プレスリリースのすゝめ ~エンジニアもお客様に事例公開を提案しよう~


はじめに


当記事はNSSOL Advent Calendar 2023の17日目の投稿である。



現在私は日鉄ソリューションズ(NSSOL)というIT企業でマーケティングや営業企画を行っている。

今の部署に異動する直前、2018年~昨年までの5年間は営業部門ににてAI系のソリューションを販売しており、さまざまなお客様にプレスリリース(※1)や事例公開、セミナーや講演会での登壇を提案し、それを受け入れてもらってきた。

当時私を見ていた周りの方々から、「広報でもないのに何故そこまで頑張ってプレスリリースするの?」とか「自分もやってみたいけど、どう進めればいいのか分からない。やり方を教えて欲しい」など、様々な反応をいただいた。

もしかするとこの取り組みは意外と関心を持ってもらえるかも、という期待と、営業職から離れた今だからこそ生々しいことも書けるのではないかという思いから、記事としてまとめてみたいと思う。

なお当記事は主にBtoBビジネスを前提にしているが、toC向けにも役立つ点はあると思う。適宜読み替えて欲しい。


弊社の事例公開実績


本題に入る前にまずは弊社の事例公開実績をかいつまんで紹介する。
当時としては画期的なAIソリューションを取り扱っていたという追い風もあり、様々なリリースに携わった。その数5年間で30本以上、いずれも何らかの形で私が携わった案件である。本務である営業の繁忙期を避けながらの対応ではあったものの、平均すると2ヶ月に1本のペースだ。
少々ボリューミーなので興味のない方は読み飛ばして欲しい。

プレスリリース:約20本



どれもPR TIMESだけではなく、日経新聞やYahoo、マイナビ、ITmediaや日経xTechといったメディアに取り上げられている。

明治安田生命様のプレスをリリースした2018年9月12日、記事公開直後に弊社の株価は上昇し、当時の時価総額ベースで数十億円のインパクトを出すことができた。


事例公開記事:約10本

プレスリリースとは別に、お客様と弊社社員にインタビューをした様子を導入事例として公開している。
弊社の技術陣は優秀であり、多くの案件でお客様から高評価をいただき信頼してもらっている。またお客様も有名な大企業ばかりでこういった依頼が多いのかもしれない。総じて取材に応じてもらいやすく、非常に恵まれた環境だった。



ロゴ公開:数十社


ロゴ公開を許諾いただいたお客様も多い。以下ページの中段に「導入企業」として掲載されている。件数が多いので数には含めていない。



講演会登壇:多数


こちらも数には含めていないものの、上記以外に各種セミナーや講演会でお客様には頻繁にご登壇いただいている。


オリエンタルランド様「夢と魔法の国のデータサイエンス」


三菱UFJ信託銀行様「三菱UFJ信託銀行のAI導入でハマった“落とし穴”と
“推進のポイント”」


ロッテ様「ロッテのサプライチェーンにおけるAI需要予測~取り組みへの挑戦と人材育成について~」

サッポロビール様「サッポログループのDX戦略~全社員DX人財化、2年目の新たな挑戦へ~」



弊社の実績紹介は以上で、ここからが本題。


プレスリリースは、お客様へお願いするものではなく「提案」するもの


いきなり思想めいた話で恐縮ではあるが、私はプレスリリースを"お客様へお願いするもの"ではなく「提案」するもの、自社だけでなく相手方にもメリットがあると考えている。そればかりか、所属法人を超えて双方の社員個人にまでメリットがある活動だと感じている。

その一方で、「プレスリリースとは、お客様に頭を下げて社名を借りること。自社のセールスに役立たせてもらうもの」という意見を持つ方もおり、よくコンフリクトが生じる。実際にお客様への提案の場にたまたま同席した上司から「こらこら失礼なことを言うんじゃない!提案じゃなくてお願いだろ!」と諫められたこともある。

様々な意見があることは承知の上で、私が「提案」とすべきと考えるプレスリリースの多大なメリットについてまとめてみたい。いずれも自社だけでなく、お客様も含め双方に言えるものだ。


メリット①社外PRに活用できる


まずは一般的なメリット。営業活動に役立つ以外にも様々な対外PRに活用できる。


株主に向けて

株主に向けて取り組みをPRできるというのが第一ポイント。
特に上場企業においては、経営者である社長や役員に加えて株主が強い権限を持っている。「DX銘柄・攻めのIT経営銘柄」や「SX銘柄(サステナビリティ・トランスフォーメーション銘柄)」に代表されるように、戦略的なITの活用度合いや持続可能性が投資家の重要な企業選定指標になっているので、関連事例を各種新聞やwebメディアへ公開すれば株価の維持・上昇が期待できる。
前述の明治安田生命様のプレスリリースが好例。


エンドユーザーに向けて

BtoB企業においては、お客様のお客様、エンドユーザーに向けてのPRに活用できる。
先進的な取り組みを進めているという企業ブランド醸成につながれば、エンドユーザーが商品を購入する際や発注先を検討する際の企業想起度を向上させることができ、競争優位性の確保につながる。


学生や中途採用者に向けて

最後は学生や中途採用者に向けてのPR。
売り手市場である昨今、情報感度の高いデジタルネイティブ世代の学生を惹きつけるために、戦略的なIT活用やSDGsへの取り組みイメージを醸成できれば、募集数の増加に間接的に貢献できる。
最近の学生は検索エンジンやインスタ、tiktok、twitter(X)などの各種媒体で応募企業の情報をしらみつぶしに検索する。実際私自身も学生向けのプロボノ活動の中で、先に挙げたプレスリリースを見たという嬉しい話をもらったことがある。


このように各種ステークホルダーに影響を与えられるのが一般的なメリット。


メリット②社内PRに活用できる


一方で社内向けのPRもバカにできない。

皆さんも「自社の重大な発表を、今朝の日経を見て初めて知った」「商談の場でお客さんから言われて初めて知った」というようなことはないだろうか。

社員数が多い大企業においては、どうしても他部門の動きは見えづらくなってしまう。そんな中多くの人の目に触れる外部メディアを活用することで自社内にも効果的に情報を周知することができる。当事者からの説明よりも第三者である外部メディアの記事の方が客観的に感じられ、理解されやすいというのもある。


役員層に向けて

先進的な取り組みを役員層に周知できるので、認知度やメンバーのプレゼンス向上に寄与する。もっと言葉を選ばないでいうと、偉い人へのアピールになる。
そもそもの話、企業がプレスリリースをするためには社内稟議を通さないといけないため、必然的に上位役職者層に説明をすることになる。私のお客様からは、「導入したサービスを他部門に展開する際に、役員の後押しを得ることができた」という話を聞いたことがある。


他事業部門に向けて

役員層と同様に、他事業部門に向けてのアピールにもなるので、社内認知度向上やプロジェクトメンバーのプレゼンス向上に寄与する。
我々サラリーマンは部署異動や組織再編の波には逆らえない。全く違う業務に携わったり、初対面のメンバーと一緒に仕事をする時でも、社内外に知れ渡った自らのフラッグシップ案件をポポポンッと口にできれば、仕事の入り方がスムーズになるし、とにかく色々はかどる。
今年から新しい部署に異動した私自身が今まさに感じているメリットである。


人事考課者に向けて

生々しい話をすると、担当者自身の評価につながる可能性があるかもしれない。
これは競合他社の事例ではあるものの、人事考課タイミングに合わせてプレスリリースを打ったり、昇格論文のネタにしているという人から実際に話を聞いたことがある。
仮にプロモーションに興味がない人であっても、周囲から一定の評価を得られればやっぱり仕事は進めやすい。評価されて悪いことはない。


ここまで、社外・社内それぞれに対してどんなメリットがあるかをまとめた。しかし当エントリーで私自身が最も伝えたいのはこちらである。


メリット③個人のブランディングに活用できる


例えば皆さんは、スマホに知らない番号から電話がかかってきたらどうするだろうか。不動産の営業かな・・?と思いながら出る、無視する、のいずれかだと思うが、「一旦スルーして、その番号を検索して相手の素性を確かめる」ということをしないだろうか。

これと同じで「初対面の相手の名前をまず検索する」という時代が既に来ていると思う。

表敬訪問する役員の経歴検索はもちろんのこと、初めて来訪した営業担当の名前を検索したり、自社にアサインされたSEの経歴をFacebookやLinkedinで調べたり・・・。実際私も、新規訪問時のお客様が事前に私の名前を検索していた、というケースを経験している。

また企業に所属していれば看板のお陰で誰もが一定の信頼を得ることはできるが、これが副業、個人事業となると全然話が変わってくる。数年前に経団連の会長が「終身雇用は守れない」的な発言をし、一億総複業時代が到来すると言われたが、そんな時代になっても名前や実績の検索結果は立派な名刺代わりになる。そもそも名刺には部署名と役職程度しか相手の属性を知る情報は含まれていないし、加えてオンラインミーティングが主流となった今は名刺の交換シーンは激減している。名前の検索結果は確実に名刺以上の効果があるといえる。

プレスリリースやインタビュー記事などで自分の名前をネットに刻むことは、個人のブランディングにつながる。しかもそれは、所属企業を離れたとしても永続的に使える名刺情報だ。株価が多少上がったところで個人の短期的な給与には影響しないが、より直接的にメリットが生まれてくる。そういう意味でプレスリリースは最強の福利厚生だとすら思っている。

大事なのは、最低限「自社名 + 自分の名前」でweb検索した際の1ページ目にちゃんと自分が出てくること。自分の名前のSEO対策(※2)は、これからのサラリーマンにとって非常に重要なことだと考えている。

ちなみに私は自己紹介や社外で新たな取り組みを始める時にも、これらの検索結果をフル活用している。相手に自分を分かりやすく理解してもらえたり信頼してもらうまでのスピードが早まるだけでなく、記事をきっかけとして社外の関連コミュニティを紹介してもらえたり、そこからボランティアや個人的な副業など新たな取り組みにつながったりと、新しい世界がどんどん開けて、自社内にいるだけでは享受し得ない多くのメリットを実感している。


具体的にどう提案するか


お客様担当者個人が公開に慣れている場合や社内手続きに明るい場合、また会社方針が公開に前向きな場合はハードルは低いものの、まだまだ公開に後ろ向きな人も多い。
そういった方を口説くためのコツを少しだけ紹介する。実際に言われた内容もそのまま書き出してみた。


リリース内容について


一番よく言われるのが「公表にはまだ早い」「胸を張って公開できるほどの成果は出ていない」という、成果や品質についての心配。体感でいうと7割くらい。

実は成果の中身が厳密に問われるのは、事例公開時ではなく研究論文などを発表する際。これら2つは混同されがちだが、目的や対象者が異なる。

例えばプレスリリースを見てみると、「〇〇を導入」や「〇〇と資本提携」という内容が多く、「〇〇を使って××%のコストを削減」や「▲▲と資本提携の結果、◇◇%売上を向上」といった成果をPRすることは思ったより多くはない。

もちろん、講演会などで登壇を依頼する場合はそれなりの成果を求められるものの、「〇〇を導入した」「××に着手した」もタイミングと内容によっては立派な公開理由の一つ。成果よりも発表タイミングを見極める方が重要な場合が多いと思う。

例)

・国内で初めて〇〇を導入
・金融機関として初めて〇〇のPoCに着手
・◇◇業としては初の〇〇導入 など


広報部門との関係性について


「公表して価値のある内容&タイミングかどうか」は、現場だけではなく広報部門に判断してもらうのが良い。ただ大企業だと「広報にパスがなく何となく足が重い」「前例がなく相談しにくい」というケースも結構ある。担当者と広報部門の距離が遠いのだ。

これに対しては、とにかく担当者の背中を押して、勇気づけてあげること。実際には多くの広報部門は自社を効果的にPRする方法を模索しているものであり、持ちかけてみれば好意的に受け入れられることの方が多い。大企業であれば同じ広報内にも色々な人がいるので、まずは一度ぶつけてみることが重要。


公開の順番について(何から始めるか)


「事例公開のメリットは良く分かった。けれども、何から始めたらいいの?」という前向きな悩みが出れば公開への勝率はグンと上がる。

いきなり大規模なプレスリリースや事例講演を行おうとすると多大な社内調整負荷が発生してしまう。そのため、まずは手軽な方法として、企業のロゴ公開を広報に相談し、外部公開に対してのスタンスや手続きを確認するのがおすすめ。

再掲:ロゴ公開とは以下ページの「導入企業」のようなもの


ほとんどの場合、その企業特有の「社外発表審査願い」のような書式があり、発表媒体や公開目的(公開メリット)、想定リスクや対処などについて整理する必要があるが、これらの情報についてもこちらで準備してあげるのが良い。お客様が悩むポイントは大体同じなので、一度準備すれば使いまわしが可能だ。ロゴを公開できれば広報部門への地ならしとなり、以降は大規模なプレスリリースや事例講演も相談しやすくなる。

なお「公開に応じてくれたら、お礼に〇〇します」という、分かりやすく交換条件をもちかける方法もある。これで多くのお客様から協力を集めている企業も知っているが、自分の場合はモノでお願いするやり方はプレスリリースの価値を落とすような気がして性に合わなかった。あくまで双方にメリットがある、win-winの取り組みであることを真摯に伝え、理解してもらう。これが王道だと考えている。
仮に何かを渡すにしても、事前には伏せておき、公開後にお礼として渡す。その方がスマートだし、なんとなく弊社らしい。またお礼は単純な値引きなどは対価として生々しいので、人手で何らかのお手伝いをするとか、金額換算できないものの方がベターだと思う。


余談:社員を露出することへの懸念について


お客様のマネージャー層から「部下が有名になって辞められては困る」「競合に引き抜かれないか不安」と実際に言われたことがある。

せっかく育てた優秀な人材を囲っておきたい気持ちは分かる。そして社外露出することによって転職会社からの連絡は確かに増える。ただそもそもの話、転職する人はどんな対策を打とうが転職してしまうので、プレスリリースが直接的に影響するケースは少ないと思う。むしろたまたま残ってくれている今のうちにPRに活用させてもらった方が会社としては得かもしれない。

他社から引く手あまたの社員と、そんな優秀な人材になんとか残ってもらえるようにエンゲージメント向上に尽力する企業。そんな労使関係の方が健全だし、お互いを高め合うことができる気がする。

・・・と偉そうに書いたものの、残念ながら私はこういったマネージャーを説得できたことはない。この懸念についての解は、「上司が異動するのを待つ」しかないかもしれない。

まとめ:成功のコツは、信念を持ち、提案し続けること


ここまで、プレスリリースすることの双方のメリットや具体的な提案の仕方をまとめてきた。

だがそうは言ってもビジネスの全ての相手がプレスリリースに応じてくれるということはなく、こういった取り組みを面白いと思ってもらえる、または山っ気のある人を探索する必要がある。

それには、とにもかくにも自分自身が信念を持ち、ことあるたびに提案し、提案し、提案し続けること。例え1回目でNGを出されたとしても諦めず、同社内の多くの人に提案をし続ければ、そのうち乗ってくる担当者に巡り合えたりするし、会社方針が変わり役員から急に「何か社外へのPRネタはないのか」みたいなお達しが出たときに「そういえば昔、事例公開の話をもらったな・・」と風向きが変わることもある。実際私はNGと言われたお客様に3年間提案し続けて、ある年に急に会社方針が変わって向こうから声をかけてもらった、というケースも体験している。

ここまで読んでいただき、何となく面白そうだな、と思ってくれた人がいたら、ぜひ実践してみて欲しい。

おわり。


補足

  • ※1:弊社内では「プレスリリース」と「ニュースリリース」を厳密に区別している。それぞれ承認レベルや公開時の扱いが異なるものの、当記事では分かりやすさを重視し、いずれも「プレスリリース」で統一している。

  • ※2:Googleは年に1~2回、検索アルゴリズムの大規模アップデートを行う(コアアップデート)。当記事を執筆している2023/12時点は極端に法人ドメインを優遇しており、一昔前と比べてポッと出の個人ブログは全くと言っていいほど相手にされなくなった。現時点は法人ドメインの上で名前を出すことがSEO対策として有効である。


弊社では一緒に働く仲間を随時募集しています。

・転職を考えている
・今は考えていないものの、他社の情報も知りたい
・シンプルに狩野がどんな会社に勤めているか知りたい

というような方はぜひお声がけください。
またご希望があれば私が思うNSSOLの印象などもフランクにお伝えできますのでお気軽にどうぞ!


この記事が参加している募集

マーケティングの仕事

広報の仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?