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不安(砂漠はどこにある?)

砂漠の中の混沌とした微睡み(まどろみ)を忘れられないでいるの。

私の胸にずっと輝いていた模造ダイヤのピンはどこへいったの?

家中探してもどこにも無いわ

群集の中の不安は記憶の頁(ページ)を無意識に反芻させる。

(ねぇあの模造ダイヤのピンを誰か知らない?)

瑪瑙(めのう)のような色の渦を巻く空

それを映した血のような河の濁流

脆い橋の上で私は貴方の空に圧倒されているわ。

ねぇ愛するひと。

これは貴方なの?
狂気のプラネタリュウムよ

貴方を愛することは貴方をもっとこの空の涯(はて)で見失ってしまうということなの?

私は翼のように虚しく貴方に向かって両腕を差し伸べる。

翡翠の海を射るような速さで泳ぐ海豚(イルカ)のように無垢で自ら鮫に挑む時の無知で無心の果敢さをもって…
貴方に向かったのに

貴方だけを見つめていたのに

砂漠の鎮かな夜のとばり…

その幽暗に身を沈めて私は何時間も泣いたわ

狂気のプラネタリウムよ
その世界から逃れる為に私はあらゆる手を使ったわ

その鉄扉を開こうとして私は命の半ばほどある力を既に使い果たしてしまったの…

私の中に常に流れ横たわる巨大な河のような不安はマリオネットのように私を操る…

堅いものを爪先ではじく時、
あるいは慣れない指で固く張られた弦を爪弾く時のような…
どこか苦おしげな指の動きで私を支配しこの脆い橋の上で私の躯(からだ)の震えさえ麻痺させてしまった。

ねぇ愛する人よ

これが貴方の正体なの?

眩しい純白の果肉が紅い果肉を染め上げた夥(おびただ)しい数の黴(かび)の為に築かれた美々しい夢だと気がついたのは一体いつの頃からだったかしら…

私は酷く長く厚顔無恥な子供でしかなかった…

作為的なことなど微塵もなく…
意図的なことも何も出来ずなんて間抜けだったのかしら…

ああ
砂漠はどこにある?

あの時の蜃気楼は私にとって永遠に消えぬ夢のようだった…

まことしやかなお伽噺を創り上げては幕を独りで上げたり閉めたりしているこの世界の人々…

それらは永遠に続く舞台『人生』なのね…

気が遠くなるまで続く輪舞の果てに見る相手の顔は一体誰?

私凄く怖いの

あぁ私を愛してくれていましたか?

あぁ少しでも愛してくれた?

私は愛されない子供です。

だから貴方には愛されたいのです。


それなのにこの橋の脆さに私はおののき…

この瀬の速さにただただリツ然と立ちすくむ。

そうして声にならない声を上げ両腕を白い翼のように天高く伸ばし助けを乞うの

どうして私はここにいるの?
何故 私は生まれてきたの?

私はそんな雨を知らない…

私はこんな雨を知らない…

私は渇いた星でしかない。

私はこんなんじゃきっとどこへも辿りつけやしないわ!


私を乗せたまま不安という名の宇宙船は幼少時代のあのブランコのように揺れ続ける。

そしてそれは水晶球となり凪いで静止したリノリウムのような海の上をどこまでも滑ってゆく。

ああ

砂漠はどこにある?

模造ダイヤのピンをきっと落としてきてしまったのはあの夢の中…

空から私と手を繋いで

私を受け止めて

だって私はそんな雨を知らない…

私はこんな雨をまだ知らない…

(13歳作)

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