、言い訳がましい言葉を吐き出していた。私だって、この数日間、ただ怠けて過ごしていたわけではない。たしかに遊びに行ったのも何度かあるが、それでも論文を書かなきゃと思ってデスクに向かってパソコンとにらめっこしていたのだ。しかし、結局一文すらも書くことができなかった。
「論文って、どうやって書けばいいのかわからなくて……」
小学生の頃に書いたような作文は簡単だった。起こった出来事をそのまま書いて、感想をひっつければ完成。おばあちゃんちに行きました、楽しかったです、みたいな。しかし、論文となると話が違う。自分の考えを論理的に他人に説明する、なんてのは、いったいどう書けばいいのか、さっぱりわからなかった。
先生は私の愚痴めいた言い訳を棚から私の紅茶を用意してくれながら聞いていた。先生は珈琲派らしいけれど、生徒用に紅茶も完備しているらしい。見た目には冷たくて態度も冷たい先生だけれど、意外と学生から好かれるのはこんな細やかな気配りができるからだろうな。
「まあ、論文のような文章は今まで書いたことがないだろう」
慣れていなければたしかに書くのは難しいかもしれん。基礎くらいならば教えてやろう。先生はそう言って珈琲を飲んだ。私はお願いしますと頭を下げる。今日もマンツーマンの授業の始まりだ。
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