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「すずめの戸締り」を観た

ついさっき渋谷の映画館で観てきた。
土曜の朝早い時間帯だったので比較的空いていて観やすかった。

感想を一言で表すと映像の力がすごかった。

冒頭にあった、異世界っぽい落ちてきそうなくらい澄んだ空と、足元で揺れる草花の描写、空と草花の間にある何十キロ分もある冷たい空気の層などが表現されていた。見ているだけで肌寒い感じがした。

また、映画館で観たせいなのか、環境音(外のざわめき、風の音)が地盤ごと響いているような重低音が強めに感じられ、それがなんとなく物語の根幹と重なっているようにも思った。

前作同様サービス精神の塊のような分かりやすいストーリー展開に、大人向けのテーマも含まれていた。そのあたりのバランス感覚が絶妙で彼は完全に商業映画の監督になりきらず、アーティスティックな新海誠も存在していた。すごい。

ターゲットは小学生からその親までカバーしていると思う。
ちょっと難しいけどキャッチ―なアニメ映画。かつて宮崎駿がやっていたこポジションを獲得しにいっている、というかこの映画で獲得したような気もした。

映像の力はどういうところに一番現れるかというと、僕の勝手な意見だと「物語がピアニッシモな状態」に現れると思う。大して重要ではなさそうな、人物も音楽もそれほど盛り上がっておらず、下手すると眠く感じられてしまうような場面である。そういう「なんもない時間」にどれだけ興味を引ける映像を作れるかが腕の見せ所だと思う。

今作には戦闘シーンみたいなのもあって、エヴァンゲリオンみたいな派手な演出もあったが、新海誠が得意なのは戦闘の迫力などではなくやはり「現実の環境を描き、そこに意味を与える」ことだと思う。
冒頭の異世界っぽい場面では、冒頭ということもあり視聴者は集中しているし、新海誠の気合いもすごい入ってる場面なので、まぁそこは当然120点でクリアしてくる。

では今作のピアニッシモな時間はいつだったかというと、舞台が移動した直後の最初のカットだったと思う。
今作は舞台が九州の宮崎から始まり、愛媛、神戸、東京、福島?へと移動していく。当然、その土地を象徴する背景のカットがあり、主人公はそこが初めての土地なので新鮮さを感じる。その瞬間だけ物語は停止し「主人公が初めての土地にわくわくする時間」になる。

また、主人公がわくわくしていなくても観る側はほぼ必ず「あっ、知ってる!」となるであろう場所が多く、観る側が思い出しやすいキャッチ―なアングルで描かれている。駅名まではっきり書いてあったりして、サービス精神がすごい。明石海峡大橋や東京医科歯科大学などもあった。
その時のその土地の背景の描き方に非常に愛があるというか、丁寧に描いてくれていて、そこに一番感動した。
丁寧であるからといってやたらと精細で高画質な訳ではない。作画の作業量的にはそこまで多くはないと思うが、なんだろう、背景の色彩のちょっと敢えてぼやっとさせてある色味がなんか落ち着くというか、地元を見ているような安心感があった。

その現実の丁寧さの連続により、現実という基礎を定着させることで、その後起きる超常現象的なことと現実をシームレスに接続している。
現実の基礎がしっかりしているので、その上で怖いことが起きると「マジで起こりそう」みたいなリアリティが生まれる。



今までの新海は都市を現実より美しくデフォルメして、「僕たちが生きてる世界はこんなにも美しい」的なスタンスで極限までモリモリのキラキラだったと思うが、今回はそれも含めつつ、「僕たちが生きている世界でこんなにもヤバいことが起きるかもしれない」という警告の意味を持つ背景になっている気がした。

でもそこが全然押しつけがましくなく、自然で、台詞での状況説明もかなり少なかった。やはり、映像で伝えるというか、説得力のあるカット1枚で「バン!!」という、相当絵やレイアウトに自信があるのだろうなと思い、新海誠の成熟と自信を感じた。

また、今作は秒速5センチメートルの時のような新海自身の経験がおそらくあまり投影されていない気がした。その分、スタッフたちと楽しく映画を作っている感じがして、健康的なアニメ監督だなぁと思った。
道案内をするちょい役みたいな人物も何名かいて、そのキャラデザインなども今までの作品よりもラフで、新海ではなく1から他のスタッフがデザインしたような軽さがあった。

彼のような素晴らしい能力を持つ監督の新作を見れてハッピーだった。

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