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御遺体回収し〼(報酬歩合、応相談)

「蘇生できない? 話が違うぞ」
 俺は公共ダンジョンから先刻回収してきたばかりの死体を前に、顔見知りのクレリックへと詰め寄った。転がっているのは最近頭角を現し始めたのパーティのリーダーだ。ダンジョンで下手を打った輩の死体を回収し、見返りに金銭を受け取るのが俺の仕事だった。
「ダンジョンへの入場許可証も正規に取得した真っ当な人間だ、お前の教会で洗礼を受けていることも確認している。お前がケツを持たねぇんなら、誰にこのバカを押し付けろってんだ」
「君の言う事はごもっともなんだけれどね」
 酒焼けした声なのは、また朝まで呑んでいたからだろう。どれだけ取り繕おうとも、こいつの本性は借金まみれのアル中だ。
「極東で我らが大天主公教と、地元の宗教とが対立しているのは知っているかい?」
「ケチな小競り合いだろ、御神体の隕石が誰のものかでモメてるって話」
「あれのお陰で、我らが主は臍をお曲げ遊ばされた。かの宗教の信者には加護を御下賜なさらないそうだ」
「コイツは宗旨替えしたんだろう?」
「恐らく彼は高位の司祭の関係者だ、洗礼程度じゃ向こうも手放さない。放蕩息子が異国のダンジョン見たさで密入国したとかじゃない?」
 信じられんほど尻の穴が狹い話だ。それで「天の主」とは恐れ入る。
「どうする? 蘇生できなくても役所から手間賃くらいは貰えるだろ」
「公定通貨だろ、ケツ拭く紙にもならねぇ」
 こうなれば他の宗派に属するシャーマンか拝み屋を当たるしかない。経費はかかるが、蘇生払いのツケにするか。
「なら気を付けた方がいい。彼の死体を調べたんだけれど、死ぬ直前に何か毒物を吸引しているよ。モンスターが使うものじゃなく暗殺者が使うような――」
 その時、部屋の窓を割って何かが飛び込んできた。何か白い煙を吐き出し続けている。
「丁度こういうガス状のかな」
「言ってる場合か!」
 俺は死体を担ぎ上げ、煙を吐くそれを蹴り出した。早くここから逃げねば。(続く/795文字)

甲冑積立金にします。