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帝都霊戦記・隠剣不始末

拝啓
 久しく御無沙汰しておりますがその後いかがお過ごしでしょうか。かねてよりお伺いしたいと思っておりますが、このような形での御挨拶となることをどうかお許し下さい。

 あの痛ましい惨事から早三年。黄泉戸が開き、生者も死者も等しく徘徊するような混沌の中にあって、皆様の御活躍はいっそう輝いて見えました。
 竜造寺のお嬢様が繰る並列分散化け猫の群れ、口寄せ薬莢を次々と入れ替えながら猛進する恐山の頭領、平家の落ち武者の亡霊と手を取るに至った芳一の後を継ぐ阿弥陀寺の琵琶法師たち、サナト・クマラの導きにより黒い翼で京都の空を駆ける秘刹の門跡、隠れキリシタンの中で信仰が変質しても研鑽を失わなかった武装宣教師、付喪神の甲冑絡繰を纏った神祇院の若き公僕達。何れ劣らぬ験力を備えた英傑の中にあっても、桁違いの活躍を見せた蕃神神社の跡取り殿。旁のお姿は、目蓋を閉じれば今もありありと思い出せます。今なお■■■公の影響は色濃く、こうして名を伏せねば言葉すら呪に変わりかねない状況ですが、皆様のお力添えなくしては、この国が今もなお現世に留まることはできなかったでしょう。
 さて、以前より一度お尋ねせねばと思っていたのですが、

我が師にして姉 貴布禰の刻子の死について 知っていることを全て話せ

 バレるはずがない。自分に言い聞かせるも、震えは止まらなかった。忌々しい手紙を流しに放り込むと、湿気たマッチで火を着ける。最低限の荷物と仕事道具をまとめながら、脳内でアタリを付け始めた。誰が裏切った、誰なら匿ってくれる、誰なら――刻子の後継者に勝てる?

 ドアノブに手を掛けた時、目線の高さに何かがあることに気が付いた。錆びた釘で打ち付けられているのは、薄汚れた藁人形。

「その様子だと、さぞ愉快な話を聞かせてくれるんだろう?」

 背後から涼やかな女の声。振り向きざまに放とうとしたキサラギ流の紙人形は、それを持つ手ごと飛来した五寸釘に貫かれた。(続く/797文字)

甲冑積立金にします。