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ヘルプマークの件を整理しておきたい (1)本人関与の是非

私は『無罪モラトリアム』が発売された頃から聴いている長年の椎名林檎ファンだ。すんごい今更ではあるけどヘルプマークの件をあらためて整理しておきたくなった。

あの騒動以降、ファンをやめるほど嫌いにもなれず、気持ちの整理がつかないまま何となく蓋をして、その後の活動も追ってはいた。でも事あるごとにあの嫌なモヤモヤが意識に上がるのだ。

上がらない時は問題ないという訳でもない。「ああそういえば」が増えた。前は即飛びついていた新着情報もだんだんと後回しにするようになった。0時公開の楽曲も翌晩まで聴かなくても平気になった。ああそういえばMV公開されてたな、と2日経ってようやく観ることもあった。
おそらくあのモヤモヤが無意識領域に滞留していて、意欲を半減させ、ファンとしての動きを鈍らせている。

以前読んだフロイト研究者の本に、"抑圧した衝動や感情が消えることはなく、それは絶えず発露の場を求め続け、いずれ何らかのかたちで噴出する。"とあった。この投稿はソレかもしれない。

一体アレをどう受け止めればよかったのか?どうすればこのモヤモヤを消してまた普通に嗜めるようになるのか?それはもう無理なのか?

長くなりそうなので、まず事実とその解釈の整理をして、次の記事で感情の整理、今後の向き合い方を考えてみたいと思う。

椎名林檎本人は『百薬の長』グッズ制作に関わっていないのか?

当該商品は、ユニバーサルミュージックが独自に企画立案し、制作、そして発売を弊社の責任・管理下のもと、進めていた作品となります。今回問題となった【UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤】の付属グッズは、椎名林檎本人が参画・監修した制作物ではありません。内容およびデザインについては、あくまで弊社が企画検討したものとなります。

ユニバーサルミュージック公式発表より抜粋

結論から言うと、私はこれは真っ赤な嘘だと思う。本人ががっつり参画・監修していたはずだ。以下、そう判断した材料7つを並べていく。

1.『音楽/01.孔雀』 についての発言(2021.6)

『三毒史』と『音楽』が地続きの物語であることが語られた。

『三毒史』のオープニングの「鶏と蛇と豚」で書いたリリックに答えはないようにしてあるので、そこでかき消していたお経を今回私が発声しているんですね。(中略)
『三毒史』は起こったことに対してスケッチしっぱなしで、東京事変はそれに対して議論し、お経が我々の三毒に届かず、三毒の方が勝って世の中にいろんな問題が蔓延しているけれど、それについて「大人だから考えてみましょうか?」というところから始めています。

FIGARO - 椎名林檎、東京事変10年ぶりのアルバム『音楽』を語る。

2.三毒と孔雀明王

孔雀は害虫やコブラなどの毒蛇を食べることから孔雀明王は「人々の災厄や苦痛を取り除く功徳」があるとされ信仰の対象となった。後年になると孔雀明王は毒を持つ生物を食べる=人間の煩悩の象徴である三毒(貪り・嗔り・痴行)を喰らって仏道に成就せしめる功徳がある仏という解釈が一般的になり…

Wikipedia - 孔雀明王

仏教の三毒を調べていれば自ずと孔雀明王に辿り着く。三毒をテーマにアルバムを作った林檎がこれを知らないとは考えにくい。事変のアイコンでもある『孔雀』にこの意味を重ねているんだろう。

3.『永遠の不在証明』MV(2020.4)

オープニングで孔雀明王を思わせる衣装を着た林檎が宇宙(天界)に出現
『鶏と蛇と豚』MVに登場した豚
を見据える林檎
花火は『鶏と蛇と豚』MVで鶏が打ち上げていた

前年にソロアルバムで描かれた三毒が蔓延する人の世を浄化(治療)するため天より現れた孔雀(東京事変)というストーリーが読み取れる。

4.タワレコのポスター(2021.12)

"用法用量お気になさらず左右の耳から服しましょう/椎名林檎"
医者のコスプレをして音楽を薬に例える。

5.事変グッズ"選ばれざる国民服"に同封されていた印刷物(2022.7)

強調される十字

6.そして、『百薬の長』(2022.11)

なぜ収録曲でもない『本能』のナース姿がキービジュアルなのか。上記の流れなら腑に落ちる。

東京事変の"再生"から『百薬の長』までを見ていて、ちょうどコロナ禍で病んだ世ということもあったのか、林檎は"医療"をキーワードにソロ活動とバンド活動を統合しようと企てているのでは?と推測していた。総合、からの統合?常に演者をやめたがっているし、2ついっぺんにパパっと終わらせていよいよ裏方へ?と。
再生以降、それまでは年ごとにキッチリ分けていた2つの活動が境なく混ざり始めた。繰り返される事変の医療イメージをソロ作品にまで繋げてきたように見えたので、次のライブは椎名林檎と東京事変がコンセプチャルに融合したTHE・グランドフィナーレ!なお祭りになるのでは?と妄想を膨らませたりもした。

以上の経緯から、このグッズがノータッチなんて、私にはとても信じられなかった。というかここまで具体的に挙げなくとも、長年の林檎ファンであれば「あれだけ毎回グッズの域を超えたガチプロダクトを拵える椎名林檎が自分の名を冠したグッズ制作に一切関わってないなんて、見てすらいないなんてあり得ない」と判断するだろう。こうやって1つ1つ並べてみると、やはり関わっていたとしか思えない。

7.【裏取り】"諸行無常"ツアー(2023.2)

あーだこーだと非難しながらも、今年の25周年ライブには参加した。古参ファンの惰力というものはおそろしい。"一応"というテンションではあった。
そして、公開されたグッズラインナップを見てギョッとした。モヤモヤ、上昇。

十字。この"鯖"シリーズだけに十字のステッチがあったのだ。
このステッチはカンヌキのような細幅の刺繍でもなくただの直線縫いで、派手な本体へのアクセントとしてはあまりに弱く半端で、作り途中に見えた。グッズなのになんのモチーフも乗ってない、その一点だけでも十分に不自然だ。商品として成立していない。

毎度饒舌な商品説明もなぜかど真ん中に配置された十字には一切触れない。(もちろん吉田カバンPOTRのマークではない)

今回の特殊開発グッズにおいてまさに異彩を放つのが、光りもの3アイテム。そのうちの、こちらは鯖パック。銀の光沢が眩しい、大ぶりかつ軽量のデイパックです。吉田カバンの新ブランド「POTR」(ピー・オー・ティー・アール)とのコラボレーションによって完成した商品のため、そのフォルムは比類のない魅力を湛えています。また左右両側からアクセスできる背面ポケットがあるので、スケボーやピアニカ、算盤やMIDI鍵盤などの持ち運びにも、たいへん重宝です。巷のデイパックは黒ばかり。そうお嘆きの貴兄にぴったりの、おいしそうな鯖パック。ぜひ街中で、プラウドください。

「椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常」特殊開発グッズ"鯖パック"商品説明

これは刺繍を乗せる為の印、重ねた生地がズレない為の仮止めであって、"夢語りマスク"の端にあったような十字ベースの凝った刺繍を乗せるつもりだったんじゃないか?それは権利侵害に当たり使えなくなったけど既に工程が進んでいて、跡がはっきり残る生地なので解くわけにもいかず、廃棄は大赤字なのでこのまま出すしかなかった、とかそういう事なんじゃないか?などと疑ってしまった。

このシルバーの質感のアクティブなアイテムに存在感ある十字のモチーフが乗ると、"防災"のイメージに寄らないだろうか?医療のイメージを拡張し、災禍に飲み込まれた世をサバイブする防災グッズとして打ち出すつもりだったのでは?
コンセプトが崩れたので質感を形容する以外なかったと。"おいしそうな鯖パック"って無文脈に突然鯖を差し出されてもどう味わえばいいか分かりませんよ。

このツアーグッズはいつもと違い何だかまとまりがなくチグハグで、間に合わせ、寄せ集め感がすごかった。ぽっかり空いた穴に児玉さんの趣味が気ままに流れ込んだ印象。十字ゴリ押しで考えていたけど使えないって言われ不貞腐れ「もーいーやー児玉の好きにやったらー?」と投げやりになった林檎が見えた。完璧主義者は10がダメなら0なのだ。ストライプの復刻タオルが特に解せない。十字タオルの代わりに用意されたとしか思えない。

ライブに行き、ステージが照らされた瞬間、同行者と顔を見合わせ思わずもれた。「ほらやっぱり」

それにしても当たり前のように多用されてる化学式(リンゴ酸マーク)も出所は百薬グッズなわけで、それはユニバーサルが勝手にやったことですと言っておきながらまったく別企画の自社開発グッズでしれっと使う、その神経の図太さ、商魂逞しさには相変わらず感心する。

人一倍グッズにこだわる椎名林檎がグッズ制作に一切関与しないほど『百薬の長』には作品として思い入れが無く、化学式もあちらが勝手に作ったものだと。
そんないい加減なものを節目の大事なツアーを象徴するアイコンに採用するだろうか?

"諸行無常"にも違和感がある。これまでの彼奴等ツアーの"百鬼夜行"や"真空地帯"と比べ、"諸行無常"はツアーコンセプトとしてちょっと弱くないか。林檎が普段から挨拶みたいに使ってるあまりに聞き慣れた言葉だ。

周年ライブだから思想の軸となる椎名林檎ベーシックな言葉を?過去の周年を思い出してもらいたい。「林檎博」「党大会」「不惑の余裕」…ベーシックだろうか。むしろ初めて用いられる言葉だった。頓智の効いたタイトリングもツアー発表のひとつの楽しみだが、今回は普通すぎてなんの面白味もない。

元々のコンセプトが使えなくなったから間に合わせで持ってきた感がこちらにもあるのだ。
化学式に諸行無常、意味が分からない。見た瞬間引っ掛かる。チグハグだ。時の流れがテーマなら、ロゴにあるような矢印や時計のモチーフなど持ってきそうなものだが。なぜ化学式?分子レベルで見ると万物は絶えず流転してるから?遠すぎる。そんな芸術家みたいなアプローチは椎名林檎×木村豊らしくない。
化学式は省けばいいと思うが、そうすると(後付けの)タイトルだけが浮いてしまう。すでに量産済みの手旗との乖離を避ける為にもこのカラーとレイアウトにせざるを得なかった、と読み取れる。

過去のツアーロゴはまとまっていて、調和している。何の引っ掛かりもなく、コンセプトが直感的に伝わる。

ん、よく見ると「椎名林檎と彼奴等~」の部分は真空地帯ロゴの使いまわしじゃないか。字体も字間も同じ。調べると高速道路用のフォントだった。矢印を使った標識風のロゴに合うからと同じものを選んだのかもしれないが、文字組みやレイアウトまで同じにするだろうか。

コンセプトに捻りがなくデザインもツギハギ。「急に差し替えることになったけど時間が足りなかった」と書いてあるロゴだ。
この"諸行無常"、騒動からの流れを踏まえると「あそこに留まっていないで、水に流してよ、もう忘れてよ」と訴えているように私には思えた。

*

考えれば考えるほど確信は強まっていった。
準備は整った。これを前提として、次の記事で本題に入っていこうと思う。

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