『武器としての「資本論」』をエンジニアが読んだ感想

今回はエンジニアのキャリアに関して、最近読んで面白かった『武器としての「資本論」』を絡めて考えた内容。

エンジニアのキャリアと関わりがありそうな部分やメインフレームについて関係がありそうなところで印象に残ったところをまとめた感じ。

話の流れとしては、
1.市場価値を高める考え方って当たり前?
2.市場価値を高めるためになぜ新しい技術を習得するの?
3.新しい技術を生み出すイノベーションって何?
みたいな感じで書いた。

①「市場価値を高めよう」という考え

新自由主義、ネオリベラリズムの価値観とは、「人は資本にとって役に立つスキルや力を身につけて、はじめて価値が出てくる」という考え方です。

『武器としての「資本論」』  P71

エンジニアとしてのキャリアの中で何度か聞いたことがありそうな言葉。
この考え方がおかしくない、と思っていると言うことは新自由主義の考え方が染み込んでいる証拠かも…
(ちなみに、読んでいておかしいと思っていない自分に気づきドキリ…)

そのような考え方を持つ人間に関して、

肉体を資本によって包摂されているうちに、やがて資本主義の価値観を内面化した人間が出てくる。

『武器としての「資本論」』  P67

と書かれており、まさに自分もその一人なのだろうと感じた。

おそらく、ある程度、資本主義の価値観が内面化された状態で、他の価値観を使って自分を確認するのは難しそうなので、価値観が内面化される前の段階の話(新自由主義の前)について確認する必要がありそう…

前の段階については以下のように記述がある。

たぶん今「包摂」は、生産の過程、労働の過程を呑み込むだけでなく、人間の魂、全存在の包摂への向かっているということです。

『武器としての「資本論」』  P66

前段階では、工場での生産の仕方などが資本主義の考え方で変化していた。
そして、それが今では人々の内面にまで変化をもたらしているイメージ。
(具体例としてフォード社やトヨタの話が載っている)

個人的には、価値が出てくるかどうか(お金がたくさんもらえるかどうか)関係なく、ただ技術的な興味で生きているエンジニアには関係のない話だと思った。

逆に、流行りの技術、転職市場で評価される技術を意識して身につけているエンジニアについては、資本主義の価値観に染み付いている可能性があるので、『武器としての「資本論」』を読むことで、自分を客観的にみられるきっかけになる気がした。

『武器としての「資本論」』の著者も以下のように書いている。

世の中では、「自分の労働者としての価値を高めたいのなら、スキルアップが必要です」ということになっています。しかし、私が主張しているのは、「それは全然違う」ということです。

『武器としての「資本論」』  P278

スキルアップばかりが頭に浮かんでしまっている場合は、『武器としての「資本論」』を読んでみて、自分の状態を振り返るのもありな気がする…
(頭の中がスキルアップばかりで少ししんどくなっている場合など)

②新しい技術はなぜ人気?

スキルアップの手段として、新しい技術の取得が思い浮かぶ人は多いはず。
では、なぜ新しい技術を身につける必要があるのか?
『武器としての「資本論」』では、相対的剰余価値を生み出すため、と書かれている。相対的剰余価値は以下の通り。

相対的剰余価値とは、生産力あるいは生産性の向上によって実現されるものです。新しい技術を導入したり、組織の効率を高めたり、誰も参入していないニッチを発見したりといったことが相対的剰余価値の生産に寄与します。

『武器としての「資本論」』  P163

ここでメインフレームの仕事に着目すると、古くから動いているシステムの維持が多く、あまり相対的剰余価値のある仕事が少ないのでは?と感覚的に思った。

以下をメインフレームに当てはめて具体的に確認していき、
・新しい技術を導入→既存コードの安定稼働が目的のイメージ
・組織の効率→メインフレームで既存の効率性の維持を実施
・誰も参入していないニッチ→新規でメインフレームを使うイメージなし
というように判断。

逆に、WEB系の業界では、生産性の向上のため新技術の導入が進んでおり、そこに憧れて、メインフレームからWEB系の業界に転職する人が多い印象。

その辺りに関して、『武器としての「資本論」』では、生産性の向上に関しては一時的なもので、すぐに優位性が失われてしまうと説明されている。

そう考えると、メインフレームエンジニアの仕事は、資本主義にそぐわない感じがして面白いと感じた。
(メインフレームというよりも、運用保守の仕事が資本主義では評価されづらいのかもしれない…)

ちなみに、運用保守のように実際にいなくなったら、困るような仕事にについても、『武器としての「資本論」』の中で以下のように言及されている。

社会的有用度と、どのぐらいのお金をもらえているかという関係は反比例している。

『武器としての「資本論」』  P144

資本主義の考え方では、エッセンシャルワーカーの方が評価されづらい、という傾向があり、その傾向を察している人が多いからこそ、メインフレームの仕事に就活生が殺到するということは起こり得ないのかも…
(AIなどの特に今の生活になくてはならないものではないが…将来性がある仕事に人気が集まるのも相対的剰余価値から考えられそう…)

③イノベーションとは?

エンジニアが使う新しい技術は、IT企業のイノベーションから生まれていると考えた時に、イノベーションって何?という話になる。

「イノベーション」というやたらによく使われる言葉は、マルクスの用語で言えば、「特別剰余価値」の獲得を目指します。

『武器としての「資本論」』  P138

まず、イノベーションについて。
具体的に、メインフレームからのイノベーションといえば、クラウドへのシフトによる費用の削減などかな?(実際安くなるかは知らないが…)
「特別剰余価値」については以下の通り。

画期的イノベーションで生産コストが下がり、五万円だった製品を三万円にしても儲かるようになって、特別剰余価値が生まれた。でも他社がすぐに追いついてきた。

『武器としての「資本論」』  P141

要するに、新しいイノベーションが生まれても、すぐに模倣されて追いつかれて、もう一度引き離しても追いつかれての繰り返しになるということ。

メインフレームについては、IBMのほぼ一強状態になっているわけで、特別剰余価値の生産は起きていないイメージ。
一強状態に関しては以下のような記述があった。

この特別剰余価値の議論は、独占状態とはほど遠いほぼ完全な競争状態を想定しています。

『武器としての「資本論」』  P139

独占状態の例として、GAFAMなどが挙げられおり、特別剰余価値の期限が変化する可能性に言及していた。
歴史の長い企業が生み出す特別剰余価値について確認するのも面白そう。

IBMのメインフレームについても独占状態に近い。
メインフレームに関しては、既に競争が終わってしまっている印象。
(富士通がメインフレームから撤退するなど)
クラウドへのシフトがイノベーションとして残っているぐらいかな?
(クラウドのサービスが向上すればいつかはほぼシフトする気がする…)

というか、メインフレームエンジニアが減り続けることはほぼ確定(日本の労働人口が減るので)だと思うので、ある程度、クラウドに持っていかなければ、保守料金が許容範囲を超えてしまうのではないかと思ったりする…

最後に

キャッシュレスの話だったりシステムを発注する側と受注する側の話だったりがあり、IT系の話題に絡めて説明している部分が多かったので、理解が進んだ。

他にも読書の範囲を広げて、自分の仕事に絡めて理解を深めたい…!











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