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ヒガンバナは本当に食べられるのか

ヒガンバナは秋の彼岸の時期に咲く花です。
目にも鮮やかな赤い花が印象的です。

別名を曼珠沙華といいます。仏典に由来する名称です。
「天界の花」を意味するそうです。

そのため中国では吉祥をもたらす花と信じられて、
平和と幸福の象徴とされてきました。

ところが、日本ではそうではありません。
昔から不吉な花とされてきました。

死人花、地獄花、葬式花、幽霊花、墓花など、
縁起でもない数々の異名を持ちます。

宮部みゆきさんのミステリー小説にも
「曼珠沙華」という作品があります。

怖いけれど、何とも不思議な話です。
ついつい惹き込まれてしまいます。

ヒガンバナの持つおどろおどろしさが
見事に表現された作品です。

ヒガンバナは日本各地に自生していますが、
人為的に人里に植えられました。

お墓の近くや、水田のあぜ道に多いのですが、
それには理由があります。

ヒガンバナが有毒植物だからです。
鱗茎にアルカロイドを含んでいます。

毒性が強く、ネズミやモグラが近づきません。
そのため害獣駆除の効果があります。

害獣によってお墓が荒らされることもなく、
水田が荒らされることもありません。

ただし人間にも有害な植物ですから、
ときには忌避されることもありました。

昔からヒガンバナにまつわる不吉な迷信が多かったのは、
子どもたちが近づかないように警告する知恵だったのです。

しかし大人たちは違います。
利用法をよく知っていました。

ヒガンバナの鱗茎には多くのデンプンが含まれているので、
食料として貴重な植物でした。

飢饉に備えて栽培する農作物のことを救荒作物といいます。
米が凶作のときに代用する非常食のことです。

じつは、ヒガンバナは救荒作物の一つなのです。

飢饉の原因は、異常気象や自然災害ばかりでなく、
戦争によって食糧難に陥ることもあります。

とにかく生き延びるために食べるのが救荒作物です。
かつてはジャガイモやサツマイモもそうでした。

江戸時代に起きた天明、天保の大飢饉では多くの死者が出ましたが、
ジャガイモやサツマイモによって助かった命もあります。

おそらくヒガンバナも多くの人命を救ったことでしょう。

しかし、ヒガンバナは有毒植物です。
どうやって毒を抜くのでしょうか。

アルカロイドの中にはいくつかの種類がありますが、
ヒガンバナの主成分はリコリンというアルカロイドです。

水溶性の物質ですから、長時間水にさらすことによって
ヒガンバナの鱗茎を無毒化することができます。

ところが、どの程度水にさらすと毒が抜けるのか、
詳しいことは全く伝わっていません。

それは、敢えて伝えようとしなかったからです。

もし毒の抜き方が広く知られてしまったら、
ヒガンバナが他の人に食べられてしまいます。

飢饉のときに命をつなぐ大切な非常食ですから、
秘密にしておきたいと思うのは当然です。

むしろ有毒植物であることを強調することによって、
利用価値がないと思わせるようにするでしょう。

そのため、ヒガンバナは昔から不吉な花として扱われ、
不吉な迷信がいくつも生まれたと考えられます。

生きていきたいという切実な願いを託す花ですから、
ヒガンバナは、本当は「悲願花」なのかもしれません。


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