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絶望缶と希望缶


「絶望缶」

ホットコーヒーを買おうと100円で買える自販機を探す。最近はコンビニの缶コーヒーも高いからな。そう思いながら男は寒空のもとを歩いて100円自販機を探していた。こんな時に限って見つからない。ふと見ると目の前に自販機が現れた。100円の表示の代わりに「絶望」の文字がならんでいる。いたずらなのか。支払いが「絶望」とはどういう意味だろうか。とりあえずいつもの習慣で硬貨を入れる投入口に100円玉を入れる。

チャリン
チャリン

入れた硬貨が返却口から返却された。
チッ!なんだよ。自販機すら俺を拒否しやがる。再び投入口に入れてもまた硬貨が出てくる。なんだよくそっ!ガンっと軽く横から蹴りを入れた。二度目の蹴りを入れようとすると機械的な声が流れてきた。「スピーカーから音声による絶望を話して支払いを完了してください」
なんだなんだ?他社との差別化だかなんだかわかんねえが普通に買いたいんだよ。
めんどくせえ!
だがどうせ暇な俺だった。ひとつ付き合って見たところで大きな損はないだろう。
俺はスピーカーに顔を近づけて喋ってみた。
「あー、あー、聞こえますか?本日は悪天なり。先週わたしの経営する会社は巷で噂の世界的バイオハザードの影響を受けて倒産しました。おかげでわたしは来月から無職です。住宅ローンが3千万ほどと会社の債務が約8千万と個人的な借金が3百万あります。妻は以前から別居しており先日離婚届が送られてきましたね。もう首を括ろうかと思っています。」
俺は話を盛った。会社は倒産しそうだといえばウソになる。気持ち的には毎月毎月追い詰められていて、最近は本当に厳しいことは事実である。
シンとした夜の空気が流れていた。
突然、「ガタン」と何かが落ちてきた。見ると取り出し口の一番端の方に辛うじて缶らしきものが確認できた。かがんで取り出し口の奥まで手を突っ込んでみる。自販機の取り出し口とはなぜこのように取り出しにくいのか?と考えながら手にした缶はわずかな街灯の灯りに照らされてレインボー模様の缶が光っている。しかし品名もロゴも会社名も見当たらない。どうする。とてつもなく怪しいが飲んでも安全なのだろうか。
いや、やめておくべきだよな。俺はとりあえず缶をポケットに入れて歩き出した。

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