見出し画像

涅槃はどこだ。

最強の剣技とは何か? 簡単だ。
誰にも気付かれない速さで。
誰にも止められない威力を。
誰にも阻まれない鋭さで打ち込めばいい。

「先生、お時間です」

だが、これを実現できるのは最早人間ではない。究極の一太刀を為すために己を、己の人生を、いや子々孫々すら犠牲にできるのは最早人ではない。人未満の畜生か、人を超越した神だけだ。そして我が一族の悲願は、俺を以て結実した。

間合いだの術理だの、畢竟そこへ至らない凡人の無駄な努力だ。剣豪?剣聖?笑止。俺は、剣神だ。

「あの、そろそろいいですか?」

そんな俺も病魔には勝てなかった。当然だ、俺の一族は命を省みぬ修業を続け、無茶な交配を繰り返してきた。夭折した者は数知れず、墓すら無い者も多い。
剣ではなく不治の病に負けたことが果たして救いだったのか――

「もしもーし」
「やかましい、まだモノローグの途中だろうが」

俺はため息をつくとスーツを纏った二人の弟子へ振り向く。片方はゾンビで、もう片方はサイボーグだ。
新進気鋭の生命工学産業・Zバイオテクニカ社員。
老舗のロボットメーカー・那智機人工業社員。
共に人造兵士を製造する二社は、俺の死が近いことを知って「どうか弊社に検体を!」とぬかしおった。余程人の心がないと見える。何人かなます斬りにして追い返したが、その度にアップデートされて再訪するのでこちらが先に折れてしまった。

問題はどちらの会社に検体をするかだ。そこで俺は両社に技術の粋を集めた社員を作らせた。そいつらに俺の技を伝授して死合わせ、勝った方の会社に検体する。そういう手はずだった。

今日こそは二人が立ち合い、互いの優劣を決める。両社の代表が刀を構えるのを見届け、始め、と一声を発しようとした時。
「待った!」
波濤と共に突如現れた(ここは内陸だ)、ちょっとヌメヌメしたサラリーマンが叫ぶ。
「その勝負、我ら海洋覇権を担うS.H.A.R.K Inc.が預かる!」(続く/788文字)

甲冑積立金にします。