笹井宏之『えーえんとくちから』
新聞の書評でこの本が取り上げられているのをみるまでは、笹井宏之という歌人を、私は知らなかった。さらに、26歳という若さで亡くなっているということを知り、現代にこんな夭折の歌人が居たのかと驚いた。
この星に消灯時間がおとずれるときも手を繋いでいましょうね
切れやすい糸でむすんでおきましょう いつかくるさようならのために
上2作は、「Ⅰ」の中で私が特に好きな首。笹井の歌には、概念的なところがありながらも、心にグサッと刺さる儚さ、切なさがある。「Ⅱ」では、
そのゆびが火であることに気づかずに世界をひとつ失くしましたね
ゆきげしき みたい にんげんよにんくらいころしてしまいそうな ゆきげしき
あたたかい電球を持つ(ひかってたひかってました)わかっています
が好き。一見なんのことを言っているのか、考えに詰るが、どこか引っかかるところがある。そして、水槽の中に白いインクを落したみたいに、じわじわと不規則に、言葉が胸中に広がるのである。
一夜漬けされたあなたの世界史のなかのみじかいみじかい私(「Ⅳ」)
いつかきっとただしく生きて菜の花の和え物などをいただきましょう(「Ⅴ」)
穂村弘さんは「解説」で「笹井宏之が遺した一首一首の歌が、一つ一つの言葉が、未来の希望に繋がる鍵の形をしている」と言っている。本当にそうだ。
笹井の歌には、絶望が歌われていない。
もし絶望や嘆きを歌っていたのだとしても、歌には「希望」のニュアンスが込められているように思う。
非常に繊細な言葉遣いをする人だ、と感じる。
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