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赤い蔦



私は人通りの少ない小路伝いをさながら池の上の白鳥のように行ったり来たりしている…。

ほんの少しばかりの水銀を今にも秘密を漏らしそうなお喋りな花弁に垂らしながら不吉な朝の闇が銀の月の舌でそれをなぞってゆく…。

それを横目で眺めながら歩く憂鬱な少女の蒼褪めた散歩道……。

お陰で沈黙するのは優しい月だけ…


私は窓辺に座り…
どうしても私の手から逃げるこの頁(ページ)を繰り返し繰り返し執拗に試みる。

いいえ!

試みられているのはきっといつも私のほう…


月は何も言ってはくれない…
ただ碧い泪を流すだけ…

貴方の頭脳が魂と共に揺らぎ、
なぎ倒されそうな時 赤く染まったフィヨルドの水に全ての心血を注いだように…

私の白い指はまるでそれをリスペクトするかのように何度も何度も試みるわ。

可愛い脱兎のように滑り抜けるこの頁への試みの為に私の指はもうズタズタよ、

すっかり血塗れになってしまったわ…

頁は私の希望を幽かな音と共に浅く優しく甘やかに…
そして確実に傷つける…

まるでナイフの山にそっと指を滑らせているようよ、

それでも尚私の指は試みることをやめない…

存在する為の声にすらならない不安が巨大な『赤』となって渦を巻き飲み込まれてゆく…

貴方も私も何も書かれていない真っ白な頁の上に突如パタパタと雨のように滴り落ちてきたその
『赤』
の中に居る…

私の悲鳴は全て何年も前に純白の頁に封じ込まれ彼女はそれを容認しそっと黙って旧く硬い本の背をそんな『私』の上から閉じてしまった…

まるで棺の扉を閉めるように…。

無口な月が見逃したそれはあの人の罪…

月は女か?

母親か?

通りすがりの夢遊病者か?

貴方と私の不安が汗を流し抱きあい草地の上を転げ回るように渦を巻き流転するのよ

その『赤』の罪と『赤』の『最初』と『赤』の『最後』
にただ操られて…

あぁ…

赤い蔦がいつでも私の背後の家に在る…

はらむ毛細血管と純金の神経繊維を張り詰めて呼吸と共にドクドクと脈打つ断末魔のギガント(巨人)の筋肉のように…

真っ赤な蔦が街中、どこへ逃げてもふと振り返ると必ず私の背後の家に在る…。

だからなんだわ!
だからなのよ!

この眩しいほど純白の頁はどうしても私の指から滑って逃げてしまう!


まるで巨大な白い鳥の翼のように…。




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